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学芸大学のBAR 翠(すい)で見せつけられた「おいしい」の向こう側

「店間違ってない? ここぼったくるよ」

翠(すい)に入った最初のひと言がこれw これは絶対楽しい店だ。そう確信しました。そして、店を出る時、なんてことのないこのセリフがとてつもなく奥の深いセリフだったと気付かされ、震撼します。

bar-suiの画像

学芸大学駅の東口方面にある十字街。数多くの飲食店が連なるこの一帯で、18年営まれている居酒屋・翠(すい)。一応、BARと名乗っていますが、どちらかというと居酒屋の雰囲気です。

「何飲む?」

「芋焼酎の水割りを」

「今日はアカキリ(赤霧島)だ。ラッキーだね」

「ラッキーなんですか?」

「そりゃラッキーだよ」

「確かにアカキリおいしいですよね」

「俺はクロキリ(黒霧島)の方が好きだけどね。アカキリじゃキリがない」

「それ、ジョークになってないですよ。クロキリだって"キリ"じゃないですか(笑)」

冷静にツッコんでおきましたw 終始こんな感じ。気さくで冗談の好きなマスターです。

「今日は、インゲン、山かけ、コロッケ……」

その日に作れるメニューを教えてくれるので、好きな物をお願いします。今回お願いしたのはコロッケ。最近、コロッケばっかだw

「ヒロシさん、私もコロッケお願いできる?」

そう言うのは、もう一人のお客さん。フリフリの白いシャツを着た、とんでもなく上品なご婦人です。見た目も言葉遣いも上品。だけど、話す内容がぶっ飛んでいます。

「最近、あっちこっちで地震でしょう」

「そうですね」

「こんなに地震があるなんておかしいと思わない?」

「おかしい?」

「だって、こんなに集中して各地で地震が起きてるのよ。絶対、自然じゃないわよ」

「自然じゃないって……。まさか、なにかの陰謀ですか?」

「そう!」

え、あ、いや、「そう」って……まじですか(笑) 見た目と口調と話の内容がまったくあってないwww この会話がここに書けるギリギリかな。他の話は全部書けませんwww

そんなこんなでコロッケができました。

bar-suiのメイン画像

はい、おいしいです。見ただけでおいしいです。わかります。大ぶりでまん丸な美しいコロッケ。箸を入れるとサクっと心地のいい音がします。はい、音だけでおいしいです。ひとかけを口に運びます。もちろんおいしいです。最高。つけあわせのキャベツがまたすごい。この包丁は素人じゃないな。トマトの皮をむいているのも素人のやるこっちゃない。

「先ほどから、ヒロシさんって呼ばれてるじゃないですか。僕もヒロシなんですよ」

「へー。どんな字?」

ヒロシ同士は出会いがち。出会ったら漢字を聞きがち。ヒロシあるあるですw 味心のマスターもヒロシ。同じ会話をしたなぁ。そして、私のヒロシはとてつもなく説明するのがややこしいので、毎度、苦労しますw

そんなことはさて置き、マスターの会話、うまいメシ、濃すぎる水割りで、楽しいひと時が過ごせました。ご婦人からの次の店への誘いをやんわりかわしつつ、会計を済ますと、マスターはこんなことを言いました。

「次回は『間違ってない?』なんて言わないから(笑)」

ははは、と軽く聞き流して店を出ます。しかし、十字街を抜けようとする頃に、気付きます。そうか、と。

よくよく考えると、「間違ってない?」というジョークはすごいジョークです。なぜなら、一見なのか2度目なのかをわかっていないと言えないからです。つまり、必ず客を覚えているということ。そして、その自信があるからこそのジョークなのです。

軽い調子で話している楽しいオヤジさんですが、実は相当に客のことを思い、客に気を遣う方だとわかりました。だから18年も続いています。

最近、老舗の店によく行きます。そこで改めて思い知らされます。うまい、まずいの話じゃないんだ、と。

店のよさとは人のよさ

です。そして、こういうことを感じられる店が多いから、学芸大学という街が好きです。

隣の呑家(旧アオギリ)は大人気店。おそらく、みなさんの中にも、アオギリへよく行くという方がいらっしゃると思います。一度でもいいですから、すぐ横の翠に行ってみて下さい。優しくて楽しいマスターの「間違ってない? ぼるよ」というセリフを聞きに。

当たり前ですが、ぼられませんよっ!w

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