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白龍(三輪山本)は超極細の高級そうめん。細いのにコシは強い!~独自路線の三輪山本が指し示す手延べそうめんの未来

白龍は三輪素麺ではありません

三輪山本の白龍

株式会社三輪山本の極細そうめん・白龍。

最初にとても重要なことをひとつ。三輪山本の本社は奈良県桜井市=三輪近隣エリアに所在しますが、白龍は三輪素麺(※)/三輪そうめんではありません。製麺地(加工所)は長崎県南島原市有家町なので、あえて言うなら島原手延べそうめんです。ただ、三輪山本は商品パッケージで「島原手延べそうめん」とも謳っていません。この件に関しては後ほど詳しく。面白いので絶対読んでください。

※三輪素麺は奈良県三輪素麺工業協同組合の登録商業

佐藤可士和デザインの高級そうめん・白龍

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TODAY'S SPECIAL 自由が丘で購入しました。584円/50g×2箱。一般的なそうめんの量・300gに換算すると1752円。超絶ハイパー高額そうめんです(揖保乃糸は300円/300g)。

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オシャレなパッケージですが、デザインしたのはユニクロのロゴデザインで有名な佐藤可士和氏。2017年、創業300年を迎えた同社は社名ロゴ、包装紙、ショッピングバック、白龍、白髪などのデザインを佐藤可士和氏に依頼して刷新しました。

参考/wikipedia:三輪山本

白龍と普通のそうめんを比べてみた

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開封。少し黄色味がかった細くてしなやかな麺が束ねられずにそのまま入っています。香りはほとんどしません。

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いい手延べそうめんはよくしなるといつも書いているのですが、その実例がこちら。このしなりこそが手延べそうめんのおいしさを表しています。逆に機械麺そうめんはちょっとでも曲げようものならポキっと折れます。

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一般的な手延べそうめんと比べてみました。確かに細いです。

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「約60秒」にわざわざ線を引き強調しています。この細さで60秒は長いだろうとは思いつつ、とりあえず1箱分(50g)を60秒茹でてみました。

細いのに強いコシがある白龍

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プリンとした穏やかなコシ。細いので複数本がまとまって舌に触ると気持ちいい。

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おいしいです。けど……やっぱ60秒は長いって。

タイマーを30秒にセットしてやり直し。15秒、さすがにまだ堅い。30秒、もうちょっとだな。40秒、おっ。鍋を持ち上げシンクへ。45秒でザルにあけて、すぐさま冷水で締めます。

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プツプツプツッ。これだよこれ。いいねぇ。小気味のいいしっかりとした歯切れ。うん、これはすごい。うまい。

茹で時間を短くしたせいか、60秒茹でより塩味を強く感じました。もちろんしょっぱいということではありません。ただ、この塩味もいい方向に作用しています。風味も強く感じられました。

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高いのでもったいないと、少しずつ啜ろうとしてしまうかもしれません。けど、それでは細いそうめんのよさが十分には味わえません。思い切っていっぱい啜ってください。50gなら3口ほどで食べ終える勢いで。そうするとそうめんが口内で雪崩のごとく弾けます。これぞ手延べそうめんの醍醐味。

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細いそうめんにありがちなのですが、表面積が狭い分、まとっている水分が少ないせいか、そのまま皿に盛ると少々ごわつくことがあります。啜りやすさを考えると、このように麺つゆに浸して食卓に出すというのがお勧めです。手延べそうめんですから、少々のことでは伸びません。

白龍はプレゼントにぴったり

いやー、すごいそうめんです。おいしいです。すばらしい。

ただ、これを人様に積極的に勧めたいかというと……w

高ければ高いほどおいしいというわけじゃない。細ければ細いほどおいしいというわけでもない。私は白龍よりも太くて安くておいしいそうめんをいっぱい食べてきました。もちろん私の好みでしかないのですが、私ならそういうそうめんをまずはお勧めします。

たとえば南関そうめんだったり、淡路手延素麺 御陵糸だったり、坂利の手延べそうめんだったり。つまりはこのサイトで例外の星6を獲ったそうめんたちです。

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「こんなに細くて、こんなに高いんだから、とんでもなくおいしいんだろう」

といった過度な期待は抱かないでください。

いろいろそうめんを食べてきた。たまにはちょっと変わったものを食べてみたい。それくらいの心持ちで買ってみるのがよろしいかと。あるいは普通のでは面白くないから、自分では買わないであろうものを贈ろう、というようなプレゼントにもいいでしょうね。

そうめんのクオリティはもちろん星5です。ただ、おいそれと人に勧めることは私にはできない。星4で。

地域名を謳わない三輪山本

以下は多分に筆者の想像も含まれます。ご了承ください。誤りがありましたら、関係者からのご指摘大歓迎です。

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多くの手延べそうめんには商品名の他に「小豆島」「島原」といった産地を表す文言がついています。

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あるいは商品名自体が「小豆島手延素麺」「島原手延素麺」だったり。

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一方、白龍のパッケージにはどこにもそのような表記がありません。

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唯一、裏面に小さく製麺地(加工所)が記載されているのみ。白龍だけじゃありません。三輪山本のそうめんはすべてそう。

ホームページも同様です。

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三輪素麺の中心的存在・株式会社池利は「三輪そうめんの老舗」。三輪山本は「手延べそうめんの老舗」。三輪山本はかたくなに地域名を語りません。

これはいったいどういうことかと言いますと、三輪山本はおいしければ産地なんてどうでもいい、くらいに思っているからです。三輪だろうと島原だろうと関係ない。おいしいそうめんを作ればいい、と。

わかりやすくするため、少々、乱暴に言っていますが、基本的な考え方はそうなんです。要は産地ではブランディングしないという方針です。

では、この考え方の背景には何があるのでしょう。おそらくは"産地偽装問題"が大きく関係していると思われます。

三輪と島原の産地偽装問題

三輪でも島原でも古くからそうめんが作られてきました。そして1960年頃、高度経済成長期、そうめんの需要増大に追いつけず、発祥地ではあるけど規模としては大きくなかった三輪は外部に素麺の製造を委託します。それが長崎県の島原です。つまり、島原で作った素麺を三輪そうめんとして販売していたということです。

1982年当時、三輪素麺としての年間販売量は、約60万箱であった。このうち約50万箱は島原産であり、三輪での生産は約8万箱であった

出典元/地域における特産品を取り巻く課題-「揖保乃糸」と「三輪素麺」を事例として-(石川和男)

もちろんこれは産地偽装なんですが、1960年代、70年代頃の日本においては、生産者側も消費者側も産地を偽装しているという意識すらなかったかもしれません。

ところが時代は変わります。問題になり始めたのは1980年代に入ってから。食品の品質表示基準が改正され、消費者の意識も変わり、島原で三輪そうめんの製造ができなくなりました。

一気に"生産量"が減った三輪そうめんの各メーカー。これからどうしていこうか……。ここで立場が分かれます。

一致団結して、もう一度、三輪ブランドを確固たるものにしていこうという立場。

まずはそれぞれががんばるしかないだろうという立場。

前者は奈良県三輪素麺工業協同組合で、その中心的存在は池利。こちらが主流です。

後者の代表例が三輪山本です。そして三輪山本は三輪にこだわらず、それまで通り島原と手を組み、極細・高級路線を突き進みます。産地を大々的に謳うことなく。

参考までに、以下が三輪山本の手延べそうめんとその製麺地の一覧です。

商品名製麺地細さ
白龍長崎県有家0.6mm
白髪長崎県有家0.3mm
糸依奈良県0.9mm
糸依プレミアム奈良県0.9mm
献上三輪奈良県0.8mm
華三彩奈良県三輪地区
No.80長崎県有家0.8mm
No.90長崎県有家0.9mm

ちなみに三輪山本は三輪そうめん山本という社名でした。ですが、三輪以外でもそうめんを製造しているのに社名に「三輪そうめん」と入っているのはいかがなものかと問題視され、2017年、社名を三輪山本に改称しています(自身は「創業300年を契機に」と言ってます)。

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以上のような経緯を見ると、三輪山本のスタンスが見えてきそうです。ロゴもパッケージもオシャレにして、独自のブランド力を高める。製麺地を記載するにせよ、商品名等ではあえて産地を大々的には謳わない。大切なのは産地がどこかではなく、そのそうめんがおいしいかどうかなのだから。と考えていることは容易に想像がつくでしょう。

なお、奈良県三輪素麺工業協同組合と三輪山本はバチバチに対立しているというわけではありません。詳細は省きますが、ある部分では協力していることもあります。

苦境を乗り越え、三輪と島原がたどり着いた場所

では、島原はどうなったでしょう。産地偽装が問題となって以降、三輪の下請けはできなくなりました。けど、膨大な生産力はあります。

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スーパーのプライベートブランドの手延べそうめんは島原手延べそうめんであることがほとんど。そう、大手小売店と手を組み、大量生産、大量販売で活路を見い出したのです。

産地偽装によって袂を分かち、一時は苦境に陥った三輪と島原。ところが、前者はそうめん発祥地のプライドをもって、他地域に負けないクオリティを維持、確固たる三輪ブランドを確立しました。後者はその巨大な生産力をもって、全国に商品を流通させることに成功しました。

三輪山本が指し示すこれからの手延べそうめん

2023年の誕生日プレゼントとしてもらった白龍3箱

手延べそうめん産業はなかなか厳しい状況にあります。産地によっては手延べそうめん産業が消滅寸前ということもあります。手延べそうめん職人の高齢化、後継者不足がその主な一因なのですが、私にはもう一つ大きな要因があるように思えます。

揖保乃糸は250円~300円ですよね。さらに安い機械麺そうめんもあるため、そうめん=安いものというイメージを抱かれています。安いのは消費者としては嬉しいのですが、作り手としては大変です。作っても作っても儲からない。

そこでどう対応していけばいいか。ひとつの成功例がまさに揖保乃糸です。生産者が協力してひとつの商品を大量生産し、大量販売する。単価の低い商品を売る基本戦略です。島原の各手延素麺組合も基本的には同様の考え方でしょう。

もうひとつはこれと似たことではあるのですが、地域でブランディングするという方法。三輪素麺がその最たる例です。一応、島原もそうですね。ちょっとまとまりに欠けているようには感じますが。

そして最後に自身をブランディングするという方法です。

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喜之助そうめんの真砂喜之助製麺所(小豆島)が上手にやってるなぁと思います。パッケージをオシャレにする。"感度"の高そうな消費者が集うオシャレなショップに卸す。素材や製法にこだわり、バックストーリーを用意し、薄利多売ではなく単価高めの個性的な商品を売る。

おお、まさに三輪山本がやってきたことではないですか。

三輪と島原の間に立ち、独自路線で手延べそうめんを作る三輪山本。その姿は手延べそうめんのこれから、薄利多売以外の手延べそうめんの売り方・指針を示してくれているようにも思えます。

もちろん、こんなのばっかになってもらっても困るんですけどねw ただ、「せっかくいいものを作ってるのに、数年後には廃業orこの地域の手延べそうめん生産者がゼロになるかも……」そんな生産者・地域にとっては何からのヒントになるような気もします。

DATA
名称白龍
原材料名小麦粉(国内製造)、食塩、食用植物油/加工でん粉(打粉)
製造者株式会社三輪山本
メモ正確には三輪山本は加工者
評価★★★★☆