学芸大学駅から徒歩1分。西口商店街の一本裏、花たこの筋に日本酒◎酒場 コメカラというお店があります。2019年2月22日にオープンしました。すぐ目の前のおでんと日本酒の和食屋・件(くだん)の2号店です。
※追記:コメカラとしての営業は2022年3月20日に終了。3月26日より志のぶ屋にリニューアル。追記以上
2004年創業の件は川辺輝明さんがオーナー店主。三軒茶屋の老舗有名店・銘酒居酒屋 赤鬼(1972年創業)での修行経験がある方です。件も今や全国に名を馳せる人気店となっています。
コメカラの物件はBOOZE(ワイン酒場→焼き鳥屋)というお店でした。BOOZEのオーナー・有沢さんとの縁で出店することになったそう(現在、有沢さんは飯田橋でLe Ginglet/ル ジャングレというお店をやっています)。
カウンター8席ほどと壁際には小さなテーブル席が3つほど。男性店長と女性スタッフ一名がいました。スタッフは件とコメカラで日によって行ったり来たりだそう。
件はおでんと刺身がメインですが、コメカラはおばんざいがメイン。件と共通のメニューもありそうな感じです。
メニュー構成の妙だな。事前に仕込んでおく。営業中はできるだけ包丁と火を使わない。こうすることで手早く注文をさばくことができるのか。なるほど。
日本酒を頼む前に料理を頼もう。料理に合わせた日本酒を選びたいから。
鰆(さわら)の南蛮漬け、自家製鶏ハム、春菊と春うどのクルミ和えをお願いしました。おばんざいは1品500円ですが、3品だと1200円。学芸大学でこのスタイルをやり始めたのはばりき屋。うまいよねw
で、日本酒は……いっぱいあるなぁ。うーん……。山和(やまわ)にするか。
なーにが料理に合わせて酒を選ぶだ。かっこつけやがって。よくわからないから一番左の飲んだことのないものを選んだだけw
お通しは胡麻豆腐。もっちり、プルプル。
胡麻豆腐と言えば金田(自由が丘)です。私の記憶が確かなら、金田はしっかりと胡麻豆腐に味をつけています。一方、コメカラはツユのダシが濃く塩味(えんみ)も強め。胡麻豆腐自体は胡麻が濃厚ながらも塩味はほとんどありません。
普通は金田のように10+0にするか、あっさりに仕上げるにせよ、3+7くらいでちょうどいい塩梅を目指します。けど、コメカラは0+10。本体とツユにここまで塩味の差をつけますか。面白いな。別にいい・悪いの話ではなく、こうするところに店の思想が表れていると捉えるべきでしょう。その思想とは……まあ追々。
山和 特別純米 蔵の華60(山和酒造店・宮城県)。いま調べたところ、酸度1.8、日本酒度+3でした。辛口ということなのでしょうけど、そこまで辛口には感じませんでした。華やかな香りで、飲み口は透明感があってサラリ。水のよさを感じさせるお酒です。
鰆の南蛮漬け。酸味は控えめ。軽くひねられたようなゴマは香ばしさというよりもまろやかさを出しています。こりゃおいしいや。
「このあたりにお住まいですか?」
「はい」
「じゃあ、今後もよろしくお願いします」
「目の前に出すというのが面白いですね」
「最初聞いたときは『どうするんだ!?』と思ったんですが(笑)、バタバタと急ぎ足で作りました」
長くなるので説明は省きますが、私はこのやり方はありだと思います。とあるメリットがとても大きい。
自家製鶏ハム。塩味がピタッと決まってる。上手。肉の隙間を埋めるコラーゲンの煮こごりもいい。
これはモモ肉だよなぁ。珍しい。胸肉よりもモモ肉のほうが難しいんですよ。火の加減がシビアになるから。そして丸め方も興味深い。モモ肉一枚をそのまま丸めたら、このサイズにはならないような。半分にカットして丸めてるのかな。今度ためしてみよう。
※追記:数日後、コメカラで学んだことを活かして、鶏もも肉のロールハムを作ってみました。作ってみて、さらによくわかった!
「日本酒は何が好き?」(隣の男性客)
「豊盃(ほうはい)が好きです。青森のお酒なんですけど、地元が青森なので」(女性スタッフ)
へー。豊盃か。たぶん飲んだことないなぁ。
注文が入ってから和えられたであろう春菊と春うどのクルミ和え。塩味をほとんど感じません。クルミのコクと春菊の爽やかな苦み、うどの小気味いい食感で食べさせます。
全体的に優しい。上品。けど、それってどういうことだろう……。
素材を活かす――よく聞く言葉です。この意味するところは、素材本来の風味をできるだけ損なわないように味付けをする、ないしは素材本来の風味を引き立てるための味付けをするということでしょう。いずれにせよ、素材を重視するということです。コメカラの料理に感じる優しさや上品さはこれに由来するのかも。
たとえば冒頭の胡麻豆腐。胡麻豆腐自体は塩味がほとんど感じられない優しいものでした。胡麻という素材を感じさせたいからでしょう。春菊、うど、クルミもしかり。極限まで味付けを控え、いや、クルミという素材で"味付け"をして、素材を前面に出して上品に仕上げる。
米から(コメカラ)から日本酒が生まれます。そして、その日本酒から様々な出会いが生まれました。コメカラが日本酒とみなさまを繋げられる場所でありますように…との想いを込めて名付けました。(原文ママ)
思い出してみれば、店名からしてそうでした。日本酒は米という素材からできています。だからコメカラ。先述の「思想」が何かと言えば、ここなんでしょうね。素材を見てる、と。
二杯目は豊盃 純米吟醸 豊盃米55(三浦酒造・青森県)。
「ちょうどさっき、豊盃の話になったんです」
「ええ、それを耳に挟んで頼んでみました」
香りはとても甘い。そして、ひと口で思わずのけ反りました。味も甘い。まるでメロン。ラベルの緑がさらにそう感じさせてる?w おいしいなぁ。大好きな味。ただ、いま見たら日本酒度は+1~3、酸度は1.5~1.7でした。ほんまかいな。
あくまでも私の印象ですが、果実酒のような甘味が口内で広がり、青草のようなフレッシュ感が鼻を抜けていきます。余韻も強い。米のうまみが最大限に活かされているように感じます。口の大きなワイングラスで飲みたいところ。
味を知らずに頼んだので偶然ではありますが、一杯目の山和とのギャップが大きくてよかった。差があったほうが楽しいよね。
全体的にポーションは少なめなので、女性一人でも来やすいでしょう。実際、この日も女性客の方が多かったし。男性なら〆にラーメンか何かを食べに行くことを想定しておいた方がいいかもしれませんね。
私のすぐ後ろには3人組、横にも2人組がやって来ました。随分と狭くなったな。入店して45分くらい。そろそろスペースを空けようか。箸とグラスのペースを速めます。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございます」
会計は2600円だったか2800円だったか。お通しが300円~500円くらいかな。いい料理、いいお酒を頂いた。そんな感じ。
最初は一人か二人がいいでしょうね。一度、のぞいてみて下さい。コメカラを、そしてコメカラの扱う素材を。