滅亡の危機を乗り越えた手延べそうめん

株式会社グラスキューブ/めんめん館(富山県利賀村)の越中利賀村 清流素麺。
詳細は後述しますが、もともとは富山県西部森林組合が製造していました。ところが、令和元年、職人の高齢化・引退により、同組合の製麺業は廃業の危機に瀕します。そこで、ガラス加工メーカーであるグラスキューブが手を挙げ、事業を継承することになりました。

オオゼキ 祐天寺店で購入しました(2025年3月18日)。646円/180g。公式オンラインショップで表示されている価格とほぼ同じです。
一般的なそうめんの量・300gに換算すると1080円。揖保乃糸は350円ほどですから、かなり高額です。ただ、小規模で生産され、素麺組合を介さず独自に流通させている手延べそうめんとしては、まったくない価格でもありません。
約10年前、5年寝かせた越中利賀村 清流素麺を食べたのですが、状態(新物か古物(ひねもの)か)も違いますし食べる環境(外出先でササっと食べたか家でじっくり食べたか)も違いますし、一応、製造者も異なっているので、改めて食レポをしてみます。
大門素麺に似た丸まげ麺


和紙のような包装紙に包まれています。

開封すると、長い麺が手毬型にまとめられていています(4玉)。同じ富山県の大門素麺にも似た形状です。


大門素麺の歴史は江戸時代にまで遡ります。詳細は省きますが、日本海を通じて能登に手延べ製法が伝わり(輪島素麺。現在はない)、これが富山県砺波市庄下地区の大門集落へと伝わりました。
一方、越中利賀村 清流素麺は昭和59年ごろから作られています。「地場産業となる商品を開発しよう」と、利賀村の森林組合と農林課が協力し手延べめん工場を建てたことで始まりました。

大門素麺の富山県砺波市庄下地区と利賀村は近いです。昭和末期、利賀村から大門へ素麺そうめん作りを習いに行っていたということもありえなくないような。あくまでも筆者の想像ですが(奈良県や山口県など各地の山間部で似たような事例がいくつかある)。

そうめんは縄のれんのごとく棒にかけて延ばすのですが、そうすると棒に近い箇所は太くなります。チューインガムを指でつまみ、うにーっと伸ばしたら、口元は太く、延ばした先は細くなりますよねw 原理はあれと同じです。
ですから、手毬状になったこの清流素麺も切り落とした部分は太くなっています。


説明の通り、ふたつに割ってお湯へ投入。この細さなら2分は長いかな。タイマーを1分半にセットし、タイマーが鳴ったところでお湯を切り冷水で締めました。

茹で上りは想像よりも細かったです。そのままひと口。
ムツッ。
おっと。これは面白い。大門素麺や南関そうめん、淡路手延素麺(御陵糸)などに通じる密度の高さがあります。中心部に芯がある三輪素麺のようなプチっという小気味のいい歯切れではなく、弾力を感じながら噛み切るしっかりとした歯ごたえ。
ただ、その歯ごたえは南関そうめんや御陵糸ほど強烈ではありません。穏やか。温もりを感じさせるとでも言いましょうか。
約10年前に食べた古(ひね)とは少し印象が異なります。後ほど述べますが、あの時はもう少しプチっと感が強かった気がします。寝かせた違いでしょうか。

のど越しもトゥルンと気持ちいい。小麦の風味もちゃんとありますが、古物にあった香ばしさはさほどなく、清涼感があります。

いい手延べそうめんだなぁ。とてもおいしいです。高額ですから勧めづらさはあるのですが、手延べそうめんをいろいろ食べてみたという方、たまには揖保乃糸とは違うタイプを食べてみたいという方は、試してみる価値が十分にあると思います。
評価は10年前と変わらず、もちろん星5です。
以下は2016年4月8日にアップしたものです(まだ製造者が富山県西部森林組合だった頃)。
富山出身者の郷土の味
学芸大学のバー・HAFURI(ハフリ)へ行ったら、富山県出身の方がいて、地元の素麺を持って来ていました。素麺マニアとしては絶好の機会。もちろんお相伴にあずかります。

富山県西部森林組合の越中利賀村 清流素麺。長い素麺を手まり型に曲げ乾燥させた曲げ素麺です。

秘境 利賀村からお届けする素麺
利賀の極寒の時期に作る清流素麺は、昔ながらの手延べ製法で作り、一玉ずつ丁寧に仕上げた一品です。約1人前1個包装になっているので、便利で食べやすい乾麺です。極細麺なのにコシが強く、のどごしがとても良い素麺です。山村の伝承に育まれた食文化を水と緑の村・利賀の郷よりお届けします。清流素麺の美味しさの秘訣
一般的に素麺は棒状の素麺ですが、昔ながらの製法で作る利賀村の清流素麺は、長い麺を手まり型に成型した素麺です。乾燥方法にもこだわり、4・5日間かけてゆっくりと麺線の芯から外へ向かって乾燥させております。この方法により強いコシ、喉ごしがえられ、美味しさの秘訣となっております。清流素麺の由来
製造地である利賀村は、富山県の南西部、岐阜県との県境に位置にあり、標高1,000mを超える山々に囲まれた、豊かな自然に恵まれた場所です。清流素麺は、その大自然の中に流れる澄んだ水をイメージした素麺です。
袋の裏側には「乾めん」と記載されていますが、袋の側面には「手延べ製法」とも書かれています。2000年に規格(基準)が変わったので(乾めん類品質表示基準)、記載が古いままなのかな? おそらくは手延べそうめんでしょう。
賞味期限は2012年9月。油を使った素麺は寝かせると熟成しておいしくなることもあります。普通はメーカーが厳正な管理のもと蔵で寝かせて、「古物(ひねもの)」として販売するのですが、これもまあ古物っちゃあ古物か。
一本一本がとても長いので普通は2、3に折って茹でるのですが、あえて長いまま茹でてもらいました。

細めでツヤのある素麺です。まずは何もつけず、そのまま。ツルリとした舌触り。プチっとした歯ごたえ、強いコシ。喉越しも滑らか。製造されて3年以上経っているせいでしょうか、熟成由来と思しき香ばしさをかすかに感じます。
清流素麺を持参した方はこう言います。
「小さい頃、素麺と言えばこれだった。これが一番おいしい素麺だと思う」
確かに、そう言わしめるに値するおいしさです。曲げ素麺だと南関そうめんを思い出します。この清流素麺は超絶うまかった南関素麺に比肩するほど。早くも今年一年のベストが来ちゃったか?
続いてツユをつけて食べてみます。すると香ばしさは減り、甘みが強く感じられるようになりました。うん、やっぱりおいしい。今度はフレッシュな清流素麺も食べてみたいな。もっと清涼感のある味わいなんだろうなぁ。
富山県の素麺は今回が初めて。富山県の素麺としては砺波市大門(おおかど)の大門素麺が有名です。大門素麺は江戸時代に能登・輪島から製法が伝わったのが発祥とされています。特徴は油を使わないということ。
この越中利賀村 清流素麺は南砺市なので、大門素麺ではありません。でも、富山にこれほどの素麺文化があると初めて知りました。機会があれば大門素麺も食べてみたいと思います。
廃業の危機からの復活
昭和58年6月、利賀村の森林組合と農林課が地場産業を形成すべく手延べ麺工場を建てます。翌年から清流素麺を製造・販売してきました。ところが、職人の高齢化・引退により、令和元年には廃業の危機が訪れてしまいます。そこで株式会社グラスキューブ というガラス会社が製麺工場・めんめん館の経営を引き継ぐことになります。
ですから、当記事執筆当時の製造者は富山県西部森林組合ですが、現在はグラスキューブが製造者です。
名称 | 越中利賀村 清流素麺 |
原材料名 | 小麦粉、食塩、植物油(綿実油) |
製造者 | 株式会社グラスキューブ |
評価 | ★★★★★ |