今回ご紹介するのはイトメン株式会社の揖保の峰。
スーパーつかさ 学芸大学店で購入しました。224円/500g。一般的なそうめんの量・300gに換算すると134円。機械麺そうめんとしてはなかなか安いです。
さて、最初に。
揖保乃糸と揖保の峰の違い
揖保乃糸と揖保の峰は名前が似ていますが、まったく異なります。メーカーが違うので、根本的に違うのですが、ただ、もっと重要なことがあります。
- 揖保乃糸…手延べそうめん
- 揖保の峰…機械麺そうめん
ここです。ここが本質的な差です。
そうめん(広義)には手延べそうめんとそうめん(狭義)があります。後者は機械麺そうめんとも言います。
両者の差は手作りか機械製か、ではありません。手延べそうめんは生地を細く延べていき、一本の麺にします。機械麺そうめんは生地を薄く板状にのばし、細く裁断します。
中国からそうめんの原型が伝わったのは奈良時代(遣唐使)。以後、手延べ製法も伝わり、各地で手延べそうめんが作られるようになります。
手延べそうめんが西日本を中心に広く伝播していったのは江戸時代。そして明治以降、製麺機が登場し、細く切る"そうめん"が生まれました。これまで延べて作っていたそうめんが、うどんやそば、中華麺と同様、切って作られるようになったというわけです。
手延べであるがゆえに生まれるコシ。これが(手延べ)そうめんの醍醐味なのですが、切って製麺する機械麺そうめんにはコシがほとんどありません。ですから、機械麺そうめんは基本的においしくありません。
という基礎知識をおさらいし、揖保の峰の話を進めましょう。
播州素麺=機械麺
6束で500gというのはあったかなぁ。ちょっと思い出せません。珍しいです。だって、500÷6=83.33333……。割り切れないですからねw
どうなっているのだろうと1束を計ってみました。
84g! お見事!w
※束紙も含んだ重さではありますが、こんなのはほとんど重さに影響を与えないでしょう
小麦の香りはさほどしません。機械麺そうめんにしては細目に感じます。
「播州素麺」(すべて漢字)は機械麺メーカーが中心となって組織されている兵庫県乾麺協同組合の登録商標です。イトメンも同組合に所属しています。
播州素麺という商品名のそうめんも数多く販売されているのですが、商品名であろうがなかろうが、播州素麺という表記があれば、機械麺そうめんです。
逆に揖保乃糸は播州素麺ではありません。揖保乃糸は兵庫県手延素麺協同組合の登録商標で、機械麺ではなく手延べ。「揖保乃糸は播州そうめん」とは言えますが、「揖保乃糸は播州素麺」というのは誤りです。まあ、「揖保乃糸は播州そうめん」も言い方が微妙なので、あえて言うなら「揖保乃糸は播州手延べそうめん」が適切でしょう。
ぜひ、以下の過去記事もご参照ください。
- おいしいそうめんの選び方、そうめんのおいしい食べ方/買ってはいけない素麺とは
- そうめんとひやむぎの違いは?手延べそうめんと機械麺の差は?そうめんの定義は?法律、規格、ガイドラインから素麺の基礎知識をわかりやすく図解してみた
1年熟成と炭酸カルシウム
揖保の峰には大きな特徴がふたつあります。
- 1年熟成
- 炭酸カルシウム入り
素麺は製麺後時を経る事によりコシが強く、美味しくなります。「1年熟せた蔵の味」は通気性の良い箱に詰めた素麺を専用蔵にて食べ頃になるまで1年以上製品熟成した商品です。
寝かせると熟成が進みコシが強くなるということはよく言われています。手延べそうめんでも1年、2年と寝かせた商品も多いです(古(ひね)、古物(ひねもの)などと言います)。
問題は炭酸カルシウムですよ。
パッケージ表には「家族がうれしいカルシウム配合」とあります。基本的にそうめんにはカルシウムは含まれていません。ですから、まったくないよりも少しでも入っていた方が健康にいいかもしれません。
けど、これは表向きのことでしょう。本音と言いますか、炭酸カルシウムを使っている真意は、食感をよくするためじゃないでしょうか。
炭酸カルシウムは食品添加物として使用が認められています。主な用途はカルシウム強化、食感改良です。
出典/白石グループ:食品添加物
炭酸カルシウムが使われているそうめんは初めてです。どうなんでしょう。楽しみです。
まるで手延べのようなコシ
茹で時間は約3分とあります。機械麺そうめんは表示通りに茹でるのが無難なのですが、この細さですから、3分はちょいと長い気もします。2分頃から一本つまんで食べてみて、様子を見つつ、2分半茹でました。
まずはそのままひと口。
え?
いや、ちょっと待て。
うそでしょ?
ふた口。み口。
そんなばかな。
これまで約200種のそうめんを食べてきました。正確な数は把握していないのですが、そのうち100種が機械麺そうめんだったとしましょう。揖保の峰はその中でもっともおいしいです。それどころか、信じがたいことに、これは手延べそうめんにもっとも近い。
たとえば。
あるそうめんを出され、「手延べか機械麺かどちらでしょう」と言われれば、私は100%当てられます。これは私がすごいのではなく、それほど両者に差があるということです。
けど、揖保の峰によって100%当てられるという自信が揺らぎました。
「これは手延べそうめんです」と言われ揖保の峰を出されたら、「ああ、コシが穏やかな手延べそうめんなんだなぁ」と騙されます。それくらい揖保の峰は手延べっぽい。
プリンとした手延べそうめんにも通じるコシ。ツルッツルな舌触り。すごい。
ただ、惜しむらくは風味。味は薄い。小麦の風味はさほどしません。
機械麺そうめんは★4ですら例外中の例外なのですが、私は一瞬、機械麺そうめんに初めて★5を与えようかと思いました。風味がよければ、★5だったのですが……★4で。
とはいえ、このコシはすごい。私が食べた中で、手延べそうめんに一番近い機械麺そうめんです。すばらしい。感動しました。
何かの間違いかもしれないw 翌日、もう一度食べてみました。
うん、やっぱり手延べっぽい。この食感は1年熟成させたことによるものというよりも、炭酸カルシウムが効いてるんじゃないかなぁ。
さらに翌日、にゅうめんにしてみました。4分くらい煮たでしょうか。コシはほとんどなくなり、こうなると、どのそうめんでもだいたい似たようなものになるのですが、それでもおいしいはおいしい。
邪道?
炭酸カルシウムを入れることは邪道でしょうか?
機械麺そうめんなんておいしくないんですよ。これをおいしくしようと添加物を加え、実際、おいしくなっています。
- "王道"の材料だけど、おいしくない食品
- あまり使われない"邪道"な材料を使っているけど、おいしい食品
私は後者を選びます。
そもそも、機械麺そうめん自体を邪道と言ってしまうことだってできるわけでして。だって、延べて作っていたものを切って作ってるんですよ? これこそ邪道でしょうw
炭酸カルシウムを使うことが仮に邪道だったとしても、おいしいのですから、私はこちらのほうがいい。邪道? だとしても、大いに結構。
シーズンが終わった10月に買ったので、相当安くなっていたとは思います。もしシーズン中もこの値段でしたら、積極的にお勧めします。330円(300g換算で200円)までだったら絶対に買いです。それ以上だったら、やっぱり手延べそうめんを選んでください。
揖保の峰? いやいや、これは機械麺そうめんの最高峰です。
つーか、炭酸カルシウムでこのコシが得られるなら、機械麺そうめんはすべからく炭酸カルシウムを入れるべきじゃね?とすら。
名称 | 揖保の峰 |
原材料名 | 小麦粉(国内製造)、食塩/炭酸カルシウム |
製造者 | イトメン株式会社 |
評価 | ★★★★☆ |