※追記:残念ながら、2016年10月10日、「屋台屋さん」の19年の歴史に幕が下りました。短い間でしたが、とてもお世話になりました。素敵な空間をありがとうございました。追記以上。
居酒屋であればどんな店であっても飛び込み飲み歩いてきました。そんな私が、約2年間、足を踏み入れるのをためらっていた居酒屋・屋台屋さん。意を決して行ってみました。いま思うのはこう。
「ああ、もったいない2年間だった」
環状七号線沿い、野沢交差点にあるインディーズ居酒屋・屋台屋さんは創業19年。お母さんが一人でやってらっしゃいます。
「もともと扉がなくて、全部開いていたのよ。そして、ここに屋台みたいにおでん置いてお客さんが座ってて。だから店名も、ね。もうこの歳でしょう。お客さんは一人、二人といなくなって、最近はずっと暇(笑)」
なんてことを瓶ビールを飲みながら聞いていたら、扉がガラリと開きました。入って来たのは中学生の男の子。
「あら、○○ちゃん、遅いわね」
お孫さんです。スマホでLINEか何かをしつつ、イヤホンで音楽を聞いています。なかなかのイケメンw 私はとりあえず卵焼きを注文しました。出てきたのがこちら。
卵焼きにサラスパ。最高。うまい。
「みりんとかいろいろ入れるでしょ。そうしたら、一発目、失敗しちゃった(笑) 焦げやすいのよねぇ」
お母さんがそう言うと、間髪入れず、少年がこう言いました。
「じゃあ、それ食うよ」
少々焦げた、だけど十分食べられるくらいの見た目です。それをご飯に乗せむさぼり食う少年。
「ぜんぜんうまいじゃん」
なんてレベルの高い少年だ。結局、この少年がとんでもないヤツで、彼のおかげで、今後もここに来ようと思うに至るわけですが。
「いつもはどの辺りで飲んでらっしゃるの?」
「学芸大学が多いですね」
「そうよね。若い方はあっちの方がいいわよね。昔は私もよく行ってたんだけど、随分、お店も変わっちゃって」
「スナックゆみ知ってます? あそこのママも6月に閉めるって噂で」
「あらそう。以前はウチにもよく来てくれてたのよぉ。湖畔って知ってる? あそこもよく行ってたし、こっちにもよく来てくれてて」
「ご高齢の方が多くなって、閉まる店も増えてるみたいですね。僕が知ってる限り、一番のご高齢は源平のママかなぁ」
「源平? 源平、源平……。ああ、あの通り沿いの」
とお母さんが言ったところで、再び少年が口を開きます。
「王将の前あたりでしょ?」
よく知ってるな、と感心している暇はありませんでした。そこから次々と、あそこがおいしい、ここがいいと少年が語り出します。
「貧乏(?)はもうないよ。いまは水タバコの店。その下の学大家ってラーメン屋によく行くかな。安いから中学生でも行けるんだよね。好きなのは砂田かな。ああいうクセのあるラーメン好き。量もすごいんだよねぇ。醤丸もいいし、魂心家も好き。ああ、茶碗屋って知ってます? おもちゃ箱を引っくり返したような店(中学生がこんな表現するか!?w)。あそこの油そば最高。なんて説明すればいいかな。四川麺条 香氣(こうき) 学芸大学店の交差点を右にずっと真っ直ぐ行ったところです。いい店ですよ」
学芸大学、祐天寺、目黒界隈のラーメン屋、居酒屋のほとんどを知っている中学生。少々は知っているという自負がありましたが、少年のほうが断然上を行っています。
「だってもう長いですもん。学大あたりも全部、同級生。東口の○○って靴屋わかります? あそこの子も同級生で、告白してフラれた」
開けっぴろげだなw
その後も、学芸大学、中目黒、祐天寺界隈の飲食店情報を交換し合いました。
すするは高いから行けない(高かったか!?w)。だったらびぎ屋は? あのカウンターのところですよね。まだ行ったことない。今度、行ってみよ。ニュープラスワンいいですよ(あんなとこに中学生が行くのかよ!w)。ばんにはよく行くかな。祐天寺だったら、亜華司弥おいしいですよ(いまググったら、寿司屋じゃねーか! どんな!w)。中目黒のブックオフ潰れましたよ。え、まじ?
聞けば、つい先日も、自由が丘の焼き鳥屋・かとりやに行ってきたのだとか。お母さんは呆れてこう言います。
「お酒飲まないし、1本100円なのに、6000円も飲み食いするのよ!」
「隣の人にコーラごちそうになってたから、それでも随分、安くなってるはずだよ。コーラは確か280円だったかな。あそこいいですよ。安いしおいしいし」
ここまで豊富な、そして有益な居酒屋情報を聞けたのは久しぶりです。そして、それが中学生からというのは人生初です。
「じゃ」
「またね」
小雨の中、自転車をかっとばし帰っていく少年。
教えてもらったいくつかの店に、さっそく行ってみよう。そして後日、屋台屋さんでまた会ったら、行ってきた話をしよう。
話好きで素敵なお母さん、学芸大学情報にとてつもなく精通しているおませな中学生。こんなおもろい居酒屋、絶対また行かなきゃだめでしょう!
あー、2年前の少年に出会っていたかったなー。どうでもいいけど、写真で見せてもらった少年のお母さん、俺より年下でかわいかったなあw
追記:屋台屋さんのその後
2016年10月10日に閉店したわけですが、その二日後、10月12日にたまたま前を通ると、お店に人影がありました。のぞいてみたら、いつもの常連さんたちが集っていました。残り物の酒を片付けるべく、最後の宴会が開かれていたのです。私もご相伴にあずかりました。
まさか花見が故人を偲ぶ会になるとは。故人の人柄もあって楽しい会だった。故人の息子でもある、約5年ぶりに会ったシャイでナイーブな中学生は、それはそれは明るい人懐っこい青年になっていた。そして母親そっくりになっていた。 pic.twitter.com/q3giRPs2Qw
— 後藤ひろし(ひろぽん) (@gokky_510) March 27, 2020
2019年、お母さんの娘、あの中学生の母親が亡くなり、翌年、碑文谷公園で偲ぶ会が開かれました(この間に僕と同い年と判明していた)。
屋台屋さんが閉店して約3年。中学生はもう立派な青年になっていました。私のことなんてもちろん覚えていない。優しい顔つきはお母さんにそっくりでした。
SHOP DATA
- 屋台屋さん
- 東京都目黒区東が丘1-1-20 仙田ビル
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