自分への誕生日プレゼント。ちょっと贅沢にまだ行ったことのない店に行ってみよう。
学芸大学駅から徒歩30秒。東口商店街沿いにある和可奈寿司(わかな)。看板には和可奈鮨との表記もあります。いずれにせよ和加奈ではなく和可奈。
和可奈寿司が昭和3年創業ということは知っていました。そして、私が知る限り学芸大学でもっとも古いお寿司屋さんです。学大に住んでいる以上、一度はお邪魔してみないと。そう思って誕生日に行ってみた次第。
ピカピカに光っている店内。とてもキレイ。もともとは駅向こう(西口・松屋あたり)に店を構えていたそうです。東口に移り、8年前、改装して現在のようなキレイな店舗になりました。
「基本的にはおまかせで握らせて頂いて、あとはお好みで追加して頂くという感じでやっています」
そう説明してくれたのは3代目。とりあえずお酒を一合お願いしました。
猪口は3種から選ばせてもらいました。猪口も徳利もいい景色だなぁ。
おしぼりとお酒が出てくる頃合いに、奥から2代目のお父さんが出てきて板につかれました。
「握って頂く前に刺身でひとつつまみたいんですが」
「何にしましょうか」
「サバはありますか?」
「はい。いいサバがありますよ」
「お願いします」
ワサビをすり、包丁を引きます。手元は見えませんが、その姿はまさに熟練の職人。
最近の高級・人気店の板前さんはピシッと立って、美しい所作を披露してくれます。けど、この大将はそんな最近の流行りとは少し違う。いい意味で昔ながらの職人の立ち居振る舞い。そこにもまた違った美があります。
いい色。ひと口つまんでは日本酒をキュ。ふぅ。
「おいしいですねぇ」
「ありがとうございます。サバは買おうと思えばいつでも買えます。けど、いいものがないと買わないんです」
リズムよくサバをつまんでいきます。なんてったって、私の好きな魚介のベスト3はサバ、タコ、ウニ。たまりません。つまはもちろんワサビもすべてキレイに平らげました。
「おいしかったです」
そう言って皿を下げてもらうと、その皿を見ながら大将が嬉しそうにこう言います。
「気持ちいいなぁ。こんなにキレイに食べてもらえて。嬉しいです」
「そうですか?」
「つまを残される方も多いんですよ」
「そうなんですか。もったいないですねぇ」
「いや、ほんと気持ちいい(笑)」
さて、握って頂きましょうか。
「何を握りましょう」
「おまかせでお願いします」
「かしこまりました」
まずはヒラメ。ネットリ感がありつつも、身は引き締まってます。ネタは大きめでシャリは比較的しっかり握られています。
どちらかというとネタ、シャリは小ぶりで、ホロリとほどける握りにするのが流行りなのかもしれません。けど、ここは違う。大ぶりのネタとそれに負けないしっかりした握り方。食べごたえがあります。
シャリの握りに正解なんてないんだなぁ。たぶん。ネタとのバランスなんだよきっと。うん。
「大間のマグロです」
「うわ」
見た目がエグイ。食べたら、それはそれはもう。
ふふふ。
思わず笑ってしまいました。
「やっぱり食はおいしくないといけませんね。おいしいものが一番です」
と大将。続いてパッと出されたネタに背筋がピンとなります。
「大トロです」
「いやぁ……すご」
「カマのところです」
まじっすか。てか、おまかせ5000円だよな? 大丈夫か?w
味? 食べた感想は必要ですか?w
東京湾のスミイカ。濃厚。
ウニ。日本酒と合わせたらえげつない。
煮ハマグリ。きっと煮る時間は短いはず。プリプリでジューシーで、貝のうまみが溢れ出ています。
そして。
握り始めに水槽から出されていた車海老。なんじゃこりゃ。
「他ではなかなかないと思いますよ、このエビは」
身が詰まってるんです。プリプリじゃない。ブリッブリ。やばっ。
この次に焼かれたエビの頭が出てきたのですが、写真を撮るのも忘れました。出された瞬間に箸が動いていたのです。殻はパリパリで香ばしく、身とミソはトロトロ。あああ……。
で、いま何貫目? どんだけ出てくるの? 黙ってたら延々と出てくるんじゃないか。そう思ってしまうほどの満足度。もうすでに。
アナゴ。身がとても厚いです。食べればわかります。どれだけネタにこだわっているかが。
コハダ。締めてるのか?と思うほどコハダ本来の味わいが前面に出ています。上等。
鉄火とかんぴょう。この荒々しさはむしろおいしさを引き立てます。料理は整ってりゃいいってわけじゃない。
最後は玉。こいつがまたうまいのなんの。
「ウチで一番人気かもしれません(笑)」
いや、わかりますとも。
カワハギのお吸い物はさっぱり薄味。ほのかな塩味(えんみ)とアラのうまみ。ここまでそぎ落とすというのは自信でしょう。
2、3、追加で握ってもらうことになるかなぁと思っていたのですが、これで十分。
ヒラメもコハダもそうですが、締め方が浅め。ツメも濃くない。ネタのよさを味わってもらいたいという気持ちの表れでしょう。そして、寿司自体がしっかりしていますから、くどくならないようにしているのかもしれません。センス、経験、技、ですな。
他に客がいなかったというのもあって、トントンと気持ちいいペースで握って頂けました。朗らかに話もして頂けて気持ちいい。大満足。
熱いお茶を飲みながら、改めて店内を見渡します。美しくまっすぐに伸びるカウンター、一番奥に鎮座するヒノキの輪切り、正面中央に飾られた、見事な細工が施された大きな木製の千社札……。
威風堂々。店内の雰囲気も大将の姿も握る寿司も。
「ごちそうさまでした」
そう言いつつ扉を開け振り返り一礼。
「ありがとうございました」
奥様も3代目も出てきて深くお辞儀をなさいました。
店を出ます。夜の7時すぎ。往来は激しい人通り。暖簾をかきわけて出た私の姿は、なんとなく自慢げだったに違いありません。どうよ。ここで食ってきたんだぜ、と。
学大に越して来て約3年。学大一の老舗寿司屋へ挨拶するのに3年というのは、ちょいと遅かったか。けど、素晴らしい誕生日プレゼントサンキュー俺w
SHOP DATA
- 和可奈寿司(わかなずし)
- 東京都目黒区鷹番3-1-8
- 03-3712-3757
- 公式