学芸大学駅から徒歩2分。東口を出てすぐの恭文堂書店を曲がった筋に昭和ノスタルジック広場 壱福商店(いっぷくしょうてん)というお店があります。2019年7月13日にオープンしました。
隣はやばい定食屋・ねこにこばん。外観だけを見るなら、すごい並びです。
※正確な表記は壱福商店ではなく壱福商店。ざっくり言うと福は福の旧字体
店に着いたのは19時。ちょうど店主が縄のれんを出していました。
「19時オープンですか。遅めですね」
「スタッフがいなくて、今のところ……」
「なるほど。いいですか?」
「はい、いらっしゃいませ、どうぞ」
詳細は後述しますが、最初にひと言だけ。ここはいわゆる居酒屋ではありません。
カウンター10席。昭和をイメージさせるポスターが貼られ、昭和歌謡が流れています。
「お通し(350円)はそちらの駄菓子です。ご自由にお取り下さい」
居酒屋でこれは基本的にありえませんから、この時点で居酒屋ではないんだろうなと感じていました。連れが選んできたキャベツ太郎をサクサク。
富士白レモンチューハイ。甘めでおいしいです。
メニューは……なるほど。ポテトサラダを頼みました。
「この前はどこかで店をやっていたんですか?」
「いえ、初めてです」
「他にオーナーさんがいたり?」
「私がオーナーです」
「てことは個人店ということですか」
「はい」
「いきなり初めて飲食店ですか。すごいですね」
帰って調べてみたところ、店主・金秀一(こんしゅういち)さんは株式会社ミリオンプレイスという会社の代表でもあります。テレビ番組やウェブサイトの企画・制作を請け負う会社のようです。
「こちらは居酒屋ではないんですか?」
「そうですね。学芸大学はおいしいお店がいっぱいあって、レッドオーシャンでは勝てませんから」
レッドオーシャン……か。
「つまり、ちょっとしたつまみのある飲み屋、そんな感じですかね」
「ええ。ですから、こういった珍しいお酒をお客様に楽しんで頂けたらと」
「この物件が決まる前から、こういう昭和をテーマにしようと考えていたんですか?」
「いえ。ここはもともと彦一さんという焼き鳥屋さんで、造作もできるだけその時の雰囲気を残してるんです。長く続いていたお店でしたから、じゃあ昭和をテーマにしようと」
「隣(ねこにこばん)があんな感じだから、というわけではないんですね」
「むしろ、向こうが寄せてきています」
「え? 寄せてきてる……」
ジョークなんでしょうけど……。
隣のねこにこばんは誰にもマネできない唯一無二のクソやばい定食屋。ガチでイカれた店。まがいものでも作り物でもない、店主の魂が溢れ返っている、紛れもない本物。学大が誇るべき最高峰の店です。
「マネをしたというわけではないんですけど、とても素敵な人気店なので、こちらもそれにあやかれればいいですね。そして、一緒にこの一帯を盛り上げていければ、と」
こう答えるかな。私なら、ね。
「先ほど、スタッフがいないから19時オープンとおっしゃってましたが、何時までですか?」
「今は12時までで、深夜営業の許可が下りたら1時、2時……と考えているんですが、12時を過ぎるとこの前はパッタリと人が通らなくなるので、どうしようかと。様子を見て、ですね」
ほぉ。そうなんだ。
「もしかして、学大の情報とかをいろいろ発信している方ですか?」
「あ、はい」
「ウチのことも発信して頂いていると知人が教えてくれまして。ありがとうございます」
「いえいえ」
「これ、オープン記念に作ったオリジナルのハイチュウです。よければどうぞ」
「ありがとうございます」
店主の知り合いが二人連れでいらっしゃいました。その方たちと店主との会話でわかったのですが、女の子のスタッフもいるようです。
「ごちそうさまでした」
「今後ともよろしくお願いします」
ちょっとしたつまみもある飲み屋。ですから、居酒屋というよりも駄菓子バーと言った方が現状に近いでしょうね。
昭和レトロか。この壱福商店が体現しているような昭和レトロは、私より10歳、いや20歳ほど上の人たちにとっては馴染みのある光景でしょう。昭和20年代~昭和40年代前半あたりに子供時代を過ごした人たちにとっての原風景。
ただ、実体験していなければノスタルジーを感じないかというとそんなことはなく、平成生まれであっても、このような物にそこはかとないノスタルジーを感じてもおかしくはありません。ノスタルジーとはそんなものです。
そもそも、店の一番奥にある太陽ワインのポスターは赤玉ポートワインのポスターが元ネタで、これはなんなら大正時代。浪花千栄子(オロナイン)、大村崑(オロナミンC)、松山容子(ボンカレー)のホーロー看板は昭和40年代、ポスターが貼ってあった映画『セーラー服と機関銃』(主演/薬師丸ひろ子)は昭和56年公開。ここにあるグッズでも随分と幅があるわけでして、まあ"昭和レトロ"と言っても、なんとなくのイメージです。
「俺が小学校の頃はあれがさぁ」
「この曲、中学の時にね……」
「田舎のおばあちゃんちに、こういうのがあって……」
そんな懐かし話で盛り上がるというのも、このお店の楽しみ方なのかもしれませんね。
SHOP DATA
- 壱福商店(いっぷくしょうてん)
- 東京都目黒区鷹番3-3-10 第5エスぺランス1F
- 03-5734-1201