今回ご紹介するのは白石興産株式会社の白石温麺(しろいしうーめん)。温麺は温かい麺という意味ではありません。宮城県白石市で生産される短いそうめんが温麺(うーめん)です。
イオンスタイル碑文谷で開催されていた東北物産展で連れが買って来てくれました。410円/300g。物産展なので高めの値段になっています。
白石温麺の歴史
元禄2年(1689年)のこと。のちに「おくのほそ道」(元禄15年/1702年)を執筆することとなる松尾芭蕉が江戸を出発した年です。
白石城下に浅右衛門という男が住んでいました。家は検断所でもあった大畑屋という酒造家です。
浅右衛門の父親・久左衛門はかねてより胃を悪くしていて、大好物だったそうめんが食べられませんでした。というのも、そうめんは油を使って作られるからです。油は体に悪いと医師から止められていたのです(※1)。
そんな久左衛門のために浅右衛門がうどんを出したところ、「こんな太くて腹が膨れそうなもの、見るだけでも食欲が失せる」と口にしません。
浅右衛門がどうしたものかと思案していたところ、旅の僧から油を使わずにそうめんを作る技法を習います。こうして作ったそうめんを久左衛門に勧めると、「うめえ」と喜んで食べ、食欲も戻り、胃の調子もよくなりました。
これが白石温麺の起源です。
おいしいと評判になった浅右衛門のそうめんは白石城城主・片岡小十郎(※2)の食膳にも上がるようになり、伊達家重臣でもあった片岡小十郎はこれを伊達家(※3)に献上。伊達家からも絶賛されます。
片岡小十郎が伊達家から褒められたのは浅右衛門のおかげとして、浅右衛門に名字帯刀を許します。基本的に武士にしか認められなかった苗字を名乗ること、刀を腰に付けることが許されたのです。
こうして浅右衛門は鈴木浅右衛門と公称するようになります。そして、片岡小十郎から味右衛門と改名するよう仰せつかったのでした(※4)。
なお、心温まるような親孝行エピソードから、「温麺」と呼ばれるようになった(or 片岡小十郎がそう命名した)とも言われています。
※1 あくまでも江戸時代の話です。当時の油は今と比べると質が悪かったのでしょう。使われている量も多かったかもしれません。当たり前ですが、今のそうめん(手延べそうめん)は油を使っているからといって健康のために控える必要はありません。
※2 片岡家当主は代々、小十郎を名乗ります。この当時は片岡家第5代当主・片岡村休(天和3年~享保5年/1683年~1720年)だったと思われます。
※3 当時の伊達家当主は伊達綱村(万治2年~享保4年/1659年~1719年)だったかもしれません。ただ、片岡小十郎が白石温麺を伊達綱村に献上したかどうかは不明(伊達家に献上したのは確か)。
※4 味右衛門と改名したのが鈴木姓を名乗ることを許されたのと同時なのかどうか、そのタイミングは不明。なお、浅右衛門の先祖は江梨鈴木氏(伊豆)の祖・鈴木繁伴。
参考/
- wikipedia:温麺
- レファレンス協同データベース:白石温麺が特産物になった経緯がわかる資料はありますか
- 商標審決データベース:登録第5229771号商標の商標登録に対する登録異議の申立て
- HappyCampus:温麺の歴史
白石温麺の商標問題
「白石温麺」および「温麺」は奥州白石温麺協同組合の登録商標です。
今どきは商品名を決めたり、商標を登録する際、同一/類似の登録商標がないかを確認するのが常識。ですから、揉め事も少なくなってきていると思います。ただ、10年ほど前までは商標に関する裁判が結構あったようです。その多くは第三者が「〇〇温麺」という商品を製造・販売(or 商標登録)し、これに同組合が抗議・訴訟するというものでした。
白石温麺メーカー
私が知る限り、白石温麺のメーカーは以下の5社です(カッコ内は創業年)。
- 佐藤清治製麺(1883年/明治16年)
- 白石興産(1886年/明治19年)
- はたけなか製麺(1890年/明治23年)
- 松田製粉(1892年/明治25年)
- きちみ製麺(1897年/明治30年)
この内、はたけなか製麺以外の4社が奥州白石温麺協同組合に所属しています。
各メーカーは白石温麺をどう売っていくか、どうアピールしていくかに考え方の差があって、あまり仲がよろしくないそうな。ただ、それではいかんと、最近になって連携し出している様子もうかがえます。
余談ですが、白石市には奥州白石温麺振興条例があります。簡単に言うと、「市、メーカー、市民みんなで白石温麺を盛り上げていこう!」というものです。かような条例があるにも関わらず、反目しあってきたというw 毎月7日は白石温麺の日なんだとか。
参考/河北新報:白石温麺、変革なるか「不仲」の地元製造会社有志が勉強会
一度、破綻した白石興産
1886年(明治19年)に白石興産商会が創業します。1921年(大正10年)、白石興産株式会社(旧)が設立されました。
2004年、白石興産(旧)は経営破綻し民事再生手続を開始します。ただ、その後も営業を続け、他社からの支援も受けつつ、2005年に新たに白石興産株式会社(新)を設立し、これが旧白石興産の業務を引き継ぎます。
そして2010年、ヨシムラ・フード・ホールディングスの子会社となりました。ヨシムラ・フード・ホールディングスがとても面白いのですが、話が逸れるので略。
白石温麺が短い理由
白石温麺の特徴は大きく2つあります。
- 短い(9cm)
- 油を使わない
後者に関してはちょっと注意が必要なので次項にて。
なぜ短いのか、いつから短いのかは不明ですが、
- 食べやすい
- 折れにくい
- 茹でやすい
からそうなった、という説がよく挙げられています。
また、長いと折れやすいので、長いそうめんは高級品だった。だから"長物"は藩主などへ献上され、短いものが庶民に食されていたとも言われています。
……ああ、なんてつまらないw 短い理由は不明なんですから、勝手に妄想しちゃいましょう。
これ、米俵に似てません?
一般的にそうめんは農家が農閑期となる冬場に作っていました(冬はそうめん作りに適してもいる)。冬にそうめんを作る。これを米俵に模した型にする。そして神社に奉納し、来期の豊作を祈願する。そのためにそうめんを短く作っていたら、これが評判となり、以来、白石市ではそうめんを短く作るようになった。
どう? ロマンがあっていいじゃないですか。私の創作・妄想でしかないのですがw
ただ、単なるデタラメでもありません。一応、それなりに根拠のある妄想です。詳細は省きますが、神社とそうめんは深いつながりがあります(奈良県桜井市の三輪明神 大神神社がそうめん発祥の地)。手延べ製法の伝播には全国を行脚する僧が一役買っていたということもあります。実際、鈴木浅右衛門にそうめん作りを教授したのは旅の僧でした。
真実はさて置き、なんだかいろいろ想像を膨らませてくれるフォルムじゃないでしょうか。
ちなみに、鈴木浅右衛門が作ったそうめんは短くなかったと思います。鈴木浅右衛門に関する記述で「短い」ということが一切出てこないからです。
油を使わないというのは大きな特徴ですが、もし短かったら、こんなキャッチ―なことはありませんから、絶対に「短かかった」という記述が残っているはずです。それがないということは、きっと短くなかったんじゃないでしょうか。短くなったのは後年のことだと思われます。
白石温麺は油を使わない
白石温麺にも手延べそうめん(※5)と機械麺そうめんがあります。手延べそうめん作りには油を使うことがほとんどなのですが、白石温麺の手延べそうめんは油を使いません。まったくないわけではないのですが、珍しくはあるので、「手延べの白石温麺は油を使わない」というのは確かに大きな特徴です。
一方、機械麺そうめんの場合はちょっと事情が異なります。
どのメーカー、どの商品であっても、そもそも機械麺そうめんは油を使いません。
この白石興産の白石温麺も機械麺なので、油が使われていません。つまり、白石温麺の特徴たる"油を使わない"こととは関係ないということです。単に機械麺だから油が使われていないだけ。
※5 白石興産は手延べのことを手綯(てない)と呼んでいます。
短くて太い白石温麺
揖保乃糸に代表される一般的なそうめんは19cmです。一方、白石温麺は9cm。
右のそうめん(島原の手延べそうめん)と比べると太いのもよくわかります。
やはりそうめんのこういう説明は文章がおかしいw
また、「麺」ではなく「麵」という俗字になっていますね。商標にかかわることですから、このあたりはきちんとしておきたいところ。
包み紙には竹と雀。これは伊達家の家紋「竹に雀」に由来するのでしょう。
包み紙を取ると、こんな風に結束されています。
ゆで時間は3分となっていますが、2分でかなりいい具合になっていたので、2分30秒で上げました。
しっかりとした弾力が気持ちいい白石温麺
プリン、プルン、ムチッ。とても強い弾力です。いやぁ気持ちいい。
短いからといって食べづらいということはありません。普通のそうめんと同じように食べられます。
翌日、ゆで時間を3分にして、サーモンカルパッチョ乗せそうめんにしてみました。弾力は穏やかになりました。私は2分30秒ゆでのほうが好きかな。
冷蔵庫にあるものを適当に乗せてみたのですが、ここでひとつ気づいたことがあります。
こういうしっかりとした具材と一緒に食べると、そうめんの短さが活きます。具と麺のバランスがちょうどよく、食べやすい。
ただ、ネバトロ系だとどうだろう。もしかしたら長い方が絡みやすく食べやすいかもなぁ。
いずれにせよ、しっかりした具材と合わせても風味・食感でそうめんが負けません。とてもよく合います。
白石温麺を麻辣にゅうめんにしてみました。もちろんおいしい。ただ、こうすると他との違いがほとんどなくなりますから、面白みには欠けます。そのそうめんらしさも薄くなりますしね。
ちなみに、私は普通の長さのそうめんもにゅうめんにする際は半分に折ります。そのほうが食べやすいからです。そういう意味では最初から短い白石温麺はそのままでいいので、便利っちゃあ便利。
やっぱり機械麺そうめんは太いに限る。そしてやっぱり東北の機械麺そうめんはおいしい。
おいしいのですが、これなら細うどんや冷や麦でも似たようなおいしさを感じることができる、つまりそうめんならでは感が弱い。
私は細い手延べそうめんのブチブチっとした強いコシ・歯切れこそがそうめんの魅力だと思ってます。そんな私が採点すると星3となります。太くてムチっとしたそうめんが大好きな連れは星5と言ってました。
普通なら200円台で買えると思います。少なくとも410円で買うようなものではありませんw(白石興産ではなくイオンスタイル碑文谷の問題) もし安ければ、一度試してみてはいかがでしょうか。
名称 | 白石温麺(うーめん) |
原材料名 | 小麦粉(国内製造)、食塩 |
製造者 | 白石興産株式会社 |
評価 | ★★★☆☆ |