※追記:2019年10月15日ごろに閉店しました。追記以上
中延駅(東急大井町線・都営浅草線)と荏原中延駅(東急池上線)はアーケードになっている中延商店街、通称"なかのぶスキップロード"でつながっています。なかなか趣深い商店街なのですが、このスキップロードの中間あたりに宅飲み酒場 アヤノヤというお店があります。中延駅、荏原中延駅から徒歩3分くらいです。
宅飲み酒場 アヤノヤへの行き方
ほぼ商店街沿いにあるのですが、ちょっとわかりづらい場所にあります。私も一度、通り過ぎてしまいましたw ですから、まずは場所をご説明。
なかのぶスキップロードにはまいばすけっとが2店舗あります(これも奥深い)。北のまいばすけっと 中延3丁目店と南のまいばすけっと 東中延店です。目指すのは南のまいばすけっと。
まいばすけっと 東中延店の隣には中延商店街振興組合の事務所があります。「カワイ音楽教室」という赤い看板が目立っているはずです。そしてその隣には洋品店・oz。この間の細い筋をのぞきますと。
あったあったw こんなところなので、見過ごさないようご注意を。
宅飲み酒場 アヤノヤのシステム
営業時間は15:00~23:00。定休日は水・日。宅飲み酒場 アヤノヤには飲み物しかありません(ちょっとしたつまみはある模様)。すべて300円です(2018年より変わる可能性あり)。食べ物は持ち込み自由。差し入れ大歓迎。カラオケもあって歌い放題です(無料)。ノーチャージ。形式的なイメージとしてはバーに近いかもしれません。
宅飲み酒場 アヤノヤのバックボーンについてはまた後ほど。
※追記:2018年より料金設定が変わりました。
- 1杯500円
- 2杯800円
- 3杯1000円
- 4杯目からは1杯300円
- ナカ・ソト……200円
※2019年3月29日追記:その後、また変わったかもしれません。一杯300円もしくは500円とか? いずれにせよ安いですw 追記以上
宅飲み酒場 アヤノヤへ行ってみた
さかのぼること半年。学芸大学の小料理屋・外海に行ったら、店主・ながこさんがこんな名刺を見せてくれました。
「この前、こんな子が来てくれたんです。中延でお店をやってるみたいで。飲み物はすべて300円で、ちょっと変わったお店らしいですよ」
「へー。すごいですねぇ。機会があれば行ってみようかな」
その機会が半年後に訪れました。所用で中延方面へ行った際、「そういえば」と思い出し、宅飲み酒場 アヤノヤへ行ってみることに。先述の通り、見逃して一度通り過ぎてしまうわけですがw
店内はカウンター10席ほど、4人掛けテーブルが2つ。とても明るい店内です。うかがったのは17時ごろでしたでしょうか。ご夫婦と思しきお二人が先客でいらっしゃいました。
「飲み物しかない店なんですけど」
「はい。じゃあホッピーを」
「酒屋さんがまだで、黒しかないんですが」
「じゃあ黒でお願いします」
表の看板や壁に掛けられた大きな黒板、そして目の前にある花には「一周年」という文字が。しかも、微妙に今日っぽく読みとれるような文言も。
「今日、一周年なんですか?」
「11月22日が一周年だったんです」(※うかがったのは12月4日)
「今日ではないんですね。でも、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「僕は学芸大学に住んでるんですけど、学大のある店に行ったら、ここの名刺を見せてくれて」
「あー、学芸大学というとあそこですね。○○さんに連れて行ってもらったんです」
店主・西田彩乃さんは、ぶっ飛んだエキセントリックな人かと想像してたのですがw、そんなことはありませんでした。個性的ですが、ハキハキと明るい、オタク気質をほんのり匂わせてる楽しげな子。常連さんといろいろ話しているのをBGMにのんびりホッピーを飲みます。
「こちら、よかったらどうぞ」
そう言って、常連さんがカウンターに置かれたお菓子類を指さします。
「ありがとうございます」
後日わかったのですが、これらはお客さんたちが好意で補充しているようです。食べたい人は食べてもいいのかな。
常連さんは刺身を持ち込みつまんでらっしゃいます。なんか持ってくればよかったかなぁ。
「商店街の入口のコロッケがおいしそうだったから、差し入れに持ってこようかとも思ったんですが、たぶん買ってくる人が多いだろうと思って」
「肉の伊吾田さんですね。そんなの気にせず、何でも食べてもらっていいですよ」
ああ、そうか。差し入れしなきゃと勝手に思い込んでた。自分用のつまみとして買えばよかっただけか。
「今度、その隣に晩杯屋ができるんですよ。楽しみだなぁ。絶対、お客さん入るもん。そうしたら、ウチにも流れてきてくれるかなぁと(笑)」
「ヘベレケで来る人も増えるでしょうね(笑)」
「それはそれで。来てもらえるだけでも」
一部の例外を除き、商店街はどこも状況が厳しかったりもします。おそらく、ここ中延商店街もそうでしょう。シャッターの下りた物件が決して少なくはない商店街の様子を見て、ここまで来ました。
そんな商店街に集客力のある晩杯屋ができるってんですから、これに期待を寄せる気持ちもよくわかります。そして、おそらくは自身の店のことだけではなく、この地域のことを考えた上での期待でもあるのでしょう。
先ほど、宅飲み酒場 アヤノヤはバーのようなものと書きましたが、それはシステム的な話。役割という観点から言うとスナック、いや、おばあちゃんが一人でやっているような地域密着型の居酒屋・食事処に近いと感じます。
たとえば、学芸大学界隈で言えば花菜、からかさ、美築。荏原中延に近いところでは大衆居酒屋 ふじもそうでした。料理のメニューはあってないようなもので、時に客がいろいろ持ち込んで、みんなでワイワイやってます。それこそまるで自宅であるかのように近隣の方々が集う寄り合い所。飲み食いするためじゃない、人に会いにやってくる場所です。
たまたま若い子がやっていて、店ができた経緯(後述)が面白かったりするから物珍しくも見えますが、実はこういうお店は昔から地域ごとにいろいろとあるんですよね。そして、多くの人がこういう場を求めています。
その証拠に……。
10日後、宅飲み酒場 アヤノヤを再訪しました。22:00頃にあえて。
この日は大賑わい。若い人もいれば、ご年配もいる。ベロベロに酔って足元がおぼつかない兄さん、中島みゆきや華原ともみを歌いあげる姐さん、今度、ディズニーシーへ初デートに行くとウキウキしてる兄ちゃん。
ほら、やっぱりね。みんな顔なじみで、毎日でも来れて、ここに来れば楽しい仲間がいて、面白い店主がいる。たくさんの人たちがそんな宅飲み酒場 アヤノヤを求めていました。おそらく、この街にとっても宅飲み酒場 アヤノヤは必要なんだよなぁ。いや、中延だけじゃない。どの街にも、こういう場所ってのは必要なんですよ、きっと。
「○○割り(常連さんの名前)、やばかったよ」(常連さん)
「あれは来るねぇ」(アヤノさん)
何のことかと思ったら、大きな4リットルの業務用スピリッツでした。44度! これをノンアルコールビールで割ったものだそう。
「へぇ。どんな味だろう。ホッピーに似てるんですかね」
「飲んでみます?」
常連さんが飲んでいるのをひと口頂きました。
「なるほど(笑)」
「けど、不思議と次の日に残らないんですよ」
焼酎をホッピーで割ったものとは、かなり違います。アルコール度数の高い、かすかにビール風味がする第三のビールといった感じ。何気に飲みやすいから、確かにやばいかもしれませんw
ちなみに、帰って調べてみたところ、これはサントリーの「PROMIX サワーベース」という酒でした。
「これだとホッピーより原価が低いから店としてはありがたいんですが、たくさん飲めないから、結局、変わらない(笑) この店の名物にしちゃおうかな(笑) 立石の宇ち多゛(うちだ)と言えば梅割りみたいな 」
危険な名物だw
知らない街で、知らない人たちに囲まれ、その街の雰囲気を感じながら、みなさんの会話に耳を傾けつつ、ポツンと一人で飲む。こういうのもいいね。
初めて訪問した際はホッピー+中おかわり+レモンサワーで700円。二回目の訪問時はホッピー+中おかわりで400円でした。
とにかく客層が広いですから、どんな方でも行きやすいと思います。そして、一度行ったら、また行きたいと思うはず。もし気に入らなくても数百円で済むんです。機会がありましたら、ぜひのぞいてみて下さい。あなたが無意識的に求めていたもうひとつの"家"がここかもしれませんよ。
SHOP DATA
宅飲み酒場 アヤノヤができた背景、飲食店の本質
アヤノさんは短大卒業後、飲食店に勤め接客業に従事。2016年9月1日に開業を決意して、飲食特化型クラウドファンディング・キッチンスターターで100万円を集め、自己資金40万円と金融公庫からの借入250万円を合わせて、2016年11月22日、開業決意から3ヶ月弱で宅飲み酒場 アヤノヤをオープンさせました。
参考サイト/ASCII.jp:“お店出しちゃう系女子”がスゴイ!一杯300円の宅飲み酒場
オープン時点でこの建物が5年後に取り壊されることが決まっていました。だから家賃が安い。
一切、宣伝費はかけていません。店内が明るいのは写真を撮りやすくするため。お客さんが写真を撮り、SNSなどでお店を宣伝してくれることを期待して。実際、SNSやブログといった口コミでやって来る人も多いのだとか。
料理ができないから料理は出さない(簡単なつまみはある模様)。食材ロスもないから経費も抑えられる。常連さんは店のために、スナック菓子などを差し入れてくれる。
参考サイト/メシ通:【1杯300円】「ぼっち系・宅飲み酒場」店主の西田彩乃さんの経営戦略とは【美人ママさんハシゴ酒】
楽コーポレーションの代表・宇野隆史氏の著書です。いや、まさにその通り。ここで同氏が言いたいのは、「だから飲食店は誰にでもできる」ということではなく、「そうなんだから、じゃあ何が大切かというと」という部分。そして宅飲み酒場 アヤノヤがこれを具現化しています。
こんな激安酒場が実現できるというのは、それだけ支えてくれる人たちがいるから。なぜ支えてくれるかというと、それはひとえにアヤノさんという"人"でしょう。結局、人と人のつながりなんですねぇ。飲食業ってのも。
そういう意味では、一風変わったように見えるかもしれませんが、宅飲み酒場 アヤノヤは飲食店の本質だけを抽出した店と言えるかもしれません。だって、本当にトマトを切るだけ、栓を抜いているだけの店ですもんw なのに、客がこれだけ来るということは、それでいいということ。いや、そんなことすらどうでもいいということ。飲食店にとって何が一番大切か、客は何を一番求めているかということが、ここに来るとよくわかります。
個人的には宅飲み酒場 アヤノヤがこの地域にどうコミットしようとしているか、ないしはこの店がこの街でどのような役割を果たしているかということにも興味があるんだよなぁ。
中延にはそう滅多に行くことはありません。けど、うん、宅飲み酒場 アヤノヤを目指して、わざわざまた行くことがあるだろうな。