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遊山/ゆさん(学芸大学)の十割そばは、香り豊かで力強い上質なそばでした

蒸し暑い夕暮れ時。足はおのずとそば屋を目指していました。学芸大学には行ったことのないそば屋がまだまだあります。さて、どこへ……。

それほど深い考えもなく、なんとなく辿りついたのが遊山(ゆさん)。

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カラッと扉を開けると、オシャレな小料理屋といった雰囲気。L字のシックなカウンターに朱の盆が映えます。そこにちょうどダウンライトがあたるようになっていて、劇場で芝居でも見るかのような感覚になります。

本当はそば前でもいってから〆るというのが粋なのかもしれませんが、その時はとにかくそばを欲していました。

「そばだけ頂いてもいいですか?」

「もちろんどうぞ」

せいろを注文して、店内をゆっくり見回します。

男女、男男の二人連れが二組。男女の前には、美しく花開いたハモ。スポットライトのあたったハモは気品にあふれています。渋みのある猪口につがれる酒も清らかで美しい。

厨房でお父さんが釜の様子をうかがいます。茹で始めるタイミングを計っているようです。すると程なく、さっとそばを打ち入れ、秒針を見やります。私も秒針を見ます。5秒、10秒、15秒。さっとそばを上げ、ざるで水洗い。ザッザッと小気味のいい音が聞こえてきました。

そばが運ばれてきました。

yusanのメイン画像

細くて艶のあるそばです。角が立っています。サっと写真を撮って、すぐにひとすすり。十割らしいそばの香りが口内から鼻腔へと抜けていきます。ふた口目。十割らしからぬしっかりとした歯切れ。コシというほどではありませんが、心地よく歯に抵抗してきます。三口目。それほど噛まずに喉へ通します。するりと通っていくのを十割らしからぬと表現したくなるのですが、それは私のそば経験が浅いためでしょう。上等な十割そばはこうなのかもしれません。

おっと。一応、汁も確認しなくては。軽く汁をつけてすすります。ダシは薄めで辛めの汁。ただ、嫌みはありません。角は取れています。ダシが強いと、それはそれで旨味になるのかもしれませんが、そばを殺します。私はダシが弱めの方が好きなので、この汁はとてもいい。香り高い遊山のそばにもよく合っています。

薬味はネギと大根ですが、使う暇がありませんでした。そばをすべて食べ終わってから、汁をちょっとつけ、薬味だけを頂きます。辛みのある大根でした。これでそばを食ってもおいしかっただろうな、というのは後悔ではなく、次回への楽しみ。

そば湯はサラリとしています。汁が少なめなので、そば湯をなみなみ足すと、ちょうどいい具合になります。こうして飲んで改めてわかるダシの深み。この汁はそば湯で割ることを目的にして作られているんじゃないか、とすら思うほど。汁のそば湯割りは極上のスープになります。

すべてを飲み干したら、そば湯だけを頂きます。そば猪口にかすかに残った醤油の香り。サラリとしたそば湯はほんのり香ばしい。

店を出て、おいしいそばの余韻にひたりつつ、遊山の秋そばを想像します。足はおのずと赤提灯を目指していました。

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