うそだろ? そう呟くしかありません。だって、住宅街のど真ん中にこんな店があるんですから。
五本木の交差点を三宿方面へ100mほど行くと翔び翔(とびしょう)という居酒屋があります。その先の路地を入ると、ほどなくして見えてくるのが天婦羅 巴(ともえ)。持ち帰り専門の天ぷら店です。
店頭には「本日3時よりの営業になります」と書かれています。が、どうもやってなさそう。もう3時過ぎてるけどw 翌日、再び行きますが、やっていません。もう潰れちゃったのか?
さらに次の日、店頭にあったチラシに書かれていた電話番号に電話をかけてみました。ご主人が出ました。よかった、潰れてなかった。聞くと3時からの営業とのことなので、3時過ぎに行ってみました。
※2024年2月ごろより長期休業に入り、同年10月、閉店しました
おおお。立て看板が出てる。行灯看板には明かりも。ただ、店の中には誰もいません。ガラスをちょっと開けて「ごめんくださーい」と声をかけると、ご主人が出てきました。
「先ほど電話した者です」
「はい、いらっしゃいませ」
「天ぷらを頂きたいんですが、何がありますか?」
「こちらで」
メニュー表みたいなものはなく、カウンター下のショーウィンドウに書かれている札がメニュー代わりでした。
「じゃあ、小海老のかき揚げ、海老、きす、ナス、カボチャをお願いします」
「今から揚げるので……4時ごろ来て頂けますか?」
「はーい。こちらはどれくらいになるんですか?」
「40年以上です。天ぷら屋で働いていて、これならここでできるかなぁと思って。ここ自宅なんですけどね、自宅だから気ままにできるでしょう。のんびりやってたら、40年以上経っちゃいました。こちらはどうしてご存じで?」
「たまたま前を通りかかって、ええ! こんな店があったんだ!って(笑)」
「わかりづらいですよねぇ。よくいらっしゃるんですよ。揚げている間、他のものを買いに行かれるでしょう」
「そうしたら、戻れない、と?」
「そうそう(笑) 学芸大学利用する方は駒沢通りまででしょう。出てくるとしても。祐天寺だったら下馬通りくらい。その間だから、なかなか来づらいですよねぇ」
「たまにそこの翔び翔へ行くんですね。よくよく見たら、その角を曲がるだけだから、わかりやすいっちゃあわかりやすいですよね」
「そうですね(笑)」
「じゃあ、4時にまた来ます」
「はい」
めっちゃ気さくで、よくおしゃべりになるお父さん。超楽しい。
私は天ぷらうどんにしようと目論んでいました。前日にはうどん用の丼も購入。あとは食材です。
まずは学芸大学駅東口方面、十字街にある八百屋・八百竹へ。ここで三つ葉を購入しました。次に学芸大学駅前の東急ストアへ。うどんを買います。本当はニューさがみやの持ち帰り用ゆでうどんにしたかったのですが、電話で聞いたら、その日はなかったので。
買い物を終え、迷うことなく巴に戻ります。4時5分前くらいに。天ぷらはもう揚がっていました。
「戻りました~」
「はーい。少々お待ちを。サービスではすも揚げておきました」
「えー。本当ですか。ありがとうございます」
「ありがとうございました~。またぜひ~」
帰宅して、さっそくうどんの準備。うどんを茹でている間に、天ぷらだけをまずパチリ。
厚めの衣。ごま油も使われてるかな? とても香ばしいです。ちなみにうどんはこちら。
上州 水沢うどん(うどん茶屋 水沢 万葉亭)。せっかくですからね。ちょっといいうどん。表示通り、固め:13分茹でて、うどんにはかき揚げを入れ、三つ葉を添えます。
いい。とてもいい。見た目がまずうまそう。この丼も買ってよかった。
かき揚げと一緒にうどんをひと口。かき揚げの衣は汁を吸っている部分とまだサクっとしている部分が混在しています。三つ葉の爽やかな香りがフワっと漂い、しっかりとコシのあるうどんはツルッツル。自分で作っておきながらなんですが、ダシもいいのぉ。例の醤油を使ってるしね。うーん、うまい!
最後のほうは、衣が完全にふやけちゃうわけですが、これもまたおいしいんだよなぁ。
他の天ぷらは塩でそのまま頂きます。さすがに揚げたてのサクっと感はありませんが、なかなかおいしいじゃないですか。持ち帰って食べる惣菜としては、十分すぎるほどのクオリティ。
小海老のかき揚げが220円、海老が200円、安いものは100円ほど。注文が入ってから揚げ始めるので、電話で予約するのがいいと思います。というか、何時に開くかは日によって違いそうですし、時間を確認するためにも電話を一本入れておいた方が確実でしょう。
巴(ともえ)は、コンマあるいは勾玉のような形をした日本の伝統的な文様の一つ、または、巴を使った紋の総称。巴紋(ともえもん)ともいう。家紋や神紋・寺紋等の紋としても用いられ、太鼓、軒丸瓦などにも描かれる。
(中略)
その後、水が渦を巻くさまとも解釈されるようになり、本来、中国では人が腹ばいになる姿を現す象形文字の巴という漢字が、形の類似から当てられた。水に関する模様であることから、平安末期の建物に葺かれた軒丸瓦などに火災除けとして、巴紋を施した。
へー。知らなかった。火と油を使うから、火災除けで「巴」なのかな?
おそらくそれほど多くの人には知られていない巴。40年以上に渡って、ひっそり、のんびり営まれてきた老舗は、これからも変わらず、静かに天ぷらを揚げ続けていくのでしょう。私はというと、ふと思い出してはまたお父さんに会いに、天ぷらを買いに巴を訪れることになるんだろうなぁ。
2019年5月13日追記
上述の通り、この角を曲がると巴があるわけですが……
立て看板が表に出ているのに初めて気づきました。
「ワインで如何ですか?」
ど、どうしたお父さんw なぜゆえ、こんなシャレたことをw いや、もちろん日本酒でもワインでもいいのですが、あえてワインと書くには何か意図があるんだろうな。これを想像すると、なんだか楽しくて。
そして創業が1973年ということも判明しました。私の生まれ年。いやはや。すごい。
注意書きが貼られるようになっていました。こういう類を見ると、口やかましいオヤジかと思うかもしれませんが、まったくそんなことはありません。むしろ逆。これはきっと本心でお客さんに迷惑をかけたくなからという優しさです。よく読んでおきましょう。
店頭の看板も賑やかになってるな。先の立て看板もそうだけど、手作りすることがお好きなんだろうなぁ。
この日はまだ開店前でした。近いうちにまた買いに行こう。てか、お父さんと話しに行こう。
SHOP DATA
- 天婦羅 巴(ともえ)
- 東京都目黒区五本木2-38-7
- 03-3713-6940
- 公式