祐天寺と言っても駅ではなくお寺の祐天寺。その祐天寺裏にあるインディーズ居酒屋・ふくちゃんに行ってきました。
※2021年、2022年ごろに閉店しました。
ずっと気になっていたお店なんですが、やばいです。最高です。
「こんばんはー」
扉を開けたらカオス。狭い店内にご年配方が5、6人。他人の家の居間に上がり込んだような雰囲気で、全員が「いらっしゃい」なんて言うもんだから、誰が店主で誰が客だかわかりません。
慣れた感じで立ち上がり奥の席へと誘ってくれたのは、この店の一番のご長寿の"兄貴"。「失礼しまーす」と席につき、テーブルを見ますと……。
わお。カメ! ファンキーだな。
「マスターがお不動さんのところで拾ってきて」
「ポケットに入れてたら忘れてて、帰ってきて、『あれ? これなんだっけ?』って気づいてさ」
「たろう~たろう~」
「ネコもいるし、カメもいるし、動物園居酒屋だな」
「これはミドリガメだと思うんだよね」
「ミドリガメってもっと緑じゃなかった?」
「じゃあ草カメか?」
そんな会話が繰り広げられています。とりあえずビールを頼んで、ミドリガメ談義をほほえましく聞いていたら、次から次へとお通しが。
すごいなおい。ボードには「あさりの酒蒸し」というメニューがあります。なるほど、大量に仕込んだけど(仕入れたけど)、ぜんぜん出ないメニューをお通しにするパターンですな。煮物もあさりもカレイもとてもおいしいです。
ミドリガメあれこれは一向に終わりません。そこで、「ミドリガメ」をググり、画像を出してみなさんに見せました。
「これ、やっぱりミドリガメみたいですよ。別名、アカミミガメですって。耳のあたりが赤いから」
「ほらやっぱり」「だろう?」ここからエサがどう、適度に日にあてなきゃどうと、カメの飼い方に会話がシフト。と思ったら、次は映画談議。店内には裕次郎のポスターがたくさん貼られていますし、みなさんの年齢くらいだと、映画=青春でしょうから、とにかくよくご存じです。ただ、記憶がついていきませんw
「ほら、あの八百屋お七の……なんだっけ」
私がググります。
「『八百屋お七 ふり袖月夜』ですか?」
「そうそう。誰だったっけ」
「ひばりちゃんと中村錦之介です」
「そうだ。錦之介だ。まだ萬屋じゃなかったんだよね」
「じゃあ、『番町皿屋敷』は誰だったかなあ」
ググります。
「『怪談番町皿屋敷』は東千代之介とひばりちゃんです」
「東千代之介かぁ。あと面白いのが『だーてーはりー』。あれはいいよ」
だーてーw その後も菅原文太、高倉健、ハリウッドと、映画話で盛り上がる先輩方。
途中、よぼよぼの80オーバーぽい方がやって来て、ビールを飲んだと思ったら、お金も払わず出て行きました。この方はそういうシステムなのでしょう。
みなさん、優に70歳を越えてらっしゃいます。だけど、妙にハイカラです。帽子のおっちゃんは博識でスマート。いろんなことをよく知ってるなぁ。
と、頃合いを見計らって頼んだのがこちら。
かしわと皮。最高。いいですね、こういう昔ながらの普通の焼鳥。洗練された上質な焼鳥もおいしいですが、こういうのも大好きです。1本100円です。いや、うまい。
「じゃあお会計を」
「あらお帰り?」
「ええ、そうですね」
「バカだなぁ。帰るんじゃないんだよ。次行くんだよ」
「だって、帰るって」
「帰ると言ってるだけなんだよ。どこ行くか聞くなよ」
「言ったらついて行こうとするからね」
店内爆笑。
「私は月曜日に必ずいるから、また来てね」
また爆笑。こういうやり取り素敵。
お母さん方に少々口説かれながら店を出ました。なんて気持ちのいい店なんでしょう。素敵な方々です。
それにしても面白い。初めてうかがったのですが、初めてかどうか、何歳か、どこに住んでいるのか、そういった類のことを一切聞かれませんでした。いきなり、もう何年も通っている客かのごとく、自然に馴染めます。みなさんは気遣っていたわけじゃなく、そういう細かいことが気にならないってことなんでしょうが(笑)、にしても、こういう対応もまた気持ちよく。別に聞かれることが嫌だってわけじゃないんですけどね。
店を出て歩きながら想像しました。自分が60、70になった時、気軽に身を寄せられるこんな素敵な店は果たして近くにあるだろうか、と。正直、この店もあの店も、やっている方はご高齢。あと10年、20年と続くわけでもありません。こういう居酒屋はどんどん減っていきます。
なくなりゆく素敵なインディーズ居酒屋を少しでも多く堪能すべく、今後も居酒屋巡りは続きます。
SHOP DATA
- やきとり ふくちゃん
- 東京都目黒区中目黒5-22-11
- 03-3711-0738
- 公式