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焼酎BAR SSS/Saitou Shochu Sound(学芸大学)は選りすぐりの焼酎がそろっている、女性でも行きやすい焼酎バー。ノーチャージなのでふらりと寄れて、行きつけにもしやすい一軒です

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学芸大学駅から徒歩8分。東口商店街を抜け、都道420号線をそのまま目黒通り方面へ向かうと、目黒郵便局交差点の手前に二階建ての一軒家が二軒並んでいます。それぞれに二軒の飲食店が入っているのですが、その内の一軒が焼酎BAR SSS(Saitou Shochu Sound)。学芸大学駅から見ると手前の建物の一階です。

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重厚な面持ちのエントランス。外観を横目にしているだけなら、オーセンティックなバーだと思う人もいるかもしれません。けど、引き戸を開けると中は……

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7、8名ほど座れるL字カウンターと奥には小さなテーブル席。バーにしては照明が明るく、ウッディーなカウンター・棚と相まって、温もりを感じさせます。また、かき氷機やけん玉などが置かれ、音楽や映画のポスターが各所に貼られているためか、ほどよい雑多感が出ています。かしこまった雰囲気は一切ありません。常連さんたちも和やかでアットホームです。

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オープンしたのは2010年ごろ。焼酎がメインでノーチャージです。私は久々。3度目だったかな。

マスターの斎藤さん(斉藤さん?)は私より少し上くらいでしょうか。あっちの会話にサッとツッコミ、こっちへ来てはスッと話し、カウンター内を軽やかに動き回ってます。口調も立ち居振る舞いも軽妙で、物腰の柔らかさがどことなく芸人さんぽいw この感じがなんだかとてもいい。これまでもそう多くは言葉を交わしていませんでしたが、親しみやすさがあって、一見でもスッとなじめます。

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カウンター上と背後の棚には焼酎瓶が並んでいます。ただ、とにかく数が多いというわけではありません。どちらかというと、店主の選りすぐりがそろっているといった感じ。同じ焼酎バーでも焼酎呑ミ処 2nd.(セカンド)とはちょっと趣きが異なります。

棚を眺めてどれにしようかと思案。飲んだことのない芋焼酎をいってみたいという気持ちもあるのですが、一番手前には玉露(中村酒造場)がありました。

「この玉露は入ってますか?」

「どうでしょう……あ、大丈夫です」

「じゃあ、玉露をロックでお願いします」

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玉露を飲んだのは1年ぶりくらいかな。黒麹特有のクセはさほどなく、芋の甘みがしっかり感じられます。ただ、後口はすっきり。なみなみと注がれた玉露は15年前と同じ味がしました。芋焼酎で二番目に好きな玉露。やっぱうまいな。

「二番目」「15年前」については記事の最後で。

さて、その日のSSSも賑わっていました。ほぼ満卓。20代から60代、男性、女性と幅広い客層。いつも女性客がいるという印象もあります。

BGMは80年代のロックがかかっていました。CDがたくさんあって、店名はsound。

「音楽をやってらっしゃったとかですか?」

「いえ、そういうわけでは。スマホでお客さんが好きな音楽流してます(笑)」

「あ、ほんとだ」

BGMはこれ、という強烈なこだわりがあるというわけではなさそうです。音楽がからっきしな私にとっては、これくらいがちょうどいいw

見ていると赤兎馬(濱田酒造)を飲んでいる人が多いです。それとこれとは直接関係はないのでしょうけど、隣の常連さんは鹿児島県出身で、お姉さんは濱田酒造で働いていたことがあるそう。

「もともとは県内でしか売られてなかったんですが、今ではいろんなところで売られるようになりましたね」

「上手だなぁというイメージがあります。販路を拡大しても、ちゃんとブランド力を保ってますよね」

濱田酒造ってのが面白い会社で、不当にプレミアがつかないよう、特約店にいろいろ条件をつけて赤兎馬を卸しています。結果、ほんの少し高めではあるのですが、私たちはちゃんと定価で買えます。もちろん、プレミア価格にして転売してるヤツらもたくさんいますが。

ところで、焼酎ブームが起こったのは2000年ごろから。東京では2000年にEN-ICHI(西麻布)、2001年に古典(渋谷)という焼酎バーができました。2002年には2000種以上の焼酎をそろえた焼酎専門の酒屋・Sho-Chu AUTHORITY(ショウチュウオーソリティー)がカレッタ汐留にオープン。数多くの本格焼酎が東京でも飲めるようになりました。

焼酎ブームは2008年ごろには一段落します。そして、SSSがオープンしたのは2010年ごろ。

「どうして焼酎バーを? 焼酎がお好きなんですか?」

我ながらなんという愚問w

「宮崎県出身なんですが、お酒と言えば焼酎が普通で」(マスター)

「鹿児島県もそうです」(常連さん)

「鹿児島は日本酒の蔵がない唯一の県なんだよね」(マスター)

「沖縄県にすらあるのに(笑) それくらい鹿児島では焼酎が当たり前なんです」(常連さん)

帰って調べてみたところ、上述の濱田酒造が鹿児島県内で唯一、日本酒(薩州正宗)を醸造しているのですが、確かに"日本酒の"蔵元はありませんでした。

宮崎・鹿児島ではずっと昔から当たり前だった本格焼酎が東京でも普通に飲めるようになってまだ20年弱。けど、焼酎によって日本の酒・飲酒文化がこんなにガラリと変わったというのも、なんだかすごいことだなぁ。

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二杯目は宮崎県・松露酒造の心水(もとみ)。

「初めて見ました」

「あまり出回ってないかもしれませんね」

うん。すごくいい。しっかり芋の風味が出てて、まろやかでコクがある。ネーミングはシャレててかわいらしいんだけど、味わいは武骨で濃厚。このタイプ好きだなぁ。うまい。

半分ほど飲んだら水で割る。こうしてゆっくり二杯の芋焼酎を堪能しました。お会計は芋焼酎二杯で1100円。

「これからまたどこかへ?」

「ええ、隣に顔出して来ますw」

「ありがとうございました」

すぐ隣の螺旋階段を上がり、天ぷら屋・カブへ。そしてこの日はふらふら5軒。

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数日後。所用でSSSの前を通ったので、また行ってみました。

「結局、隣行ったんですか?」

「はい」

「あの時間だと、もう火を止めてたんじゃないですか?」

「そうですね。普通に一緒に飲んでました(笑) あの日は5軒回りました」

「パトロールですね(笑)」

その日も大盛況。そして女性客が二人。やっぱり女性客が多いなぁ。

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一杯目は岩倉酒造場(宮崎県)の月の中(つきんなか)。松が描かれているラベルの月の中は見たことがあったのですが、このラベルは初めて見ました。

ちょっと独特な風味。ほのかな甘みにかすかな酸味。黒麹や黄麹にありそうな味わいなのですが、月の中は黄金千貫で白麹。面白い。

「どうですか?」

「おいしいんですが、独特ですね」

「同じ蔵の妻というのもあって、これおすすめです」

「じゃあ、それお願いします」

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岩倉酒造場の妻。おおお。すごい。芋感ガッツリ。甘みがあってふくよか。先日の心水もこの妻も、一番好きなさつま無双に似たタイプ。うまいなぁ。

同じく妻を飲んでいる、先日もいらっしゃった向こうの常連さんから声がかかりました。

「これ、いいですよね」

「おいしいですねー」

マスターも素敵だけど、常連さんもみなさんなんだかいいなぁ。本当にいいバーだ。

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井上酒造の飫肥杉(おびすぎ)
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別日に飲んだ小玉醸造合同会社(宮崎)の杜氏潤平(とうじじゅんぺい)
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尾込商店の神座(かみくら)
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田村合名の鷲尾
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宝山の綾紫印
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旭萬年(渡邊酒造場)の白と黒
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NOMANNE CONNE(製造:松の露酒造、販売:一心堂)
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以前行った際に飲んだ麻原酒造の梅酒わいん(白)

芋焼酎以外にもお酒はあります。梅酒も多く、特にワインベースの梅酒、梅酒わいん(麻原酒造)が人気のようです。その日も女性が立て続けに四杯ほど飲んでました。飲みやすくておいしいんですよねぇ。

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雰囲気は和やかで、軽妙なマスターは親しみやすく、居心地がいいバーです。安いしノーチャージなので、私のような根なし草でもフラリと寄りやすい。もちろん、行きつけにもしやすいと思います。ぜひ一度、SSSをのぞいてみて下さい。

焼酎苦手? まあまあ、焼酎と言ってもいろいろありますから、「あ、こんなのもあるんだ!」そんな発見があるかもしれませんよ。

SHOP DATA

玉露とペコちゃん

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15~20年ほど前、芋焼酎とスコッチにハマって、それはもうとにかく飲みまくってました。芋焼酎は150種は飲んだと思います。そのほとんどは青山の某焼酎バーで飲みました。日本で一番焼酎が揃ってるバーです。当時で1000種以上あったはず。今は5000種ほどあるようですが。

歩いても行ける距離に住んでたので(恵比寿から徒歩20分強)、その焼酎バーに通いつめていたのですが、その頃はゴールデン街でも飲み歩いていました。よく行っていたのは、evi、原子心母、しの、三坪、ナマステ、hide、そしてシラムレン。

※シラムレンは2023年7月31日に閉店

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シラムレンは1976年にオープンした老舗のバーです。jazz好きで寡黙なマスターは隻腕。そして、まさに"片腕"となって店を手伝っていたのがペコちゃん。

私より30ほど年上だったのかな。白髪のおかっぱで、口が悪く、ダミ声で、サバサバ。けど性根はとても優しくて、かわいい姐さんでした。

今はどうかわかりませんが、当時、シラムレンにあった芋焼酎は玉露だけ。マスターが片腕で器用に玉露の一升瓶を抱え、豪快に溢れるほどグラスに注ぐ。これを私の前に無造作に置く。タバコをくわえたペコちゃんがグラスを指さしながらこう言います。

「いろいろ飲んだけど、やっぱり玉露が一番ね」

これがペコちゃんの口癖。

ある晩、ペコちゃんと焼酎談議になりました。そんな中、生意気盛りの20代後半の飲んだくれは、30年上の先輩に臆面もなく、こんなことをほざきます。

「青山に日本一焼酎が揃ってる焼酎バーがあるんです。焼酎が好きなら絶対いいと思いますよ」

タバコをふかしながら、「へぇ、そう。今度、行ってみるよ」とペコちゃん。まあ、酔っ払いながらのこんな会話ですし、社交辞令的にそう言っただけだろうと思っていたのですが、一ヶ月ほど経った頃。

「あの焼酎バー行ってきたよ」

「えええ。本当に行ったんですか。どうでした?」

「うん、いっぱいあるね。いろいろ飲んだ。どれもおいしかったけど、やっぱり玉露が一番だね」

若造のうぬぼれに乗って、わざわざ遠くまで足を運んでくれたというのが嬉しかった。そして、一番好きだと言えるものがあるということが、いかに素晴らしく幸せなことかを教わったような気がしました。

この日以来、玉露が一番好きな芋焼酎になりました。

ペコちゃんが亡くなったのはその数年後。訃報を耳にしたのは亡くなった数年後のことです。

この間に私にとっての本当の一番が見つかっていました。さつま無双です。ですから、ペコちゃんに倣ってことあるごとにこう言うようにしています。

「芋焼酎ではさつま無双が一番」

と。

そして玉露は私にとって二番目に好きな芋焼酎となりました。

参考/小茶のホームページ:美緒の気まぐれエッセー~ペコちゃん(ウェブアーカイブ)

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