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中央中通りの喫茶店・Coffee Shop 繁/しげる(学芸大学)は衝撃的。年配のご常連を手玉に取って場を回すお姉さんは、たとえるなら"学大の阿川佐和子"。その見事な立ち回りに感動すら覚えます。

衝撃。すごい。素晴らしい。感動。

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学芸大学駅から徒歩10分強。祐天寺駅からだと15分弱。中央中通り商店街にある喫茶店・Coffee Shop 繁(しげる)。もしかしたら読み方は「しげ」かもしれません。

とりあえず喫茶店に行きたかった。候補は数軒ありました。その内の一軒だったわけですが、この店が禁煙だと知っています。でも、逆にそれもありかなと魔が差して行ってみた次第です(私は喫煙者)。

界隈の飲み屋などで、繁に行ってるとか、そんなことを地元のご年配がたがおっしゃることがたまにあります(みなさん「しげ」って言ってたような……)。だから気にもなっていました。

扉を開けた瞬間。ほぼ埋め尽くされたカウンターのご常連たち、カウンター内のお姉さんの視線がジッとこちらに注がれます。あまりの圧力に立ちすくむこと約2秒。

「一人なんですが……。いいですか?」

「どうぞ。奥へ」

この店の客層からすると、私は若い方なのでしょう。しかも見知らぬ顔。「誰だ?」といった緊張感が店内に一瞬張りつめたのです。

5、6人のご常連はみなさん60を優に越しているような感じ。タバコの話題で盛り上がっていました。話を聞いていると、以前はこの店も喫煙可だったようです。現在は禁煙です。

「バカスカ吸ってたヤツはみんな死んだな(笑)」

「(一同爆笑)」

いいノリだw タバコ屋を営んでいたお母さんが一人いるってのも面白さを助長していますw

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メニューらしきものがありません。水を出してくれたお姉さんが「コーヒーでいいですか?」とおっしゃいます。

「はい、お願いします」

別になんだっていいんです。こだわりはありません。ただただ喫茶店という空間になんとなく来たかっただけ。

水出しというやつでしょうかね。フラスコのようなものを火にかけ、ポコポコ言わせています。コーヒーができるのを待ちながら、ご常連の話に耳を傾けます。こういう店のご常連の話は聞いていてとても楽しい。

でも。

すごいのがこのお姉さん。50代後半から60代前半くらい? とにかくやばい。

5、6人のご年配がたを前に、そりゃもうあっちこっちへ飛びまくる会話をすべて拾って、うまく返します。かと思うと、こっちのお父さんに話を振り、みずから話題を提供。一見の私にも目をやり、「~なんですって」「~ご存じ?」と会話に引き込む。

このさまがあまりにも見事。すさまじい。天才。なんだろう。バラエティ番組の司会者が場を回すような、そんな感じ。これ、誰かに似てるなぁ。あ! わかった! 阿川佐和子!

「ビートたけしのTVタックル」でクセのある評論家や政治家を手玉に取るかのごとく操る阿川佐和子にそっくりな手練れ・手管。もうね、ほんとえげつないほどの巧さなんですよ。

チャキチャキではありません。どちらかというとゆったりとしています。けど、落ちついてご常連にツッコミを入れ、あるいは話を展開させ、あっちからこっちへと会話をつないでいきます。そして、優しい口調でかわいらしいのに、時折、毒を混ぜ込みます。下手なバラエティ番組見るより断然おもしろい。そしてすごい。感動すら覚えるほど。

そうか。ここは近隣のご年配がたの寄り合い所と化している喫茶店ですが、なんとなくスナックっぽいw 昼間っからこんな才能に出会えるとは。

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途中で入って来たお父さんは弁当を買ってきて、ここで食べています。ご常連がたの話題は目まぐるしく移り変わります。タバコの話から、近所の定食屋の話、焼き芋の話、カレーの話、五十番の肉まんの話、灯油の話。

「さつま芋が一本3000円だよ? 駒沢からスタートすんだよ。そこにトラック停まっててさ」

「なんで焼き芋は高いのかねぇ」

「しょうがないから買って帰ってさ」

「え? 買ったのぉ?」

「だってしょうがねぇんだよ。嫁が買ってこいって言うからさぁ。きんとん作るんだよ」

「きんとんって焼き芋から作るのか?」

越後屋はあまり行かなかったなぁ。それより、そっちの○○に行ったかなぁ」

「越後屋はそこが自宅だろ?」

「その裏よ。立派なおうちよねぇ」

私がこっちへ越して来る前に潰れた定食屋さん。行ってみたかった店の内のひとつ。

「ココ……なんとかっていう。うまいんだよ、そこのカレー」

「coco壱番? おいしいけど高いでしょう。1000円くらいしますよね」

「まあそうですねぇ。1000円弱くらいですねぇ」

「トッピングしたりすると1000円くらい行っちゃうわよねぇ。そこ曲がったところもカレー屋さんでしょ?」

はくてん食堂ですか? 今もカレーはあるんですが……。その前がsyncっていうカレー屋さんだったんですよ。どっちのことだろう」

「どこのことだい?」

「ほら、そこの。角曲がった。昔、氷屋さんだった」

「ローソンのところですよね」

「そうそう」

「目黒通りにさ、おっきな建物あるじゃない。あれはなんだろうね」

「教会みたいなところでしょ?」

「バレエかなんかでしょう」

「チャコットじゃない?」

スマホでストリートビューを出します。

「ここですか?」

「そうそう」

「バレエの学校ですね。東京バレエ学校っていうみたいです」

「そうなんだぁ」

「じゃあ、その手前のさ、灯油売ってるところ」

先ほど来、その店が今もやっているかどうかで議論になっていました。ストリートビューで移動します。

「ここが油面の交番ですよね。この手前ですか?」

「そう、2軒ほど隣の……」

「ここですか?」

「そうそう。ほら、見て。やっぱりあるよ」

私のスマホが店内を一周します。

「店の前に灯油の赤いポリタンクがあるんだよ」

「このマーク(日石のマーク)ね」

「スマホってのはすごいねぇ」

うん、こういう場でスマホが大活躍するんですよw ちなみにこのお店は吉野燃料店(吉野商店)というらしいです。セブンイレブンと油面交番の間。

おいしくて楽しい祐天寺裏の焼鳥屋「ふくちゃん」は、気持ちのいい先輩方の溜まり場

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ようやく警戒心が薄れてきて、さあこれからって時に、常連さんがさらに二人いらっしゃいました。カウンターはもういっぱい。席を空けるべくお勘定をしてもらいました。

入店してからメニューはおろか値段も何も見ていません。ま、500円くらいでしょう。

「おいくらですか?」

「350円です」

「えええ。350円ですか(笑)」

「いいのよ、いくら置いていっても(笑)」

ほら、こういう切り返し。すげぇ。

「こちらはどれくらいになるんですか?」

「言えないくらい古いわよ。半世紀は経ってないけど、それくらい」

「お一人で?」

「以前は母と」

「そりゃそうですよね(笑) ごちそうさまでした」

「もう覚えたから。またぜひいらしてね」

ご常連がたからも声をかけて頂きます。

「よっ」

「またね」

店を出て、自転車を停めていた場所まで少し歩きます。歩くと言っても20m、30mですが。そこで上着を着ていると……。

「お兄さん!」

お姉さんが何かをもって小走りで近づいてきます。ん? スマホでも忘れたか?

「これ、お客さんからいま頂いたものなんだけど。持って行って」

わざわざお菓子を持ってきてくれました。

「ありがとうございます」

「うち15:00までなの。水曜日が休みだから」

「そうですか(笑) 了解です」

「また来てね」

「はい、またぜひ」

おおよそ想像はつきます。私と入れ替わりで入って来たお母さんが袋から何かを取り出していました。それがこのお菓子なのでしょう。そして、ご常連たちから促されるように「あの兄ちゃんに持ってきな」「ちゃんとまた来てって宣伝しとくんだぞ」とかなんとか言われて追いかけて来てくれたのでしょう。

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もし、このお姉さんが飲み屋をやっていたら、私は絶対通い詰める。もし、私に財力がありスナックか居酒屋を出すなら、真っ先にこのお姉さんをスカウトしますw かわいらしくて、会話が上手で、明るくて、気だてがよくて。こんな女性がやってりゃ、そりゃみんな通いますわ。地域のアイドル、マドンナ。お父さん、お母さんがたに大人気というのも納得です。

もうね。参りました。素晴らしすぎる。こういうのは言葉で説明しても無理。ぜひ一度行ってみて下さい。お姉さんの場の回しっぷりに感動しますよ。

コーヒーの味? おいしかったですよ。だけど、私はまったくもってコーヒーがわからん人間です。それもまた行って確かめてみて下さい。

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