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更科 美やこ(学芸大学)のそばとメンチカツがおいしかったわけですが、お店の対応に人としての美しいプライドを見ました

「学芸大学のそば屋だったら美やこが一番好き」

出会った当初の亮君がそんなことを言っていました。どんなものかと思って、すぐに行ってみたのですが、もう2年ほど前のこと。いいお店だったなぁというくらいの記憶しか残っていませんでした。

それから約2年。某所のカウンターで飲んでいたら、ある男性と隣同士に。私より5~10歳ほど上のお兄さんです。私は酔っ払っていたので、細かな会話の内容は覚えていません。けど、次のようなやり取りだけは鮮明に覚えています。

「ここ初めてなんですよ。いつもいらっしゃるんですか?」

「ええ、僕はちょくちょく来ています。お住まいはこの辺りですか?」

「美やこというそば屋があるんですけど、そこの息子なんですよ。私は店に出ているわけではないんですけど」

「へーそうなんですか! 僕もうかがったことありますよ。あー、そうだそうだ。僕の友達で美やこが大好きだってヤツがいるんです」

「ありがとうございます(笑)」

とても大きな体。先にお帰りになる際、握手をしました。大きく分厚い手でした。

いい機会です。もう一度、更科 美やこに行ってみることにしました。

miyako-sobaの画像

学芸大学駅から徒歩5分ほど。東口商店街の輸入食材店・KALDI(カルディ)を右折して、ずっと真っ直ぐ。ファミリーマート学芸大学駅南店のはす向かいの角に更科 美やこ(みやこ)はあります。昭和7年創業の老舗です。

キレイな趣のある外観。メニュー看板にはさまざまな定食がズラリと並んでいます。店内に入ると……。

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広々とした店内。テーブル席がいっぱいあって、写真の右下奥の方には小上がりもあります。昼時はいつもお客さんで賑わっています。

「いらっしゃいませ」

そう言ってお茶を運んで来てくれたのは、あの男性のお姉さんか妹さんか、だろうな。顔がよく似てますw 私は日替わりランチの手作りメンチカツ定食を、連れはCセット(天丼とそばのセット)を注文しました。

テキパキと動く店員さんたち。とても朗らかな表情。ご年配のご夫婦、50代半ばほどの奥さま方、30代前後と思しき若い男女4人組などなど、老若男女が席を埋め尽くしています。

「メンチカツ定食のかた~」

「はい」

「お待たせしました~」

美やこのメイン画像・ボリューム満点な定食

ブハッ。なにこのボリューム。

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写真ではわかりづらいですが、メンチカツは超巨大。箸を入れると肉汁がジュワー。サクっとした衣は歯ごたえがよく、タネの下味は薄めですが、それでも何もつけずとも十分おいしい。とてもいいメンチカツです。

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そばは遠目に見ると手打ちかとまごうほど細い。白くてきれいなそばです。歯ごたえがそれほどないので、手打ちではないと思うのですが、細いのでもったりとはしていません。喉越しはよく、ツルっと食べられます。汁の具合もいいし、そば湯で飲むのもおいしかったです。

miyako-sobaの画像

連れの温かいそばと天丼も少し食べました。どちらもおいしい。特に天丼がよかったなぁ。

そろそろ食べ終えようかという時。店員さんに手を引かれたおばあちゃんが隣の席にやって来ました。先の若女将がこうおっしゃいます。

「さんまでいい?」

うなずくおばあちゃん。このやり取りからすると、おばあちゃんはよく来てらっしゃるようです。

「おそばは温かいのと冷たいのがあって、ナシにすることもできるけど。ナシにしようか?」

おばあちゃんはうなずきながら、小さな声で「はい」。

「じゃあ、さんま定食のおそばナシね」

メンチカツ定食もCセットも、かなりの量でした。これほどご高齢の方では絶対に食べきれない量だったはず。そこで気を利かせて「そば抜き」を提案。そば屋なのに、です。

若女将の優しさももちろんあるのでしょう。でも、私はここに、人としてのプライドを見ました。

そば屋である前に飲食店です。飲食店である前に、ここは人と人が交わる場です。どこまで自覚的であるかはさて置き、若女将はこのことがちゃんとわかってらっしゃる。だから、そば屋であっても躊躇なく「そば抜き」を提案できます。そば屋のプライドじゃない。人としてのプライドがあるから。このことは若女将だけに限った話じゃないでしょう。若女将のお父さん、お母さんだってきっと同じ。

近隣の方に手頃な価格でそばを食べてもらいたい。毎日来ても飽きない店にしたい。いつでもお腹いっぱいになってほしい。おじいちゃん、おばあちゃんになっても通ってもらいたい。そういう思いで、そばはもちろん、うどん、天ぷら、メンチカツ、焼き魚、なんでも用意します。どんな要望にも応えます。プライドを持って。なんて素敵なお店でしょう……。

某所で出会ったお兄さんの言葉を再び思い出しました。

「美やこの息子です」

このセリフにもまたプライドがこもっていたんだなぁ。

会計時、「ご兄弟いらっしゃいますか? お兄さんか弟さんかわかりませんが、こちらの息子だとおっしゃる方と、先日飲む機会がありまして」なんてことを若女将に言おうとしました。でも、店には次から次へとお客さんがやってきます。注文を取り、料理を出し、テーブルを片づけと、それはそれは忙しく働いてらっしゃいます。余計なことを言う隙もありません。「ごちそうさまでした」とだけ告げ、店を出ました。

店の扉を開けると、ちょうどお客さんが入ろうとしていました。娘さんもしくはお孫さんと思しき方が、よちよち歩きのおじいちゃんの両手を取って、店に入ろうとしています。

このおじいちゃんが何を頼むのかはわかりません。わかりませんが、きっと美やこは最適な対応をしていることでしょう。そして、娘さん(お孫さん)もおじいちゃんも、大満足で店をあとにするはずです。

こだわりを持って丁寧にそばを打つのもプライド。地元の人に愛される、何でもある定食屋のごときそば屋を営むのもまたプライド。ここに優劣はありません。そして、そのどちらも美しいと私は感じるのです。

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