坂利の手延素麺(坂利製麺所)はおいしいとか好きとかそういうレベルでは語れない。強い想いが乗ったその味は感動的です~坂利製麺所に見る素麺と地域とビジネス

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生意気なことを言います。

私はそうめんを100種以上食べてきました。このブログでは80種をレビューしています(2019年5月時点)。そして各そうめんを5段階の★で評価しています。そこらの人よりもそうめんのことを知っているつもりです。

そんな私が例外的に★6をつけたそうめんがひとつだけあります。南関そうめんです。けど、南関そうめんが唯一の例外ではなくなりました。今回、坂利の手延素麺に★6を与えることにより。

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素麺発祥の地とされる奈良県桜井市の三輪地方から東へ18kmほど行った山間にある株式会社坂利製麺所(奈良県吉野郡東吉野村)。

三輪素麺の"三輪"がどこまでを指すのかは曖昧です。三輪の素麺組合に属しているかどうかというのも、三輪素麺を名乗れる要件なのかもしれませんが、それはさて置き、桜井市の隣、宇陀市の(株)三輪そうめん大手も手延べ 三輪そうめんという商品を出しています。奈良県吉野郡東吉野村は宇陀市の隣。(株)三輪そうめん大手よりも三輪に近いです。けど、三輪そうめんとは謳っていません。それがいい・悪いという話ではなく。

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坂利の手延素麺は5束250g。成城石井 柿の木坂店で購入しました。379円(税抜)。パッケージがとてもいい。この絵は江戸時代のものか、あるいはそれを模したものか。

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裏面にはイラスト入りで茹で方の解説があります。加工食品品質表示がシールになってしまうほど丁寧な解説です。

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柔らかくて甘くて香ばしい小麦の香り。そうめんは細くてしなります。ゆで時間は2分とありますが、1分45秒で上げました。

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そのままひと口。

あああ。

私の中のそうめん像が崩れます。

私は歯切れと呼んでいるのですが、ブチブチッとした強いコシのあるそうめんが好みです。この坂利の手延素麺はそういう歯切れではありません。ムチップリッ。心地のいい歯切れではありますが、このタイプは★4になりがち。私の好みではないはず。なのに……いい。とてもいい。

小麦の風味がしっかりと感じられます。ただ、決して濃厚というわけではなく、とても優しい。もっと強く甘味を感じる素麺が好みなのですが……いい。とてもいい。

要は坂利と私の好みが違うということ。じゃあ私の評価が下がるかというと、この素麺においては逆。

「人にはいろいろ好みがありますよね。わかります。けど、私たちはこれが最高だと思って作ってます。私たちの思う最高のそうめんがこれなんです」

坂利の手延素麺は私にそう語りかけてきます。

もっとコシを強くしようと思えば強くできる。小麦の風味をもっと濃くしようと思えば濃くできる。けど、そうしない。狙ってこのコシ・風味を出している。そう感じさせるのです。

作り手の強いこだわり・想いは、時に人の嗜好さえも無化する。当然、私にも好みはありますが、この素麺はそんな好みを超えてしまいました。

これは★5では足りない。ただ、軽々に★6を与えることはできません。相当に熟慮を重ねました。結果、★6。

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今回、そうめんに合わせたのは宇部蒲鉾(株)/宇部かま(山口県)の清水さやぬき 蒲さし。学芸大学のバー・プレミアワンの店主・健作君からもらいました。このかまぼこもおいしいし、坂利の手延素麺の優しい風味にもぴったり。

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私が食べた翌日、残った1束を連れに食べさせました。

「★6だぜ」

ひと口食べた連れは首をかしげます。

「おいしいけど、この前食べた小豆島のそうめん(※十勝育ち)のほうが好きだなぁ」

それでいい。それが普通なんです。他の人が食べても、「これが★6?」と思うかもしれない。けど、それでいい。私は好みの向こう側を見てしまった。そうめんをそんな風に食べていることのほうがおかしいんです。

この★6はうまい・まずいの話じゃありません。好き・嫌いですらない。じゃあ何かと言われてもうまく言語化できないのですが、100種以上のそうめんをおいしいだの好きだのといった基準で判断してきたつもりだったのに、そんな基準が通用しないものに出会い、自分が抱いていた「おいしいそうめんとは」という定義を壊されたことに対する衝撃・感動。これを★6で表しています。

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「そこらの人よりもそうめんのことを知っているつもりです」

ああ、冒頭で何と恥ずかしいことを……。100種食べて来てもなお、そうめんのことをわかっていなかったじゃないか。

でも、恥を上塗りして最後にもうひとつ生意気をぬかそう。

100種以上のそうめんを食べて来た人間が"例外"としたそうめんだ。一度食っとけ。

DATA
名称坂利の手延素麺
原材料名小麦粉、食塩、ごま油
製造者株式会社坂利製麺所
評価★★★★★★

坂利製麺所 おつゆの友(そうめんふし) 100g

坂利製麺所に見る素麺と地域とビジネス

坂利製麺所の歴史

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日本有数の林業の村・奈良県東吉野村滝野。坂利製麺所の創業家も代々、木材業を営んできました。ところが、冬は雪深くなり山に入れないため通年の収入が得られず、村は過疎化が進みます。

そんな中、奈良県が「冬場の仕事を作ろう」という政策に乗り出し、林業を営む人が多い東吉野村などの山間部へ向けたそうめん作りの研修プログラムを組みました。なぜそうめんかというと、そうめん作りは冬場が最盛期だからです。また、奈良県桜井市の三輪は素麺発祥の地でもあります。

さて、このプログラムを知った坂口良子さん(坂利製麺所代表・坂口利勝さんの母親)は東吉野村を過疎化から救いたいとプログラムへ参加することを決意。三輪地方でも修行をして、1984年(昭和59年)、坂利製麺所を創業しました。現在、創業家は林業と製麺業を生業としています。

創業当時は失敗の連続だったそう。ところが、1987年(昭和62年)頃から当時は珍しかった国産小麦でのそうめん作りを始め、業績が上向きになってきたようです。

1998年(平成10年)、オーストラリア政府公認の認証機関・BFAのオーガニック認証工場に。2001年(平成13年)、なら・グッドデザイン(奈良県広域地場産業振興センター) パッケージ部門最優秀賞受賞。有機JAS認証取得。2015年(平成27年)、そうめん・至宝の舞がフードアクションニッポン 商品部門入賞。

三輪素麺の製法・スピリットを受け継いだ坂利の手延素麺は、こんな歴史を辿りつつ作られています。

坂利製麺所のモットー

坂利製麺所が使う小麦はすべて国内産。「自分の子供に自信を持って食べさせられる素麺を作る」ということをモットーにしています。

また、坂利製麺所は移住体験(トライアルステイ)できる宿泊施設を所有しています。上述の通り、みずから製麺業というビジネスを確立し、一定の収入を確保できる環境を作ることで雇用を生み出し、人の流出を防ぎ、過疎の村に人を呼ぼうとしています。

坂利製麺に見るそうめんビジネス

すべてかどうかわかりませんが、坂利製麺所はこれだけのサイト、SNSアカウントを運用しています。ここまでするのはなぜか。それは坂利製麺所がそうめんをビジネスとして考えているからです。

坂利製麺所はフリーズドライのにゅうめん(喜養麺・マグカップにゅう麺)、葛を混ぜ込ませた手延葛そうめんなど、オリジナリティ溢れる商品を次々とリリース。フリーズドライにゅうめんは国内線ファーストクラスの機内食に採用された実績もあります。これらはそうめんをビジネスとして捉えているということがよくわかる実例です。

ともすると、そうめん=伝統と捉えられがちです。確かにそれはそうですし、伝統を受け継ぎ、次の世代へと引き継ぐことも重要です。ただ、当然のことながら、そうめん作りはひとつの産業でもあります。ビジネスなのです。

決して大きくはない坂利製麺所は組合に属さずとも、自分たちだけで製造・販売し、宣伝できています。「組合が~」「自治体が~」などと文句を垂れることはない。「うちは小さいから作ることで精いっぱい」と言い訳もしない。

なぜ坂利製麺所はこれができるか。そうしなければいけないという使命感を持っているからです。その使命感とは、この村を救うためにはビジネスとして成功しなければいけないという使命感です。責任感と言ってもいいかもしれません。

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こうして顔を見せているということも、責任感のひとつの表れでしょう。

こういう切実な想いが素麺からも感じられます。私に6つの★をつけさせたのは、まさにこの想いなのかもしれません。

国産小麦100% 坂利の手延素麺 お徳用2000g

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