
学芸大学駅から徒歩10分弱。東口商店街を抜けたバス通り(都道420号)沿いに、信八(しんぱち)というインディーズ居酒屋があります。
※2025年2月28日に閉店しました。長い間、お疲れさまでした

ご夫婦でやってらっしゃいます。とても穏やかなお二人。
店内は基本的にカウンターなのですが、奥には座敷席のある部屋もあります。界隈の会合でよく利用されています。


刺身をはじめとする魚料理と天ぷらがメイン。

お通しのアジの南蛮漬け。いい塩梅。これだけでご主人のすごさがわかります。

息を呑むほど美しいサンマの刺身。
※今はもうほぼないと思います。サンマが高すぎて。

信八は天ぷらもおいしいと評判。確かにこりゃいいや。けどね。

浅めに〆られたサバは記憶にないほどうまい。ちなみに私の好きな魚介ベスト3はサバ、タコ、ウニ。回転寿司で〆サバだけ20皿(40貫)食って、あたったことがあるくらいサバが好きです。こんなにもサバ、〆サバを食べてきたというのに、信八の〆サバはそれらすべてを凌駕しました。
あああ。こうした肴でチビチビと日本酒をすする至福…。

隣の常連さんたちの会話をBGMに、まだ2度目の新参者はゆっくりと店内の様子をうかがいます。
サッカー、野球、相撲のグッズが目につきますから、お父さんはスポーツ好きなのでしょうか。カレンダーは釣り。釣りが好きなのかもしれません。メニューにはとらふぐがありますから、もしかしたら昔はふぐ料理店で腕をふるっていたのかも? そういや、店の入り口上の電話番号は市内局番が3ケタだったな。このお店も相当古いし、ここまで続くってことは、やっぱりいい店なんだろうなぁ。
そんな想像をしている横で、少々酔いが回った常連さんたちは、丁々発止でやりあってます。ただ、決して下品じゃないし、嫌な感じはしません。いい酔い方です。
そんな光景をほほえましく横目にしていたら、お父さんは心配そうにチラチラとこちらをうかがいます。
「ぜんぜん大丈夫ですよ。悪い気はまったくしてませんから」
そんな気持ちを込め、新参者への気遣いを気遣いにさせないため、あえてお父さんとは目を合わせず、少し微笑みながら日本酒をチビリ。ああ、なんて穏やかな空間なんだろう。
客が店を作るとよく言います。しかし、店も客を作ります。信八はそんなことがよくわかる居酒屋です。穏やかなご夫婦が作りだす穏やかな時間は、穏やかな客を惹きつけ、穏やかに過ぎてゆきます。
信八の見事な仕事

その後、いくつかのことが判明しました。信八は1987年創業。マスターはもともと有名な料亭で腕をふるってらっしゃったそう。
上述の丁々発止でやっていた二人は、あとで思い返すと中川(2021年3月閉店)のりえちゃんと中川の常連でもあった英二郎さんでした(当時はまだ二人のことを知らなかった。お二人とももう亡くなりました)。
この刺身は中川の最終日に振る舞われた信八の刺身。学芸大学でもっとも古い飲み屋だった中川の先代(りえちゃんのおばあちゃん)時代=十字街時代から信八と中川は懇意にしていたのだとか。

お通し。山菜、魚のアラ、たらこが和えられたもの。アラが入っているので、わずかに煮こごりのようなものができています。深い味わい。

大きな玉子焼きは甘めの味付け。ほっこり。


相変わらずおいしい天ぷらの盛り合わせ。いんげんの天ぷらは隣の常連のお父さんからのおすそ分け。

石がき鯛の刺身は白身ながらもうまみが強く、コリっといい歯ごたえ。

前回よりも少し強めに〆ったサバ。やっぱり最高。

出てきた瞬間、固まりました。これは……。
垂直に立てられた胸びれ。丁寧に広げられた尾びれ、背びれ。しっかりと化粧塩がされています。焦がさないためです。
ヒレも魚体も一切焦げていない。火の加減、火との距離の取り方が絶妙なのでしょう。そして、おそらくは目を離さず集中して焼いていたはずです。常連さんからビールをもらい、カウンターを相手にしながら、焼き物に細心の注意を払う。すごい。
そして見逃せないのが串打ちです。波串、踊り串、縫い串、言い方はいろいろあるのですが、縫うようにして串を打って焼き上げています。焼き魚に躍動感を与える技法。塩焼きひとつに、どれだけ手が掛けられているか……。
焼き物、刺身、天ぷら、どの料理にも確かな職人の技が加えられ、これを目の当たりにするにつけ、感嘆させられます。

中川でもたまにお目にかかっていた先輩から焼酎やらウィスキーやらをごちそうになりました。










今ではほとんど見かけなくなった押絵、ネタケース……。
ああ、なんて幸せな空間なんだろう。
SHOP DATA
- 信八
- 東京都目黒区中央町1-13-6
- 03-3792-6186
- 公式