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ENTIER/アンティエ(西小山)のスペシャリテ・クロワルースは濃厚で、バゲットは風味豊か。フランス仕込みの完成されたケーキとパンに笑うしかありませんでした。

フランス仕込みのケーキとパンがタッグ

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西小山駅から徒歩2分。にこま通り商店街沿いにPATISSERIE BOULANGERIE ENTIER(パティスリー・ブーランジェリー・アンティエ)というケーキとパンのお店があります。2021年2月11日にオープンしました。

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パティシエはオーナーでもある柴田雅章さん。メゾンカイザーとセバスチャン・ブイエでシェフだった方です。ブーランジェリエはローランさん。メゾンカイザーでシェフを務め、武蔵小山でブーランジェリー・ロラソ(ROLASO)をやってました(2020年閉店)。

柴田さんが独立し、自身の店を構えるにあたり、「しっかりとしたパンも提供したい」との思いから、ローランさんに声をかけたということのようです。

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シックな店舗スペースの奥に工房。ガラス張りなので工房の様子も見られます。

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柴田さんはリヨンのセバスチャン・ブイエ、ローランさんはパリのメゾンカイザーで働いていた経験があるので、ケーキもパンも本場・フランス仕込み。つうか、ローランさんはフランスの方なんですがw

パンコーナーにはバゲット、食パン、クロワッサン、キッシュなど12種。定番がありつつも日によって数・種類は変わるのでしょう。

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冷蔵ケースにはプリン、モンブラン、シュー、タルトなどケーキ類が10種。

パンもケーキも種類を絞っているように見えます。種類を増やすよりも、数を絞って、その分、ひとつひとつにしっかり手をかけよう、そんな想いがあるような。私が訪れたのはオープン数日後だったのですが、このスペースの取り方からすると、オープン直後だから種類を控えめにしているわけではなく、今後もこうなんじゃないでしょうか。

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「いらっしゃいませ」

「バゲットと、あとケーキを頂きたいんですが、どれがいいですかねぇ。って言われても……ですよねw」

「でしたら、おすすめは……」

ふぉ。即答できるようなものがあるのか。聞いておいてよかった。

「クロワルースが当店のスペシャリテです。シェフがフランスで学んできたものなんです。ビターなチョコレートでコーティングしていて、中にブリュレと……」

「じゃ、それをひとつお願いします」

「どれくらい持ち歩かれますか?」

「30分くらいです」

「かしこまりました」

時間によっては保冷剤をつけてくれるのでしょう。

会計を済ませ、自転車に乗って学芸大学方面へ。なるべく凸凹していない路面を選びながら、ハンドルにぶら下げたケーキ箱を揺らさぬよう気を付けて。

妖艶なスペシャリテ・クロワルース

ENTIER(アンティエ)のメイン画像・クロワルース

クロワルースは漆黒のオニキス。妖艶。弧を描く白と黒のチョコレートプレートに第10使徒を感じてしまったのは、単に最近、Youtubeでエヴァンゲリオン解説動画を見過ぎているからw

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チョコレートコーティングの下にはチョコレートのムース。その中にチョコレート生地とバニラのブリュレ。さながらセントラルドグマにアダムとリリス。もういいって?w

ひと口。

「ふはははは」

声に出して笑いました。笑うしかありません。なんじゃこりゃ!? うんまっ。

ビターではあるけれど甘みもあるチョコレートと、まったりと舌にまとわりつくブリュレはどこまでも滑らかで、コクがあって濃厚。ここ1年、いや2年で食べたケーキの中で断トツ。一番おいしく、一番印象に残るであろうケーキでした。

「余計なものが入ってなくていいね。(さほどケーキが好きではない)私でもこんなに食べられる」

と連れ。

確かに。柑橘やお酒でフレーバーが足されてない。チョコレートのプレートと金箔で飾られてはいますが、過剰なデコレーションはされていない。逆に、これ以上、削ぎ落すことができないんじゃないかと思うほど洗練されているとも言いたくなります。

これはやばい。衝撃的にうまい。

香り高いバゲット

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低温長時間発酵のバゲットは紙袋を開けただけで、甘くて香ばしい香りが漂ってきます。

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まずはそのまま。バリっと堅めのクラストはとても香ばしい。中のクラムは水分が少な目なんですが、甘くて芳醇。重厚で力強いバゲットです。なるほど確かにメゾンカイザーというか、私にとってはBread Plant OZを思い出させます。

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そのまま、あるいはオリーブオイルで食べるのが一番ですが、濃いパスタソースやレバーパテにもぴったりでした。

このバゲットもおいしいなぁ。そして完全に私好みの風味・食感。リピート必至。

ENTIERはなにも足さない、なにも引かない。

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画像転載元/Google Maps(photo by Yael Luxman-Bahat)

クロワルース(Croix-Rousse)はフランス・リヨンの街の名前です。セバスチャン・ブイエ(Sébastien Bouillet)の本店がある街。そして、アンティエのクロワルースはセバスチャン・ブイエの人気ケーキ・オデオンのオマージュでしょう。

クロワルースとオデオンが同じなのか似てるのか、あるいはどう違うのかはわかりません。どうであってもいいのですが、いずれにせよ、思わず笑ってしまうほどおいしかったです。バゲットも同様。私の住む学芸大学駅から自転車で30分の距離圏にあるバゲットでは間違いなく3本の指に入るおいしさでした。

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「ENTIER」はフランス語で「完全な」「全部の」「頑固な」といった意味です。詳細は省きますが、ラテン語の「手に触れられていない(in + tango)」といったニュアンスの言葉が語源となっています。手に触れられていないから何も欠けてない、だから完全。料理においてはœuf entier(全卵)、lait entier(全乳)といった言葉でよく目にします。

ENTIER(アンティエ)という店名が何に由来するのかはわかりません。何も欠けていない、完全な→ここに来ればほしいものがすべて揃ってる。そんなニュアンスで店名がつけられたのでしょうかね。

私はケーキやバゲットを食べてみて、"ENTIER"を感じました。何も欠けていない、余計なものは何も足されていない、完成されたケーキ・バゲットだと。

「なにも足さない、なにも引かない」はサントリー山崎のキャッチコピー。ENTIER(アンティエ)にも同じキャッチをつけたいなw

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オープン数日後に行ったのですが、客はまばらでした。んなバカな。まあ、すぐにメディアでもよく取り上げられるようになり、地元のみならず遠方からもケーキ好き、パン好きがやって来るような店になるでしょう。

ぜひ一度。これは相当ですよ。

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