※2021年7月15日追記:2020年?2021年初頭?に閉店しました。追記以上
ずっと前から気になって行きたかった武蔵小山の居酒屋・炉ばた焼 大関。ようやく行くことができました。
武蔵小山駅から徒歩3分。東天地本通り沿いにある炉ばた焼 大関。店頭にはハイサワーの提灯、のぼり、瓶ケース。なんてことのない光景ですが、ここは博水社のお膝元。ひと味違った風情に見えます。
座って相撲中継を見ていたお父さんとお母さん。ガラっと扉を開けた瞬間、立ちあがります。
「すみません、ご観覧中に。いいですか?」
「どうぞ。いらっしゃいませ」
ちょうど全取り組が終わったところでした。
「どうでした?」
「上位陣は安泰ね」
連れと二人だったので、お通しが2種。カニカマサラダとほうれん草のゴマ和え。おいしいなぁ。
一杯目はもちろんハイサワーで作ったレモンサワー。爽やかな酸味、ほのかな甘みを感じつつ、注文した焼き鳥の仕込みを眺めます。
鳥肉を切り、串打ちして、塩を振って火へ。電気グリルの赤い光っていいよなぁ。小さい頃、実家にあった石油ストーブやこたつを思い出すから、懐かしさを感じるのかな。
お父さんは手を動かしながらも、よくお話しになります。途中でやって来たご常連さんも交え、退店までとにかくよくお話しさせて頂きました。武蔵小山の焼き鳥事情、学芸大学の居酒屋「村人」のこと、お花見のこと、ボーリングのこと、不動前まで散歩することなどなど。
焼きとりのたれ
30余年の歴史と味が自慢です
この張り紙自体に年季がありますから、店の歴史はもっと古いのでしょう。
「こちらはどれくらいになるんですか?」
「44年」
「てことは、1972年?」
「そう。沖縄返還、あさま山荘事件、札幌オリンピック、ベトナム戦争……」
「僕は1973年生まれなんです」
「生まれる前だねぇ(笑) 当時、20代だったお客さんがもう65歳だよ。お客さん年寄りばっかり。こんなところに若い人が来ても面白くないでしょう」
こういう居酒屋では、私なんざ、まだまだ若輩者w
「いえいえ。とんでもない。むしろ面白いですよ」
「そう? 隣に座った人が話しかけてきたりするのよ? もう、やめなさいっていつも言うの」
「えええ。それが楽しいんですよ。そういうのが、こういうお店の面白さだと思うんだけどなぁ」
「うちね、カラオケもあるのよ」
テレビの下にカラオケ機がありました。
「ほんとだ。じゃあ、カラオケで盛り上がる日もあるんですね」
「うるさいくらい(笑)」
「けど、先輩方にスナックとか連れて行ってもらうこともよくあって、いっつも思うんです。みなさん、ほんと歌がお上手ですよね。なんでですかねぇ」
「場数が違うんだよ。毎晩歌ってるもん(笑) そして、ボックスじゃだめだね。スナックじゃないとうまくならない」
なるほど、わかるような気がするw
焼き鳥はレバー、つくね、ねぎまの順に出てきました。
およよ。自慢のタレはなしかw けど、どれもおいしいです。電気だって、ちゃんと技・経験があればこうしておいしく焼けるのですよ。
焼き鳥の写真を撮っていたら、お母さんがこんなことをおっしゃいました。
「写真に撮るとおいしそうに見えるのよね(笑)」
「いやいや、本当においしいですもん」
するとお父さん。
「おいしそうに撮れてる?」
写真をお見せしました。
「ははは、よく撮れてる(笑) この前、目黒区の飲食店を紹介するサイト?の人が来てね、ウチを紹介したいって言うんだけど、そんなのでたくさん来てもらっても困るから断ったんだよ。でも、どうしてもって言うから、目立たないように載せてもらった(笑) それ見て来たの?」
「いえ、住まいは学芸大学駅方面なんですが、このあたりにもよく来ていて、お店の前を通るたびに、いつかうかがいたいなぁと思ってたんです」
さて、次は何を頂きましょうかね。相方に聞くと、ホワイトボードを指さしてこう言いました。
「ハイーピーって何?」
ん?
とまと、なす、ハイーピー。ハイーピー? ハイッピーか? いや、この並びだから、もしかしたらつまみ系?
「すみません、ハイーピーって何ですか?」
「ホッピーみたいに焼酎で割るの。博水社という会社がそこにあって、ハイーピーもハイサワーと同じ博水社のでね」
「お父さん! そりゃそうでしょうけど、なぜ、あそこに!(笑)」
ツッこんでおきましたw そしたら、お母さんが笑いながらおっしゃいます。
「そう、よく聞かれるのよ。あんなところに書いちゃってるから。何ですかって(笑)」
「じゃあ、ハイーピー下さい。飲んだことないんです」
「おいしいわよ~」
「うん、ホッピーとはまたちょっと違って、おいしいですね」
「でしょう。ちょっとレモンの味がするのよ」
確かに、ちょいとレモン風味。あとで知ったのですが、ハイサワーハイッピー ビアテイスト、レモンビアテイスト、ZEROと、ハイッピーには3種あるそうです。あれはレモンビアテイストだったんだろうな。ホッピーよりも爽やかです。
「博水社のって、全部、ハイサワーなんですよね」
「そう。昔は青リンゴとかライムとかも置いてたんだけど、レモンサワーとこれだけになっちゃったね。前、静岡からわざわざ、ハイサワーを飲みたいって言ってここに来た人もいたよ。東京以外ではあんまり見かけないんだってね。表にハイサワーののぼりが出てるから、それ見て来たんだって」
「へー、そこまでしますか(笑)」
で、なんだっけ? ああ、そうそう。何か頼もうとしてたんだ。
「何か頂きたいんですが、何がいいですかねぇ」
「魚は食べられる?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、にしんは? ちょうど旬で」
「お願いします」
サッサッサッ。斜めに飾りを入れます。続いて裏返しにして、スーッ。おや? 背の近くあたりを真横に一筋入れました。なんだろう。こうした方が身が崩れにくいとか?
「片面は斜め、片面は真横に包丁を入れましたよね。これ、何か意味があるんですか?」
「両方同じだと面白くないから」
そうなんだ。こういうやり方はよくあるのかな。焼き上がったにしんがこちら。
立派!
「たまに数の子が入ってるんだけど、だいたい白子だねぇ」
その白子がトロットロ。うめっ。
ご常連の先輩はスナックの話をし始めました。
「このあたり、スナック多いですよねぇ」
「昨日も、あそことあそこに行ったなぁ」
「ちょっと前、向うの"ひがしてんちどおり"のスナック、なんだったかなぁ。行きましたよ」
「あれ、"あずまてんちどおり"って読むんだよ」
「あー、そうなんですか。知らなかった! 駐輪場のあるあっちが東天地通りで、ここは東天地本通りですよね」
「そうそう。あっちのどこだろう。『花道』?」
「そうですそうです。マスターとママがほんといい人で。料理もおいしいんですよ」
ここでお父さんがバトンを受けます。
「確か九州の人だったかな」
「ですです。だから、九州からおいしい鯖が送られてきて」
「へしこ知ってる?」
「もちろん。一番好きな魚は鯖ですもん。塩とか麹とかに漬け込んだ、しょっぱいやつですよね」(とその時言ったけど、あとで調べたら麹じゃなくて糠だったw)
「そう。福井出身なんだけど、田舎から送ってくれるんだよ」
「頂きたいんですけど、今日は日本酒までは無理だしなぁ」
「ははは(笑)」
御歳76。けど、とてもお元気なお父さん。素敵な方だ。お母さんもそうですが、このお人柄が何十年と愛される理由なんだろうな。
にしんを食べ終え、お勘定をして頂きました。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございます」
「お先に失礼します」
「また寄ってね」
お父さん、お母さん、ご常連の先輩に挨拶をして店を出ます。うん、本当にいいお店だ。
にしんは別名、春告魚(はるつげうお)。日は長くなったし、暖かくなりました。にしんに告げられた春を感じながら、26号線を北上します。次回はへしこにお酒だな。
SHOP DATA
- 炉ばた焼 大関
- 東京都目黒区目黒本町5-1-5
- 03-3793-8543
- 公式