おそらくですが、源平は学芸大学で一番古く、一番開店時間が遅く、一番お母さんがチャーミングな、一番不思議な居酒屋です。
場所は学芸大学駅の西口商店街沿い。開店時間が22時なので、「いつやってるんだ?」「え? ここってやってたの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。けど、ちゃんとやってますw
腰を悪くして休んでいるマスターの分まで張り切って、お店を切り盛りしているお母さん。御歳80歳! けど、80歳には見えません。とてもかわいいお母さんです。ここに店を開いたのは約50年前。
「源平? よく聞かれるのよねぇ。もともと姉が源平って店をやってて、もう辞めたんだけど、屋号をなくすのもったいないから、そのままつけちゃったの。弟も新宿で源平って店やってるのよ。
この辺も50年前は何もない田舎だったわよ。商店街はあったけど、飲食店はほとんどなかったわね。お寿司屋さんとお蕎麦屋さんがあったくらい。
みなさん遅いでしょう。帰りが。だから、うちも10時から(笑)」
おしゃべり好きなお母さん。調子に乗って、マスターとのなれそめを聞きました。そうしたら、手で顔を隠して照れます。かわいいw
「なれそめって!(笑) 私、伊豆の出身なのよ。当時、伊豆の東急ホテルで電話交換手やってたの。大きなホテルだったから、交換機が2台あってね。その時、調理場にいたのがマスター。交換手だからいろいろ話すでしょう。そうしたら、いつの間にか、ね(笑)」
おおよそ電話交換手がどういうものかは知っていますし、映像でも見たことはありますが、実際にやっていたなんて方には初めて会いました。すごい。
木目調のエアコン、カウンター向うのガラス戸、黒ずんだ梁、すべてがこの店の歴史を物語っています。ただ、古いわりに物が少ない。こういう店はたいがい、いろいろな物で溢れかえり雑然とするもの。楽助や久慈川のようにw だけど、源平はさっぱりしています。お母さんの性格なんでしょうね。
今回はお通しをつまみながら酒をグビグビ。このお通しがなんだかおいしい。
メニューはありません。もし何か食べたければ、お母さんに相談して下さい。ただ、そんなにあれこれさせるのもなんなので、最初の数回はお酒だけ頂きに行くのがいいかもしれません。
「こんなエアコン、もうないでしょう。だけど、まだまだ動くのよ。結構、冷えるわよ。もう何年もやらないだろうし、このままでいいかなって(笑)」
50年もの間、変わりゆく街を、行き交う人々を、変わらない温かい笑顔で見守ってきた居酒屋「源平」。ほんのわずかですが、その歴史の一端に加われたことが嬉しいです。
夏、あのエアコンが稼働しているのを見るのが楽しみだ。
さよなら源平(2018年12月26日追記)
2018年12月23日、twitterでこう呟きました。
店頭に「ご自由にお持ち下さい」と出てたら、閉店したもしくは閉店が近いサインであることが多い。普段は持って帰らないんだけど、今回はひとつだけ頂いた。源平だから。 #学芸大学 #学大 pic.twitter.com/vjpKxSYfuR
— 後藤ひろし(ひろぽん) (@gokky_510) 2018年12月23日
翌日の24日、店頭に車が停まっていて、後部座席に荷物が積まれているのを見かけました。
さらに翌日、某バーへ行ったところ、スタッフの子が開口一番こう言いました。
「源平のママ亡くなったんだって」
「え、まじ?」
いや、なんとなくそんな予感もしてた。この数日の源平は様子がおかしかったもん。そうかぁ。
深夜、家に帰って、twitterのダイレクトメッセージが届いていることに気づきました。源平の常連さんからでした。数日前にお亡くなりになったという情報でした。突然のことだったそうです。
私が最後にママさんの姿をお見かけしたのは夏ごろだったでしょうか。源平とサランバンの間くらいだったかな。もちろんお元気でした。ひと言、「こんにちは」とご挨拶させて頂きました。確か前髪は青かった。いつもの通り背筋はシャンとしてて、いつもの通りかわいかった。
私は学芸大学という街が大好きです。源平は、源平ママは、この街の魅力を私に感じさせるひとつの大きな要素でした。長い間、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
SHOP DATA
- 源平
- 東京都目黒区鷹番3-19-8
- 03-3710-1907
- 公式