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御代鶴(みよづる)のとんかつ定食は安くてボリューミーでおいしい!お父さんのひと言で、失われた時が蘇りました。

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都立大学駅、駒沢大学駅から徒歩15分強。学芸大学駅からだと20分強。駒沢通りの柿の木坂交差点と東京医療センターの中間あたりに御代鶴(みよづる)というとんかつ屋があります。

※2020年7月5日追記:実質的に2019年末には閉店していました

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営業は昼と夜。

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特にランチメニューがお得なので、昼はいつ行ってもお客さんで溢れ返っています。

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寡黙なお父さんは職人の面持ちでとんかつを揚げています。お母さんは優しくて丁寧な対応。娘さんと思しき女性もとても気がききます(女性ではなくご年配の男性がいらっしゃることも)。

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ジャンボ白田の上の絵がとても素敵。

「佐藤勝彦さんの絵なんです。お店がオープンする時、この絵が合うだろうとお客さんがくださって」

「お店はいつオープンしたんですか?」

「昭和48年」

「私の生まれ年です」

「あらそう!」

とにかく優しいお母さん。

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お父さんはビール瓶で肉を叩いています。長年やっている中で、一番手に馴染んだのがビール瓶なんだろうな。包丁でチャッチャッと軽くスジ切り。粗めのパン粉をたっぷりまとわせます。

「女性がカツカレー、男性がとんかつね」

お母さんは逐一、お父さんにそう伝えます。メニューによっては男性と女性で変えている、ということが後ほどわかりました。

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なんていい表情をしてるんだろう。

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色合いは焦げ茶ですが、焦げ臭いわけではありません。ザクっとした衣ですが、硬いわけではありません。880円という安さですが、豚肉は柔らかくジューシー。とんかつにベストマッチな炊き具合のご飯、ダシのきいたみそ汁、パリっとしたキャベツ、シャクっとするレタス。うますぎる。

普通はご飯やキャベツを少しおかわりしたくなるもの。けど、御代鶴はボリュームがすごいのでおかわりの必要がありません。

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連れのカツカレー。カレーはスパイシーで濃厚。カツは普通のトンカツより少し薄めなんですが、だからこそ食べやすい。背後の男性のカツカレーと見比べてみました。明らかに量が違います。とはいえ、この"女性用"でもとんでもない量なのですが。

「ごちそうさまでした」

3人それぞれの顔を見て、軽く会釈しながら3回、ご挨拶。

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昔ながらのオーソドックスなとんかつ。880円で食べられる、温もりのある、この上なくおいしいとんかつ。私の生まれた年からずっと変わらず愛され続けてきたとんかつ。素晴らしい。素晴らしすぎる。

失われた時を求めて

話が前後してしまうのですが。

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御代鶴へ初めて行ったのは2015年8月。店の前でなぜか胸騒ぎがしました。

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会計を済ませ、いつものように店員さんお一人お一人に顔を向け、「ごちそうさまでした」とご挨拶。すると、とんかつを揚げている寡黙なお父さんが顔を上げ、目を合わせて「ありがとうございます」とおっしゃいます。

扉を開ける手が一瞬止まりました。ああ。らーめん山田だ。

行列の絶えない恵比寿の大人気ラーメン店・らーめん山田。十数年前から数え切れないほど行っています。らーめん山田の味噌ラーメンがこの世で一番好きなラーメンです。チャーハンも間違いなく私の中でナンバーワン。

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らーめん山田のお母さんたちはとても優しいです。帰り際、お父さんは必ず顔を上げ目を合わせて「ありがとうございます」とおっしゃいます。

らーめん山田といえばとんかつラーメンで、駒沢通り沿いに店を構え、営業時間は11:30~14:00で、優しいお母さんと丁寧に挨拶をするお父さんがいる――これらすべてが御代鶴と共通しています。御代鶴へ初めて行った際に胸騒ぎしたのは、らーめん山田の記憶が無意識のうちに私の心の奥底をくすぐっていたからかもしれません。そして、お父さんの「ありがとうございます」という顔で、はっきりと両者が結び付きました。プルーストのマドレーヌのごとく。

御代鶴を出て、駒沢通りを自転車で戻ります。柿の木坂交差点で曲がり、後ろを振り返りました。ふふ、右に折れれば"スワン家のほう"、左に行けば"ゲルマントのほう"ってか? 近いうちに"ゲルマントのほう"にも行かなきゃな。

約一ヶ月後の追記。

御代鶴に初めて行き、この記事を書いた約一ヶ月後、らーめん 山田のマスターがお亡くなりになりました。あの時の胸騒ぎはこれだったのでしょうか……。残念ながら、この間にらーめん 山田へ行くことはできませんでした。

御代鶴よ永久に。

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