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多くの人がジェノベーゼを誤解している件~緑じゃない本当のジェノベーゼパスタを作ってみた

本当のジェノベーゼの画像

目次

本当のジェノベーゼは緑じゃない!

多くの人がジェノベーゼを誤解しています。普通、日本人がジェノベーゼと聞いて思い出すのはこちら。

genoveseの画像

緑色のバジルペーストを使ったパスタをジェノベーゼと呼んでいます。

では、「レシピ ジェノベーゼ」とそのイタリア語「ricetta genovese」でGoogle画像検索をしてみましょう。

genoveseの画像

日本語で「レシピ ジェノベーゼ」をGoogle画像検索した結果。

genoveseの画像

イタリア語で「ricetta genovese」をGoogle画像検索した結果。

この差!w イタリア語での検索結果は緑ではなく茶色です。言語が違うといっても、これは差がありすぎでしょう。なにかあるはず……。

結論を先に言いますと、本来的にはこういうことです。

  • Pasta alla genovese=ジェノベーゼパスタ(茶色いパスタ)
  • Pasta al pesto genovese=ペスト・ジェノベーゼのパスタ(緑のパスタ)

みなさんが思っているジェノベーゼ(ペースト)はジェノベーゼではありません。「ペスト」なんです。

ジェノベーゼがなぜ誤解されるようになったのか

ペストとペーストは違う言葉です

ペスト(pesto)はイタリア・リグーリア地方で生まれた調味料です。ニンニク、松の実、オリーブオイル、バジリコの葉、パルミジャーノなどで作ります。

ペスト・ジェノベーゼはジェノヴァ産のバジリコを使ったもので、イタリアの原産地名称保護制度(DOP)に則った呼び方です。ジェノヴァ産のバジリコを使っていればペスト・ジェノベーゼ。ジェノヴァ産ではないバジリコを使っていれば単なるペストです。

※正確に言うと、ペスト自体はすりつぶしたもの全般を指すのですが(ジェノバの方言「pestâ(pestare)」=すりつぶすという動詞が語源)、バジリコのペストがもっともメジャーで、実質上、ペストと言えばバジリコのペストを指すことがほとんどのようです

ペスト(pesto)はイタリアの調味料の名前で、ペースト(paste)は"ペースト状のもの・練り物"という意味の英語です。両者はまったく異なる言葉。イタリアには「ペストというペーストがある」ということです。

また、「ペスト・ジェノベーゼ」という言葉において、重要なのは「ペスト」です。バジリコを使った調味料がペストなのですから。「ジェノベーゼ」はバジリコの産地を表しているだけ。

※バジリコはイタリア語。バジルと同じです

※文法の話ですが、イタリア語は基本的に「名詞+形容詞」という語順を採ります。ですから、ペストが名詞でジェノベーゼはそれにかかる形容詞です

茶色いジェノベーゼ

後ほど、具体的に作っていきますが、イタリアンのメニューで「牛肉ワイン煮込みソースのパスタ」といったメニューを見かけませんか? あえて言えば、あれがジェノベーゼに近いものです。

諸説あるようですが、中世(?)の頃、ナポリにジェノヴァから腕利きの料理人がやってきた。その料理人の作る牛肉を煮込んだソースがべらぼうにうまかった。そのソースがジェノベーゼソースと呼ばれるようになった。そして、そのジェノベーゼソースを使ったパスタをジェノベーゼと呼ぶようになった、と。

ですから、特にナポリでは茶色いジェノベーゼパスタが名物となっています。そこから日本でも「ナポリ風ジェノベーゼ」というメニュー名で茶色のジェノベーゼを出す店もあります。バジルのペストを使ったパスタ=ジェノベーゼと思われている現状において、わかりやすくするためにこう言っているのでしょう。ただ、イタリアではあまりそういう言い方はしません。「ジェノベーゼと言えばジェノベーゼ!」がイタリア流。

ちなみにイタリア人の知人が何人かいるので聞いてみましたが、「ジェノベーゼ」とだけ聞いて思い浮かべるのはジェノベーゼソースのパスタ(茶色)で、バジルのパスタはペストのパスタだ、と言っていました。

※追記:後日、他のイタリア人からこう言われました。「緑をジェノベーゼとは呼ばない! あれはペスト! 茶色いソースのパスタがジェノベーゼだ!」と。かなり強い調子でw

※追記:「ナポリでジェノベーゼと言うとこの茶色いパスタ」と思っている人も多いようですが、まったく違います。ナポリどころかイタリアどころか日本以外の全世界でジェノベーゼと言えばこの茶色いパスタなんです。緑のバジリコペーストのパスタは全世界的にペスト(パスタ)です。

誤解のポイント

  • 日本ではペスト(という名称)に馴染みがない
  • 「ペスト・ジェノベーゼ」の「ペスト(pesto)」(=バジリコの調味料)が「ペースト(paste)」(=練り物)と混同された
  • 「ペスト・ジェノベーゼのパスタ」では長すぎる

これらが相まって、「ジェノベーゼ"ペースト"を使ったパスタだからジェノベーゼでいいだろう」と誤解し、ペスト・ジェノベーゼを使ったパスタをジェノベーゼと呼ぶようになったのではないでしょうか。あくまでも想像ですが。

ですから、

  • ジェノヴァ産バジリコを使ってないのであれば、あの緑のパスタは「ペスト(の)パスタ」と呼ぶのが正解(日本語的に言えば)
  • 仮にジェノヴァ産バジリコを使っているなら「ペスト・ジェノベーゼ(の)パスタ」が正解
  • もちろん「バジリコペーストのパスタ」も正しい

です。「ジェノベーゼパスタ」と謳うだけでは、バジリコのペストを使っているという意味合いが含まれていないので。

逆に「genovese」ではなく「pesto pasta」でgoogle画像検索してみましょうか。

genoveseの画像

ほら、検索ワードに「genovese」が含まれていなくても、見事すべて緑。そりゃそうです。これはジェノベーゼではなくペストなのですから。ペストをジェノベーゼと呼んでるのは日本人だけ。

バジルのパスタはキャッチーです。特徴的です。でも、茶色のジェノベーゼは地味と言いますか普通。シンプルです。そして、上のように「牛肉ワイン煮込み~」と言ったほうが、なんだか上等に聞こえます。そんなこともあって、本来のジェノベーゼはその名を失い、バジルに取って代わられた、ということもあるような。

なお、日本語版wikipediaには「ペスト・ジェノヴェーゼ」という項目しかありません。英語版wikipediaには正確なジェノベーゼについての解説があると同時に、「ペスト・ジェノベーゼと混同しないように」とも書かれています。もちろんイタリア語版wikipediaはちゃんとジェノベーゼを説明しています(バジル云々なんて一切書かれてませんw)。

本当のジェノベーゼを作ってみた

では、本来の、イタリア人が言うところのジェノベーゼ(パスタ)を作ってみます。イタリア人の料理ブログ等を参考に作りました。

材料

genoveseの画像
  • 牛肉 1kg
  • 玉ねぎ 6個
  • ニンジン 1本
  • セロリ 1本
  • トマト 1個(なくてもOK)
  • 白ワイン 1カップ
  • こしょう
  • ナツメグ(あれば)
  • パセリ
  • パルメジャーノ
  • 大ぶりのパスタ(写真はリガトーニ)

作り方

(1)玉ねぎ、セロリをスライス。ニンジンを小さくさいの目切りに。

(2)圧力鍋(なければ普通の鍋)にオリーブオイルを入れ、(1)を炒める。玉ねぎが全体的にしなってくるまで。

(3)適当な大きさにカットした牛肉を鍋に入れる。

(4)白ワインと水を少々入れ、ひと煮立ちしたらアクを取り除く。赤ワインではありません。白ワインです。ここ重要。

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(5)適当な大きさにカットしたトマトを鍋に入れる。

(6)40分~60分、圧力鍋で煮る(普通の鍋なら2、3時間?)。

この圧力鍋はパール金属の圧力鍋(4.5L)。安いし便利ですし、料理の幅が広がりますよ~。サイズは3.5リットルよりも4.5リットルがおすすめです。

(7)牛肉がほぐれるほど柔らかくなったら、ギュッと煮詰め、塩、コショウで味を整える。もし、もっとコクがほしいならコンソメなどを加えてみてもいいでしょう。

これで本当のジェノベーゼソースが完成。

genoveseの画像

(8)茹でたパスタにジェノベーゼソースをからめ、パセリをちらし、パルメジャーノをふりかければ、本当のジェノベーゼパスタの完成。牛肉と野菜の甘みたっぷりの濃厚なソースは激うまです。

今回、牛肉はモモを使いました。脂分の少ない赤身がいいと思います。ナツメグがあれば、圧力をかける前に適量入れます。トマトを入れるレシピと入れないレシピがあるようなので、トマトは必須ではありません。ただし、入れるにせよ少量で。トマトが多いとイタリア人に怒られますw 「それはもはや違うパスタだ」と。

圧力鍋の大きさに限界があったので玉ねぎは6個だけでしたが、本当はもっと入れたいところ。圧力鍋で玉ねぎを煮込むとトロトロになりすぎるので、6個は圧力鍋で煮て、3個ほどは飴色に炒め、あとで加えてもいいかもしれません。

余談ですが、できあがったこの写真をイタリア人に見せました。すると、こんな返答が。

「うん、これがジェノベーゼパスタだよ」

よかった。イタリア人お墨付きw

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別日に作ったジェノベーゼ。パスタはミッレリーゲ(Millerighe)

こうなってしまった以上、もはや声高に「そもそもジェノベーゼとは本来…」と主張しても無駄ですし、そんなことをするつもりもありません。ただ、本来のジェノベーゼはこうで、こいつがめっちゃうまいからやってみ?とw

ジェノベーゼのバリエーション

以下は別日に作ったものです。基本的に上記と同じですが、もう少し細かいことをいくつか。

genoveseの画像 genoveseの画像

今回は牛肩ロース(180円/100g)。適当な大きさにカットします。写真は500g強で結果、4人前できました。つまりちょいと多めに見積もって、150g/一人前と考えていいでしょう。ただ、じゃあ150gで一人前を作ればいいかというとそうではなく、多めに作った方がおいしいです。料理ってのはそういうものですw 最低500gくらいがよろしいかと。

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こんな感じで材料を炒めます。玉ねぎは4個。トマトはなし。

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圧力鍋で30~40分ほど煮込みます。あとは水分を飛ばして好みのゆるさに。今回は牛乳も加えてみました。そういうレシピもあったので。まろやかになりますね。

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パスタはタリアテッレ。ですから、正確にはジェノベーゼとは言えないか。タリアテッレ・アル・ラグー なんちゃってジェノベーゼあるいはボロネーゼ。

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こちらも列記としたジェノベーゼソースではあります。ただ、パスタが普通のパスタだし、チーズも振ってないので、牛肉のラグーパスタと呼ぶのが正確かな。

厳格にジェノベーゼパスタを作るとなると、揃えづらい材料が出てくるかもしれません。パッケリやリガトーニなどが入手しづらいなら、太めの普通のパスタで試してみてください。もちろん、それでもおいしいですよ。

補足:ナポリタンと状況が似てる?

いえ、まったく違います。

ナポリタンは日本人が独自に作り出したもの。ご存知の通り、イタリアにはありません。

一方、ジェノベーゼはイタリアにあります。茶色い牛肉を使ったパスタ(orソース)です。けど、日本人が誤解して緑のバジルのパスタを"ジェノベーゼ"と呼んでいるだけ。

ナポリタンとジェノベーゼではまったく状況が異なりますよね。

ちなみに天津飯も広東麺もナポリタンと同様です。他国の地名を使って、実際にはないそれらしき料理を勝手に作り出しちゃうということはよくあること(日本に限らずですが)。

ただ、繰り返しになりますが、ジェノベーゼの場合は本来それが指す料理(茶色いパスタ)が現地にあります。これを違う料理(緑のパスタ=ペスト)の名前にしちゃってるという点がややこしいw

補足:逆のことを想像してみよう

あなたはイタリアへ旅行に行きました。そしてイタリアの和食店に行ってみました。

そこには「kansai」というメニューがあります。何だろう?と思って注文してみたら、お好み焼きが出てきました。

「いやいや、kansaiってwww これはお好み焼きだろうwww」

あなたはそう言って笑うのですが、イタリアでは99%の人がお好み焼きのことを「kansai」と呼んでいるのでした。

――というのと、同じことですよねw もちろんこれは例えです。イタリアでお好み焼きはkansaiだとかhiroshimaだとかと呼ばれていません(きっとw)。

補足:ジェノベーゼじゃない!ペスト!の実例

Tastyの大人気プロデューサー・Rieは日本人ですが、ちゃんと「ペスト」と言ってます(6:25あたりから)。日本以外ではこれをジェノベーゼとは言わない、ジェノベーゼと言っても通じないとわかっているからです。

ジェイミー・オリバーもペストと言ってます。そして途中で「ジェノベーゼ」という単語が出てきます。ちゃんとペスト・ジェノベーゼというものをわかっているからです。「ジェノベーゼペストはこんな材料を使うけど、イタリアには地域によって違う材料を使ったペストがある」と。