学芸大学駅から徒歩1分。東口の恭文堂書店を曲がった先に炭焼 鳥せんという焼き鳥屋があります。2016年6月5日にオープンしました。三軒茶屋の栄通り商店街には2号店・酒羅場があります(2020年7月下旬オープン)。
1階のひとひら、2階のトラットリア夷とほぼ同時期にオープンしたのですが、それもそのはず、このビルは上昇気流という飲食コンサル・開業支援会社の物件だから。
この記事は2章にわかれています。まずはオープン当初の話(2016年6月16日執筆)。次にオープンして3年ほど経った頃の話(2019年4月11日執筆)。焼き鳥に関しては、まったく別の店となりました。最後までお読み頂ければと。
オープン当初の鳥せんは上品
バックボーン(後述)を知っていて気にもなっていたので、友人と二人で行ってみました。
まだ新築の香りがする店内はコンクリート打ちっぱなしでスタイリッシュ。パッと見はイタリアンでも出てきそうな雰囲気です。
生レモンサワーを飲みつつ、お通しのセロリをつまみます。セロリを梅肉とダシで和えているのですが、こいつがとてもうまい。しっかりとセロリの風味を残しながら、梅肉とは思わせないほどの酸味で〆る。ダシのうまみとセロリの食感もいい。いつかマネしてみよ。
メニューはこんな感じ。
まずはおまかせ前菜三品盛り
薫玉ポテトサラダ、カブ、リコッタチーズ(バゲット付)。控えめな味付けなんですが、「おっ、これはどうしてるんだろう」と思わる繊細さがあります。
続いて焼き鳥。青森のシャモロックだそうです。おまかせ5本でお願いしました。
柚子しそささみ。火の入れ具合、塩加減がちょうどいい。
骨を取った手羽先。表面はパリッ、中はふっくら。
コリっとした歯ごたえが気持ちいい砂肝。
大ぶりのズッキーニにはソースがかかっています。なんのソースだったかな。アツアツでジューシー。
甘いタレのつくねは滑らかでプリップリ。2杯目に頼んだ柚子蜜サワーもうまい。
「三軒茶屋のブラジリアン食堂 BANCHOですよね」
「よくご存じですね」
「お二人とも?」
「私は三軒茶屋で彼(焼き方さん)は池袋の焼き鳥屋にいました。学芸大学のことはまったくわからないんですが、三軒茶屋と雰囲気が似てますね」
「似てるっちゃあ似てるけど、ちょっと違うと言えば違う(笑)」
「学大のほうがギュッとまとまってる感じですかね」
「三茶は広いですよね」
「飲食店やられてるんですか?」
「よく言われますが、ぜんぜん違います(笑)」
その時は言いませんでしたが、ブラジリアン食堂 BANCHOによく行っている子から、同店の話はよく聞いていて、一度行ってみたいと思っていたんです。そうしたら、やってらっしゃる方の内の一人が独立して学大に店を出すと知り、上述のような話しぶりになったというわけです。
それはさて置き、とても気持ちのいい方です。人あたりがよく、とても話しやすい方。
「こちら、もしよければどうぞ」
たまたま友人とコアントローの話をしていたら、コアントローを使ったサングリアがあるといって、少しサービスで頂きました。甘さは控えめで、フルーツの香り、コアントローのかすかな苦みがさっぱりさせてくれます。うまいなこりゃ。
友人がねぎまも食べてみたいというのでお願いしました。ねぎまはタレで出すのだそう。
プリッとした正肉はあっさりめの味わい。塩でもいいんでしょうけど、これならタレのほうがいいのかも。
全体的に焼き鳥は上品。味わいもサイズ感も。炭火ですがモクモクしていないし、匂いがつく心配もそれほどなさそう。
ひと組いた先客が帰り際、リ・カーリカでここをすすめられて来たと言っていました。ふむ、他所でも評判になっているのか。カウンターに戻って来た店主と再び会話します。
「学大にお住まいですか?」
「ええ」
「この辺りはよく行かれます?」
「ええ」
「十字街って言うんですか? あそこにいい居酒屋があるって話を聞いたんですが。看板がないような店で、なんて言ったっけ……」
「アオギリ(現呑家)ですかね」
「そうです。そうです。どんなお店ですか? この前、行こうとしたら混んでて入れなかったんですよ」
「おいしいですよ。安いし。魚メインなんですが、もし行ったら鳥唐をぜひ。この界隈で一番うまい鳥唐だと思います」
いや、ほんと。
「そうなんですか。他にどこかおすすめありますか?」
「さいとう屋ですね」
いや、ほんと。
「さいとう屋……。メモっておこ」
こうして店と店が、人と人がつながるんだなぁ。それが学大の面白いところ。
トイレから戻って来た友人が、トイレの香りがすごくいいと絶賛。そういうのも大切ですよね。
店を出ても、友人は「めっちゃおいしかった」と感激しっぱなし。あの雰囲気もいいし、料理の出し方もいいし、器もシャレてるし、特に女性は好きそうだよなぁ。そういや、棚に並んでいたのはレピス・エピス(lepice et epice)のスパイスかな。ああいうのもオシャレ。
デートで雰囲気のある焼き鳥屋に行きたい。そんな時は候補のひとつに加えてみて下さい。きっと喜ばれると思いますよ。
予約必須の人気店となった鳥せんはパワフル
久々に鳥せんへ。1年以上ぶり。
店の扉を開けたのは平日の19:30ごろ。カウンターもテーブルもぎっしり。かろうじて1席用意してもらえました。
お通しの塩辛に合わせてあるのはザクザクの鬼おろし。うーん、赤星ではなく日本酒だったかな。
生つくねユッケ(生つくね刺し?)。ネギとしょうががきいた生つくねに甘い焼き鳥のタレ。うわぁ。こりゃうまいなぁ。
五本盛りの一本目、ささみわさび。なーるほど。噂には聞いていたけど、こういうことか。
鳥せんは完全に違う店になった。そう言っても過言じゃない。もちろんいい意味で。まだ食べてないけど見りゃわかる。
大ぶりなささみは、ひと口目で「おっ」とのけぞります。炭です。炭の香りがすごい。備長炭を使っているようなので、そりゃ炭の香りがして当然。けど、それがとても強い。他ではあまりやらないような、何かひと工夫があるのか。あるいはさっぱりなささみだからこそ、一層炭を強く感じたのか。どうだろう。
いずれにせよ、肉が大きいので強い炭の香りがとてもいい。よくマッチしています。レアな焼き加減も素晴らしい。
二本目の砂肝。写真ではわからないですが、こちらも巨大です。コリッコリ、ジャックジャク。堅くはないのですが、砂肝ならではの歯ごたえがとても楽しい。
三本目、かぼすこしょうふりそで。ふりそでは胸と手羽元の間の希少部位。一羽から数本分しか取れないのだそう。
弾力があってジューシー。胸肉のようなさっぱりではありません。肉の風味は濃厚です。脂もしっかり乗っているのですが、かぼすこしょうがキリッと締める。激うま。
四本目、さえずりは食道・気道。わずかにコリッとしているのですが、軟骨ほどではありません。むしろ柔らかい。タレがとてもいい塩梅です。
五本目、せせり。これも大きいなぁ。表面はサクッと香ばしく、中はしっとりジューシー。大きいからこうできるんだろうな。そりゃもうべらぼうにうまい。
別に以前がダメだったとは言いません。上品なあの感じもなくはない。けど、正直、あまり引っかからなかった。おしゃれな焼き鳥屋だなぁ、くらいなもの。
それがあれよあれよという間に大人気店となっていったわけですが、食べて納得がいきました。今のこの力強い大きな焼き鳥のほうが、満足度は格段に上。単に大きくて食べごたえがある、ということではありません。この大きさがもたらす効果、たとえばジューシーさだったり、火の入り具合だったり、食感だったりが満足度を高めています。
いつ化けた? なぜ化けた?
気になることはいっぱいあるけど、満席のこの状況では聞けないな。
カップルかどうかはさて置き、ほとんどが男女という組み合わせでした。一人客は私だけだったんじゃないかな。大人気店となった今、一人でしっぽりというよりも、二人もしくは数人で楽しむという使い方の方がいいかもしれませんね。ぜひ一度。