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手打ちそば屋 与志田(よしだ)は学芸大学という街に愛されるべく清らかに佇む

※2017年9月21日追記:2017年9月頃に閉店しました。追記以上

学芸大学駅西口を出て、線路沿いを五本木方面に向かうと、ほどなくして手打ちそば屋 与志田(よしだ)があります。

yoshida-sobaの画像

手打ちのそば屋ですが、メニューが豊富です。カツカレー、鍋焼きうどん、親子丼などがあり、まるで"街場のそば屋"のよう。

店内は落ちついた雰囲気。席につくと、隣席からカレー南蛮の強烈な香りが。ううう。しまった……。だけど、仕方ありません。とりあえず、せいろ二段(1000円)を注文します。

出てくるまでメニューを眺めていました。こんなにたくさん、よくできるなぁ。ただ、ちゃんと手打ちでこだわって作ってるのに、カレーって……。

いや、違う。違うぞ。

以前、浅草の一茶庵系の老舗そば屋・蕎上人(そばしょうにん)を取材するにあたって、創業者・平沼孝之氏の著書『浅草人生 そば道場』を読みました。全国的に知られている名店中の名店のご主人。どれほどそばにこだわっているかが、著書を読めばよくわかるのですが、同時に、とても柔軟でビジネスライクな考え方の持ち主でもありました。

手打ちそばといえど商売。儲からなければ意味がない。そして、そば屋はその数だけやり方がある。予算、立地、客数、店舗形態、自身の体力、哲学に応じて、いろいろな形があってしかるべきだ、と。

老舗の職人さんですから、頑固でストイックというイメージだったのですが、そうではありませんでした。そばに対する愛情、そば屋を営む人間に対する優しさが溢れています。私のような素人がわかった風に「手打ちそば屋でカレーなんぞ……」と一瞬でも思ったことが恥ずかしい……。

そうこうしているうちに、そばが運ばれてきました。

yoshida-sobaの画像

汁と蕎麦猪口がわかれています。こうしてもらえると嬉しいですね。まずは2~3口、何もつけずにいただきます。香り、歯ごたえは控えめ。少し舌にさわるそばです。ただ、もしかしたらあえて水切りを少々甘めにしているのでしょうか、そのせいか、喉越しは悪くありません。結局、一段目はすべて何もつけずに食べてしまいました。

二段目は汁にほんの少しつけます。ズルっとすすって、少量のワサビをつまみ、そのまま口へ。く~。これはすごい。鼻にツンとくる野趣あふれる本物のわさびです。汁につけず、ワサビだけで頂いても面白かったです。

汁が別で来ていますから、そば湯でとても割りやすい。醤油が強い汁ですが、しっかりと最後まで頂けました。

食べ終わり、改めて思います。駅前で多くの人に来てもらえるような店にするには、こだわりの割高なそばだけでは難しいはず。毎日のように通ってもらうには、手打ちそばも含めて手頃な価格で、メニューに幅を持たせないといけません。かといって、手は抜けない。そのギリギリのラインが、今の「与志田(よしだ)」の形なのでしょう。

正直、極上の、どこにも負けないすごいそば、とは言えません。だけど、人に、街に愛されようとしている姿はとても美しい。パッと見はなんてことのないそばですが、とても清らかなものに見えました。

今度は田舎そばを頂くか。

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