三軒茶屋駅から徒歩10分強。学芸大学駅、祐天寺駅からだと20分前後。龍雲寺通り沿い、世田谷観音交差点近くにThe HangedMan's BAR 十二というバーがあります。2018年12月13日にオープンしました。
※2024年3月末に閉店しました
オーナー店主は吊るされた男(The Hanged Man)というハンドルネームを持つ焼酎ブロガー。本業はサラリーマンで、副業としてバーを始めたそう。
ちなみに、動詞のhangは次の意味があります。
- 掛かる、垂れ下がる
- 絞首刑になる
「掛かる」の意味で使う場合の過去形/過去分詞形はhung。「(首を)吊る」の意味で使う場合の過去形/過去分詞形はhanged。
なんかCGみたいw 飲食店が少ない龍雲寺通りにこんな店がポツンとある唐突感。そして、いま気づいたんだけど、バーなのにガラス張りというのも珍妙。違和感ありまくりなんだけど、だから逆に引っかかる。
店内はカウンター8席と3人ほどが座れるソファーがひとつ。すごくオシャレなんですが、どうも様子が変。なんだろう。なーんか違和感がある。もちろんそれは悪い意味ではなく、いい意味で。
おしゃれなラックに焼酎がずらり。ここだけで約50種。きっとこれ以外にもあるはず。
私の芋焼酎経験は150種くらいを飲んでる程度。日本一焼酎がそろってる某焼酎バー(青山)で飲みあさっていたのがもう15~20年前か。150種というと多く聞こえるかもしれませんが、その某バーには6000種ほどの焼酎があるわけですから、150なんて屁みたいなもんですw このラックですら知らない芋焼酎がいっぱい。
焼酎バーではありますが、ワインにもこだわりがありそう。ワインはボトルキープができるのか。
焼酎はアルコール度数が29度以下なら500円。30度以上は800円。確かに度数が高いと一本の価格も高くなりがちなんだけど、度数で値段を切るのが面白い。これができるってのは、いい仕入元を知ってる、場合によっては蔵元ともつながっているからこそだろうなぁ。
一杯目に選んだのは「本格焼酎 むろか しょうちゅうの華」。ロック、ノーステア。ハードリカーのロックはノーステアにしてもらいます。
わお。フルボディ。どっしり重め。芋の風味がしっかり強く感じられます。うまっ。
「伊勢五本店のラベルが貼ってありますが、伊勢五本店のプライベートブランドだったりするんですか?」
「すみません、まだ不勉強で……。オーナーならわかると思うんですが。僕はもともとオーナーの奥さんと知り合いで、僕が新宿のバーで働いていたりもしてるので、ここを手伝わせてもらってます」
この日いたのは吊るされた男ではない若い方(32歳)。新宿のバーの他、学芸大学方面のある会社にも勤めていて、イラストレーターもやっているのだそう。吊るされた男は火水木(だったかな?)で、週末はこの男性。奥さんが立つこともあると言ってたような。
伊勢五本店は千駄木と中目黒にある有名な老舗酒屋。いま調べてわかったのですが、「しょうちゅうの華」は伊勢五本店のPBではありませんでした。
「しょうちゅうの華」は岩倉酒造場(宮崎)の「月の中(つきんなか)」の無濾過タイプ。春と秋に販売され、秋バージョンは熟成タイプとのこと。この「しょうちゅうの華」がどちらなのかは不明。
伊勢五本店のラベルを貼り、「問い合わせは当店(伊勢五本店)まで」とわざわざ表記しているのは、蔵元を慮ってのことでしょう。人気銘柄ですから、消費者からの問い合わせも多いはず。家族経営の小さな蔵なので、おそらく対応し切れないなんだろうな。
さて、「しょうちゅうの華」の味に関して。とてもおいしいのですが、不思議でもあります。「月の中」はかなり独特な風味です。その無濾過となると、さらにクセが強くなりそうなものなのに、「しょうちゅうの華」はオーソドックスに芋感がガッツリ。「月の中」というより、同じ岩倉酒造場の「妻」に似ていると感じます。不思議だ。
いずれにせよ、「しょうちゅうの華」は無濾過だからといって雑味があるわけではなく、芋がしっかりと感じられる骨太なタイプでした。さつま無双(赤ラベル)が好きな私が大好きな味。あ、もしかしてこれは秋の熟成タイプで、だから「月の中」に感じるクセが減り、味わいに丸みが出てるのかな?
「どうして十二なんですか?」
「オーナーが吊るされた男と言うんですが、吊るされた男(The Hanged Man)はタロットカードの12なんです。あと、オーナーの名前がジュンジでそれもかかってて、他にもあるみたいなんですが……」
「このあたりにお住まいですか?」
「学芸大学のほうです。なぜこんな場所に?」
「どうしてでしょう……」
「お客さんはこのあたりの方が多いんですか?」
「そうですね。この通りの日本酒の……」
「ぎんのとらですね」
「あ、そうです。ぎんのとらやNishiや庵のお客さんがみなさんつながっていて、そういう方々がみなさんで来て下さったりもします。このあたりのお店にはよく来られますか?」
「そんなに来ないですねぇ。もっぱら学芸大学です」
「学芸大学ってお店いっぱいあります? オシャレなお店ばかりというイメージが」
「そうですかねぇ。何でもありますよ」
「ラーメンだったらあそこ、ちょっと高い……」
「麺LABOひろかな」
「そうです。おいしいですよね。あと、びぎ屋」
「びぎ屋もおいしいですね」
「すするはどうですか?」
「オーソドックスな、最近よくある魚介系ですね。まぁ、おいしいはおいしいですけど」
「よくご存じですね」
よもや世界で一番、学大の飲食店を巡っている人間が目の前に座っているとは思うまいw
二杯目は力三のオリジナルブレンド。吊るされた男が数種の焼酎を混ぜてると言ってたような。
力三のメーカーは小牧醸造(鹿児島)。小牧、一刻者が有名です。力三は酒屋・堀之内酒店(鹿児島)の三代目店主・堀之内力三さんが中心となっている有志・薩摩心酔会が作っている芋焼酎。
ひと口目でびっくりしました。何種ブレンドしているのかはわかりませんが、私にははっきりと2種の味わいが感じられます。ひとつはスッと流れ込む爽やかな味。前割りかと思わせるほどの透明感です。もうひとつは舌にざらつきを感じさせる荒々しい味。ざらつく感じは黒麹の芋焼酎にありがち。
これもまた不思議だ。ふたつの焼酎を同時に飲んでるみたい。一升瓶に入れて一度ひっくり返して注げば、まとまるのかな? いや、別にまとまってなきゃいけないというわけではありません。ここまではっきりと味が分かれて感じられるというのが面白い。
壁に掛けられているのは映画監督、デヴィッド・リンチの版画。吊るされた男はデヴィッド・リンチのファンで、店のテーマは「デヴィッドリンチと焼酎」。この版画もさっぱりとした空間も趣味がいい。
あ、わかった。この違和感。普通のバーはお酒のボトルがズラリと並んでる。けど、ここにはそれがない。だから不思議な感じがしたんだ。なるほど。
吊るされた男がいれば、いっぱい焼酎の話ができたかもしれない。不思議に感じたこともその場で聞けたはず。けど、これはこれでよし。
「これってどういうことだろう」と思うことを突き詰めたい性分で、だからこんな商売をやっているんだろうけど、すべてをつまびらかにすりゃいいってもんでもない。不思議なまま、違和感のあるままにしといたほうが面白いことだってあるだろうしさ。次回の楽しみも取っておけるしさ。
そういう意味では、こっちが宙に吊らされた気分かw
2019年4月1日からチャージ(2品付700円)がかかるようになりますが、にしても安いです。種類豊富でいろいろ飲み比べるのも楽しいです。辺鄙なところにありますが、一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。
遠いったって、学芸大学駅からだと平和通り商店街の二葉屋と同じくらいの距離だよ。何気に近い。下馬あたりに住んでりゃ5分くらいじゃんねw
SHOP DATA
- The Hangedman's Bar 十二
- 東京都世田谷区下馬2-14-18 第四飯島ビル101
- 080-4895-6699