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甲州屋(三軒茶屋)のそばは香りがよく、トロトロに閉じられたカツ丼はパンチがあります。街は新しくなっても変わらず地域に愛され、まさに「近辺の人々賞翫す」でした。

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三軒茶屋駅から徒歩10分弱。世田谷観音通り(旧明薬通り)の基点・世田谷警察署前交差点と世田谷観音交差点のほぼ中間あたりにあるそば屋・甲州屋。ずっと気になっていて、今回、初めて行ってみました。

店内には4人掛けのテーブルが6席ほど。私が入った時には先客は一人。私が食べている間に、4人がやってきました。なかなかの繁盛ぶりです。

勝手に老夫婦がやってらっしゃるのかと思っていたのですが、いらっしゃったのは何気にお若い男性です。50代くらいかな? 席につくと熱いお茶が供されました。いつも通り、もりとカツ丼を注文します。

「もりとカツ丼をお願いします」

「どちらを先にお出した方がいいというのはありますか?」

うわ。これ聞かれたのは初めてだ。

「いえ、別にどちらでも結構です」

「かしこまりました」

そういえば、こんなこと考えたことなかったなぁ。考えたところで、やっぱりどっちでもいいのですが、そうか、順序を気にする人だってそりゃいるんだろうな。もしかしたら、何か面白い発見があるかもしれない。今度じっくり考えてみよう。

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わずかに厨房内の様子をうかがえるこの構造が好き。隙間から豚肉に衣をつけている様子が見えました。続いてチリチリと油の音。すぐさまカレーうどんのカレーを雪平に。一人でよく動くなぁ。

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主要なメニューには手書きのイラストが添えられています。素敵なイラストですね。そして、たぬき丼にたぬきのイラスト。きつね付きもりにもたぬきのイラスト。ほっこりw

「お先にもりを」

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小高く盛られたもり。大もりというメニューもありますが、これは普通のもり。だけどなかなかの量。

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きれいなそばです。まずはそのまま。おっと。なかなかそばが香ります。コシはほどほどで、のど越しはつるりと滑らか。こりゃすごい。

つゆはしっかり。ダシがきいています。濃いめではありますがしょっぱくはありません。失礼ながら想像を遥かに上回るおいしさでした。

そばを1/3ほど食べた頃合いにカツ丼がやって来ました。

「大変お待たせしました」

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卵をざっくり3回だけかき混ぜていたのは見ました。閉じ加減は緩めで、甘めのツユは多め。衣も肉もしっとりジューシー。パンチのあるいいカツ丼です。おいしい。

カツ丼を半分ほど食べた頃合いに、女性の店員さんがやってきました。おそらく奥様かな?

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メニューには「浅草ひさご通り甲州屋支店」と書かれています。「支店」が一般的にイメージされる意味と同じかどうかはよくわかりません。たぶん暖簾分けくらいのニュアンスだと思うのですが。

ところで、甲州屋は浅草だけでも4軒ほどあります。その始祖に関してはよくわかりません。ただ、1751年に日新舎友蕎子という人物が書いた「蕎麦全書」という書物の中の「江戸中蕎麦切屋の名目の事」という項に、こんな記述があります。

博労町三丁目横丁、甲州屋さらしなそばあり。信濃蕎麦の心ならん。人々是を賞す。茅町、御蔵前近辺の人々賞翫す。

(中略)

同処斧屋更級そば、横山丁甲州屋を学びしなり。

現在の各甲州屋とのつながりは不明ですが、少なくとも甲州屋という屋号は江戸時代にはあったようです。

世田谷観音通り(旧明薬通り)ができ、UR・アクティ三軒茶屋がドカンと建ち、日大ができて、この界隈は相当に変容してきました。けど、甲州屋はずっと変わらない。そして、街場のそば屋として長年、この地域に愛されてきたであろうことも、この客の入りを見れば容易に想像がつきます。

近辺の人々賞翫す――そのさま、とくと拝見させて頂きました。

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