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大衆酒場レインカラー(学芸大学)は焼き鳥もある舞台のような魅せる酒場。計算され尽した料理の数々に驚きの連続でした。

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学芸大学駅から徒歩2分。西口商店街の一本裏手、飲食店が軒を連ねる裏路地に大衆酒場レインカラーというお店があります。ワイン食堂レインカラーの2号店です。店主は手島義朋さん。愛称・てっしー。2019年9月20日にオープンしました。

オープン日からずっと大賑わい。こうなるだろうことはわかっていたので、オープンして2週間ほど経った頃に行きました。

※2023年4月19日より焼き鳥も始まりました。詳細は下記参照。

ガラス扉とロの字カウンター

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前面はすべてガラス扉。表から中がすべて見えます。

「落ち着いた頃に来てくれましたねw」

「いやぁ、まだまだ落ち着いてないでしょうw」

てっしーには落ち着いた頃に行くねと伝えていたのですが、この2週間、どれだけジリジリしていたかw

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大きなロ(ろ)の字のカウンター。手前と壁際は立ち飲み、カウンターの他にテーブル席も。全部で45席。シンプルでオシャレな内装です。

「ロの字というのがいいね。てっしーが考えたの?」

「はい。実はあまりないですよね」

この後に行ったバーで知り合いの"センセー"に聞いたのですが、店舗デザインは鳥せんと同じ方だそう。

「てことは、鳥せんもひとひらもセンセーの後輩なんですね。どちらかというとひとひらっぽく感じました。いいですねぇ」

「なんで俺にやらせてくれないんだ!と怒ってんだよ!w」(センセー)

ははは。ま、話を大衆酒場レインカラーへと戻しましょう。

引いて足す料理

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面白いな。レモン(90円)、中/なか(100円)、外/そと(300円)、全部足せば490円のレモンサワーになるということか。中を一度おかわりすれば、590円で2杯。1杯あたり295円。

※最新のメニューは下記参照(焼き鳥のパート)。

taishusakaba-raincolorの画像 ばん的レモンサワーを飲みながら、メニューをじっくり見ます。

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魅力的なメニューばかり。レバ刺し、ガツ刺しかぁ。いいねぇ。

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ん?

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な、な!

「猪、熊、鹿、全部ちょうだい」

「あははは」

「面白い?w」

「そんな頼み方する人いませんもんw」

「そうなんだ。こういうの好きでさ。猪、熊、鹿……花札みたいだねw」

ジビエとか大好き。クセのあるもの大好き。クセとくさいは違いますからね。

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まずは熊の土手煮。

「熊肉豆腐というのをやってたんですけど、今日は土手煮。八丁味噌を使ってます」

ひと口でわかります。熊肉の素性のよさが。

「誰か知り合いでもいるの?」

「はい。北海道・紋別のヒグマです。鹿もそうなんですが、脳天を撃ち抜かないとダメなんです。そうしないと血が回っちゃうから。腕が相当よくないといけないんですよ」

色は濃いですが、味付けはそこまで濃くないので、熊をしっかり味わえます。熊を食べたことは片手で数えられる程度。ですから、偉そうなことは言えないのですが、この熊は肉自体がおいしいです。噛めば噛むほど、滋味いっぱいのおいしさがジワリ。

「いやー、おいしいねー」

「おいしい頂きましたー!w」

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猪ピー。「いのぴー」と読むんだろうな。最初は何だかわからなかったのですが、来て了解w

ひと口。あっ。

「味をあまり入れてないでしょう」

「普通は塩を1.1%使うんですが、僕は0.8%。あまり使いたくないんですよねぇ。これは罠で獲られたものです」

塩味(えんみ)もそうなんですが、こういう類にはハーブやスパイスをふんだんに使いがち。けど、そういうことをせず素材を食べさせる。すごいなぁ。

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もちろんこうします。ばんのなんこつつくねのように。ブリッとしたソーセージ状の猪は肉感たっぷりで野趣あふれる味わい。マスタードの酸味・塩味でちょうどいい塩梅に。うまいなぁ。

大衆酒場レインカラーのメイン画像・鹿のハンバーグ

鹿のハンバーグ。これも同じだ。ちゃんと肉本来の味がわかる。肉々しい。

「普通は脂を混ぜるんですが、これは完全に赤身だけ。下はサツマイモです」

サツマイモと一緒に食べると、甘味が加わってちょうどいい具合になります。また、脂を加えていないこともあって、ジューシーさには欠けるのですが、マッシュされたサツマイモの滑らかさがこれを補います。そもそもジューシーでなきゃいけないわけではないんだけど。

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引き算と足し算なんだな。まずは引いて極力シンプルにしつつ、他の物を組み合わせることで、料理を完成させています。上手だ。そして、素材(および生産者)に対する愛/リスペクトなんだろうな。

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それにしても、目の前で繰り広げられるライブが楽し過ぎます。あれはなんだ? メニューを見る。あ、フグなんだ。フグを天ぷらにしてカラスミをまぶすのか。盛り方もいいなぁ。

「彼(料理人)が宮崎なんですよ。だから鶏南蛮もおいしいですよ」

「さすがに今日は無理だから、今度またw」

「もちろんw ぜひ」

理で演出される驚き

いつもならこれくらいにしておくところですが、もうひとつ強烈に惹かれるメニューがありました。さすがにこれは頼まないわけにはいきません。

「〆鯖とクレソンのポテトサラダください」

私が一番好きな魚・サバ。それをポテサラに? なんてことをしてくれるんだw

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メニューを見て驚いたわけですが、口にして変に納得させられもしました。ああ、そういうことかと。

発想はツナと同じなんですね。けど、それに〆鯖の酢の酸味と鯖自体の風味が加わって、ポテトサラダがふくよかになっています。ツナではこうはならないでしょう。〆鯖とポテサラがこんなにも合うとは……。

そして見逃せないのがクレソンの存在です。変な言い方ですが、〆鯖とポテサラだけだとまとまりすぎる。ある意味、合い過ぎちゃうんですよ。これはこれで悪くはないのですが、ひとつアクセントを加えたくなるところ。そこでチョイスするのがクレソンの香ばしさ。ナッツやゴマ、ニンニクチップあたりでもいいんだろうけど、クレソンかぁ。いやぁ、なるほどなぁ。

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〆鯖ポテサラをひと口食べて、日本酒が合うだろうと判断。ポルチーニという見たことも聞いたこともない日本酒を頼みました。

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みいの寿(福岡)の純米吟醸。別にポルチーニが使われているわけではありません。リキュールかと思うほどの甘さ。この味、超好き。そして〆鯖ポテサラに甘い日本酒が超合う。おいしさが格段に広がります。やばいなこりゃ。

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前出のセンセーは「センスがいい」と評していました。なるほど確かにそう思います。そして付け加えるなら、一品一品に意図を感じさせます。思想がある。また、パッと見は驚きがあって楽しいのですが、食べてみると理にかなっているとも思わせます。すごいなぁ。

「なんで店名を同じにしたの?」

「唯一無二だからw 本当は学大以外で出そうと思ってたんです。けど、ここをときおさん(ひとひら店主)が紹介してくれまして」

聞きたいことはあと20ほどありました。けど、忙しく動いてるし、あまりインタビューぽくもしたくない。グッと質問を飲み込み、お会計。4430円でした。お通しは300円かな。

素材のよさが表れてる焼き鳥

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2023年4月19日より焼き鳥も始まりました。

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こちらが最新のメニュー(2023年4月19日時点)。

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よだれささみパクチー、かしわ、せせり、手羽元、つくね。以上は塩。以下はタレです。

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皮、レバー、背肝。

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ちょうちんが薄いサーロインに包まれた和牛サーロインとちょうちん。

鶏は丹波赤どり。味が濃くて、鶏のうまみがしっかり感じられます。

まだ始まったばかりなので、塩の加減やタレの具合が安定していません。肉が濃厚なので余計に塩味・甘みが弱く感じられます。ただ、この辺りは好みもあるでしょうし、お客さんの反応を見て調整していくことになるのでしょう。

いずれにせよ、肉自体はとてもおいしかったです。

学芸大学と上昇気流

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2019年に竣工したこの建物には1階と2階、ふたつの物件があるわけですが、いずれも飲食店の独立・開発支援を手掛ける(株)上昇気流の物件です。ひとひら、トラットリア夷、鳥せんが入っているYKⅡビルも、ばりき屋もそう。

ただ、私が知る限りここはかなりのイレギュラー。というのも、上昇気流は既存の居抜き物件を扱うのが基本だからです。新築物件を扱うことはほとんどないはず。

なぜ、上昇気流は新築に手を出すというイレギュラーなことをしたのでしょう。これまた私の想像ですが、ひとひら、鳥せん、ばりき屋の成功を目の当たりにして、上昇気流は「学大ヤベェ」と感じたはず。だからこそ新築であっても物件を押さえたのです。

逆に、上昇気流というそれはそれはすごい飲食のプロが手を出したくなる、学大がそういう状況にあるということです。

ちなみに、上昇気流は独立支援がメインですから、2号店で上昇気流を利用するというのもレアケースだと思います。大衆酒場レインカラーがオープンする数ヶ月前、てっしーに聞きました。なんで?と。

「料理はもちろん、仕入れや経営のこととかも学べると思って」

貪欲。すごい。こういう向上心が料理やサービスにも表れてるんだろうなぁ。

※YKⅡビルも居抜きではなく、新たに飲食物件を3つ作ったという意味では、新築に似たニュアンスではあります

※2020年10月30日追記:その後、状況が少し変わりました。2号店で上昇気流を利用するというケースが増えてきたのです。その理由は想像に難くないのですが、書き出すと長くなるので略w

大衆酒場の意味

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一般的に大衆酒場は庶民的な料理を出す、比較的安い酒場のことを指します。戦後、東京で生まれました。外形的には店頭に提灯が下がり、暖簾があって、女将さんや大将がいて、少人数で店を回し、カウンター席がメイン。店と客の距離が近い、常連が多いというイメージもあるかもしれません。

最近ではネオ大衆酒場と呼ばれるお店も増えてます。趣はレトロに、けど、料理はオシャレで凝っていて、若者や女性でも気軽に寄れる酒場です。学芸大学なら、ひとひら、ばりき屋、ととろう。浮雲鳩乃湯などなど。学大角打アオギリ(現呑家)が先駆的立場と言えるかもしれません。

ロの字カウンターという舞台

大衆酒場で多いのはコの字カウンター。基本的には店の都合、動線の問題です。一人客が多いとコの字カウンターで席を設けるのが効率的という面もあるか。

一方、洋ではたまに見かけますが、和ではあまりないロの字カウンターは見せる≒魅せるということがその意義でしょう。

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この物件がまだ決まっていない頃、シャッターに貼られていた上昇気流の告知

路地裏は商売人の表舞台

いいキャッチフレーズだ。そして大衆酒場レインカラーがまさにそうなりました。

ロの字カウンターという舞台で繰り広げられる調理という舞い。演者たちは舞台上から客の反応を見て、客もまた演者たちの舞いを見る。

そう。見せる/見る。ここがポイントでしょう。飲食店全般に言えることですが、特に昨今のネオ酒場はここを重要視しています。大衆酒場レインカラーもそうなんですが、ひとひら、ばりき屋、学大角打、鳩乃湯も店頭は全面ガラス張りでしょう。なぜなら見せるためです。

店が食事を出す。それを客が食べる。飲食店は単にそれだけのものじゃない。いや、そんなことよりももっと重要なことがある。お客さんに安心してもらうため、親近感を持ってもらうためには、見せなきゃいけない。それは何も店内の雰囲気や料理だけの話ではありません。人も見せる。心も見せる。

人を見せれば、人を見せてくれる。心を見せれば、心を見せてくれる。こうして店と客がつながり、そして通ってもらえるようになる、と。

きっと大衆酒場レインカラーも同じように考えたはず。単にパフォーマンスを見せたいということじゃないんです。包み隠さずすべての調理工程を見せることで、信頼感を寄せてもらいたい。全方位へ目を配り、全方位から見てもらい、できるだけ多くコミュニケーションを取ることで、店を近くに感じてもらいたい。人を感じてもらいたい。そういう願いを込めた舞台、それが大衆酒場レインカラーなのです――いや、俺の勝手な想像なんだけどねw

友達二人でおしゃべりしながら、おいしい料理とおいしいお酒。それはそれで構いません。けどね、ここは舞台なんです。ちょっとでいいから、舞台に目を向けてみて下さい。もし可能なら、演者に話しかけてみてもいいでしょう。そうすると、おいしい料理はもっと味わい深く、おいしいお酒はもっと楽しくなるはずです。

参考サイト/KEIEISHA TERRACE:路地裏から世界を沸かす!飲食業の独立・開店支援で人と街を輝かせる。【前編】(株式会社上昇気流 代表取締役社長 笹田隆氏)

二軒目という選択肢(追記)

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後日、再訪。勧められたものの食べられなかった鶏南蛮を頂きました。酸味控えめで甘めで濃厚。パンチがあります。タルタルのまったり感が全体をまとめます。ボリュームもしっかり。うまっ。

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訪れたのは0:00。ほぼ満席でした。大賑わい。

カウンター席がかろうじてひとつ空いていたのですが、あえてスタンディング。目の前の調理光景を見たかったから。三軒目に寄ったので、サクッと一杯で帰ろうとしていたから。

ただ……。

「今日はロバがありますよ」

なぬっ! けど、今日は一杯一品と決めていました。断腸の思いで「またいつか」と応え、後ろ髪を引かれて店を後に。

少々の物足りなさが再訪を誘う――二軒目としてサクっというのもいいかもねー。

ワクワクさせてくれる料理

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追記。

出てきた瞬間、「わっ」と笑顔になれる、ワクワクさせてくれる料理の数々。人気なのもうなずけます。

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