「この前買ったそうめんがマズかった!」
そんな声をよく耳にします。私もそんな経験がしょっちゅうです。けど……。
「そうめんなんて何がおいしいの? ヌメってしてて、マズいじゃん」
「へぇ。揖保乃糸がおいしいんだ。今度、試してみるわ」
まじですかと。日本人ならほとんどの人が揖保乃糸を食べたことがあると思っていたのですが、どうやらそうではないようです。そして、普段あまりそうめんを食べない人が一度マズいそうめんを食べてしまって、そうめんはマズいものだと思っているケースも少なからずあるようです。
そうめんのおいしさを知らない人、おいしいそうめんを食べたことがない人がこんなにもいるとは! そこで、そうめんを約200種食べ、当ブログでレビューして来た筆者が、おいしいそうめんの選び方、そうめんのおいしい食べ方をご紹介。
そうめんの基礎知識
とりあえず、最低限、次のふたつのことだけは知っておいて下さい。
(1)そうめんには手延べそうめんと手延べではないそうめん(=機械麺)があります。両者は別物です。手延べの定義、両者の差の詳細はこちらをご参照下さい。
(2)主なそうめんの産地です。
特に有名なのはオレンジ色。三輪、播州、小豆島、島原は4大そうめん産地とも言われています。
※大門素麺、白石温麺は登録商標。また、三輪そうめん、播州そうめんは一般名詞だけど、三輪素麺、播州素麺と漢字になると登録商標になるなど、話がややこしいので、とりあえずここでは「そうめんにはこういう産地があるんだ」くらいに思っておいてください
では、おいしいそうめんの選び方です。
おいしいそうめんの選び方
4段階に分けています。上から順に優先度が高いと思って下さい。
1.「手延べそうめん」を選ぶ
そうめんがヌメヌメ、グズグズ、ドロドロでまずかった――そんな経験から、まずいそうめんに出くわすことが怖くなり、大げさではなく"そうめん恐怖症"に陥ったという人も少なくないようです。
おそらく、そういうケースのほとんどは手延べではないそうめん(以下、機械麺)を選んでしまったから。手延べそうめんであれば、そういうことはほとんどないはずです。
先に軽く触れましたが、手延べそうめんと機械麺は別物です。これはおいしさが違うというだけではなく、そもそも作り方からして違います。だから本当に文字通り別物なんです。そして、機械麺は基本的においしくありません。
※ここでは便宜的に機械麺と呼んでいますが、手延べと手延べではないそうめんの本質的な違いは、手作りか機械製かの違いではありません。もっと大きな差があります。詳しくは上記の記事をご覧ください
そうめんを選ぶ際はまず裏面を見ます。裏面には品質表示が必ずあるのですが、そこに「手延べそうめん(手延べ干しめん)」と書かれているものを選んで下さい。「そうめん(干しめん)」(≒機械麺)と書かれているものは選ばないように。
これが大大大前提です。
以下は手延べそうめんの中からどう選ぶかです。
2.どれがいいかわからなければ迷わず揖保乃糸を選ぶ
手延べそうめんにもいろいろあります。そのどれがいいかは、実際に食べてみないとわかりません(そりゃそうだw)。
「えー。もうわかんないよ。どれ選べばいいの?」
迷わず揖保乃糸を選んで下さい。
スタンダードにおいしいのが揖保乃糸。スーパーの棚には、もしかしたら揖保乃糸よりおいしい素麺があるかもしれません。けど、わからないのなら揖保乃糸を選んでおくのが無難です。もちろん手延べそうめんであれば、どれを選んでもまずいということはないはずですが。
以下は揖保乃糸以外からどう選ぶかです。
3.三輪素麺を選ぶ
「いつも揖保乃糸だし、たまには違うものを」
そんな時はパッケージに「三輪素麺/三輪そうめん」と表記されているものを選んで下さい(多くは製造元が奈良県桜井市)。一番安定しておいしいのは三輪素麺です。三輪素麺は手延べそうめんなので(※)、ほぼ間違いなくおいしいです。ちなみに三輪は素麺の発祥地とされています。
※「三輪素麺」は奈良県三輪素麺工業協同組合の商標で、手延べそうめんでなければ三輪素麺と名乗れません
以下は三輪素麺以外から選ぶ場合です。
4.島原手延べ素麺と表記されているものを選ぶ
そうめん売り場に三輪素麺がないこともあります。そういう場合は島原手延べ素麺を選んで下さい。表記はさまざまです。島原手延素麺、島原手延べそうめん、島原手延そうめんなど。島原素麺/島原そうめんは機械麺なので選ばないように。
「播州素麺は?」
播州素麺は機械麺メーカーが中心となった業界団体・兵庫県乾麺協同組合の登録商標。ですから、播州素麺のほとんど(すべて?)が機械麺です(※)。もし播州のそうめんを食べたければ、播州手延べそうめんと標記されているそうめんを選んで下さい。
「小豆島は? 半田そうめんだっておいしいぞ!」
小豆島そうめん、半田そうめんは独特な場合が多々あります。そうめん初心者の方にはまず、わかりやすくおいしいそうめん、スタンダードなそうめんに出会ってほしい。ですから、とりあえずは三輪→島原の順で選ぶことをお勧めします。
とにかく、最重要なことは1です。何はともあれ手延べそうめんを選ぶ。これだけでおいしいそうめんに出会える確率はグッと上がります。
ちなみに、当サイトで紹介している素麺はすべて★で評価しているのですが、★5の素麺はこちらです。
※揖保乃糸は播州のそうめんではありますが、播州素麺ではありません。繰り返しますが、播州素麺は登録商標で、多くのメーカーが播州素麺と記載したそうめんを販売していますが、そのすべてが機械麺です(播州そうめんもおそらくすべてが機械麺。手延べであれば、播州手延べそうめんと記載しているはず)
安い素麺はまずい? 高い素麺はおいしい?
「安いそうめんを買ってきたらまずかった。やっぱ高いのじゃないとおいしくない」
そんな声もよく耳にします。
うーん。間違いではない。傾向として、私もそうだと思います。でも、値段の安い・高いより前にまず、手延べかどうかを見て下さい。結果として、手延べのほうが高いことがほとんどなので、高いそうめんのほうがおいしいということが多くはなるのですが。
揖保乃糸は300gで250円~300円ほど。これが目安になると思います。手延べそうめんなのに250円以下だと「大丈夫かな?」と思います(もちろん安くておいしいものもたくさんあります)。
ただ、400円を越えるとさすがに高い。相当こだわって作られているのでしょうけど、もはや趣味の領域。あるいは生産者側の自己満足、売らんがための無理矢理な企画ものだったりという場合も。そして、これが普通の揖保乃糸よりおいしいとも限りません。
「こんなに高いんだったら、きっとおいしいんだろう」
というような過度な期待は抱かない方が賢明です。
※追記:記事執筆時(2018年)は確かにそうでした。けど、2019年に状況がガラリと変わりました。相当にいい素麺が5束250g、300円台で売られることが多くなったのです。300g換算すると400円以上になるかもしれませんが、5束250gで300円台の素麺はおいしいものがたくさんあるので、試してみる価値はあると思います。追記以上
私が絶対に買いたくないそうめん
レポート目的で買うこともあるのですが、もしそれがないなら、以下は絶対に買いません。私なら、ねw
- 手延べではないそうめん
- スーパー、コンビニのプライベートブランド
- 大手食品メーカー(永谷園など)のそうめん
- 長いそうめん(長さ25cmほど)
どちらもスーパーのプライベートブランド。ですから、基本的には選びません。ただ、どちらかと言われれば、右の手延べを選びます。
一番右が揖保乃糸、その隣は讃岐そうめん。こんなのはノータイムで揖保乃糸を選ぶべきなのですが、讃岐そうめんは長いですよね。ひとつ上の写真の左のそうめんも長い。こういうそうめんはほぼ間違いなくおいしくないです。実際、讃岐そうめんはおいしくなかったです。
当サイトの★ゼロの素麺は以下の通りです。
なお、もしマズいそうめんを買ってしまい、全部食べ切ることができないという場合は、こちらの記事をご参照下さい。
そうめんのおいしい食べ方
だいたいパッケージ裏に茹で方が書かれています。ただ、表示通りだとイマイチなこともしばしばです。
茹で方
多めのお湯をしっかり沸騰させて、そうめんを投入。麺同士がくっつかないよう優しく撹拌しながら茹でます。
吹きこぼれに注意が必要なのですが、基本的には差し水をしないほうがいいようです。火の加減を調整するか、大きめの鍋にするなどで吹きこぼれを防ぎましょう。
慣れてくると、茹でているだけでもその素麺がおいしいかどうかがわかってきます。まずい素麺は箸で撹拌しようとすると、ずっしり重みを感じます。いい素麺はサラサラっとほぐれ、お湯の中を軽やかに泳ぎます。
茹で時間
そうめんメーカー、そうめんの専門家は表示時間が最適だと言います(そりゃそうだw)。これにはそうめんに含まれている塩分をしっかり抜くためという意味合いもあります。
ただ、手延べそうめんの場合、市井のそうめん好きとしては歯切れを最大限に楽しみたいという観点から表示時間のマイナス15~30秒ほどがベストだと思ってます。
もし可能なら、最初は表示時間通りに茹で、歯切れがもう少しほしいということであれば、次は15~30秒ほど短く茹でてみて下さい。こうして好みの茹で時間がわかるのが理想ですね。
流水、冷水で締める
茹で上がったら、すばやく流水で熱を取り、冷水で揉むようにしっかりと手早く冷やします。これにはふたつの意味があります。ひとつはそうめんを締めるため。もうひとつはまだ残っている塩分・油分を洗い流すためです。
盛り付け
大きく2パターンにわかれます。水にさらすパターン、水にさらさずそのまま器に盛るパターンです。基本的には好みなのですが、専門家は水にさらさないことを推奨しています。私もそのほうがいいと思ってます。水にさらすと伸びるし、水っぽくなります。
なお、水分を切ると、そうめんがゴワつくことがあるのですが、これは麺つゆでほぐすといいでしょう。
麺つゆ・薬味・具
これも好みなのですが、ぜひ、最初のひと口は何もつけず、そのまま食べてみて下さい。いろいろ食べ比べてみると、何気に違うということがわかります。
薬味・具はお好きなもので。と言ってしまうと身も蓋もないのですがw、僭越ながらひとつだけヒントを。
私は"炭水化物等価交換の法則"というものを提唱しています。ご飯に合うものはうどん、パスタ、パンなどにも合う。パスタに合うものはご飯、うどん、パンにも合う。ある炭水化物に合うものは、他のどんな炭水化物とも交換可能で必ず合う。というものです。明太子が一番わかりやすい例ですね。
そうめんもしかり。ご飯のお供、パスタにしているソースなどを思い浮かべてみてください。それは必ずそうめんにも合います。
と考えると、一気にそうめんの具・薬味のバリエーションが増えませんか?
納豆やオクラ、卵黄は間違いなくよく合います。
滋賀の鯖そうめん風。これはサバ味噌を素麺に乗せてます。めっちゃうまい! ぜひお試しあれ。
保存・保管方法
保存方法はパッケージの裏面に表記することが法律で義務付けられています。直射日光と湿気を避けて保存するのが基本です。また、香りが強いもののそばに置かないということも重要。そうめんに匂いが移るからです。
保存期間
賞味期限も必ず表記されています。おおよそ2年ほどです。ここでひとつ、そうめん基礎知識を。
「古物(ひねもの)/古(ひね)」という言葉があります。鶏肉などでも使われることがあるのですが、そうめんでよく目にする言葉です。
そうめんを寝かせると、"熟成"が進み、よりコシが強くなったり、風味がよくなったりするとも言われています。実際に寝かせたそうめんを販売しているメーカーもあります(揖保乃糸にもある)。そして、1年寝かせたものを「古(ひね)」、2年寝かせたものを「大古(おおひね)」と呼びます。
メーカーが「古/大古」として販売しているそうめんは適切に管理・保存され出荷されているのですが、そうめんマニアには買ってきたそうめんをあえて長期保存させ、自分で"古物(ひねもの)"を作り出す人もいます。
私も幾度か"古物"を食べたことがあります。最長で6年ほどかな。もちろん、賞味期限を優に越していますから、自己責任で食べました。
経験値はそれほどありませんし、ちゃんと比べているわけでもないので、適当なことを書いてしまいますが、そこまで大きく違うということは……(^^; 興味のある方は試してみてはいかがでしょうか。あくまでも自己責任で。
手延べそうめんを選ぶ意義
クソまずい素麺に何度出会ったことか。仮に安くても腹が立ちます。お金の問題じゃないんですよね。食べ物をこんなにマズく作ったことに対する怒りと言いますか、食べ物への冒涜とすら感じます。
まずいそうめんを買って失うのはお金だけではありません。手延べそうめんを作る職人は年々減ってきていて、高齢化も進んでいると聞きます。私たちが安くてまずいそうめんを買うことで、手延べそうめん産業はさらに衰退します。そうすると、たった300円で購入できていたおいしいそうめんが、今後、食べられなくなるかもしれない。あるいは500円、600円になってしまうかもしれない。
ひと夏でどれくらいそうめんを食べますか? 5回くらい? だとしたら、150円×5=750円でクソまずいそうめんを買って後悔するより、300円×5=1500円でおいしいそうめんを食べ、さらに、手延べそうめん産業を少しでも支えることができるなら、そっちのほうがよくないですか?
マズいそうめんを食べるハメになって後悔しないように、そして将来、おいしい手延べそうめんが買いづらくなって後悔しないように、この記事を参考にぜひ、おいしい手延べそうめんを選んで買って食べて下さい。