学芸大学の某バーで飲んでいたら、祐天寺界隈を地元とする男女三人組と隣になりました。三人は同級生。歳は私の2つ下。一人(男)はよく知っています。二人(女)は初体面。
話を聞いていたら、女性の一人は実家が飲食店をやっていると言います。
「どこだろう?」
「TSUTAYAの前の定食屋です」
「え! まじ? えーっと、名前なんだっけ」
「きこり食堂です。知ってます?」
「もちろん! 行きたい行きたいと思ってるんだけど、まだ行けてないんだよねぇ」
もう一人の子の熱弁が始まります。
「祐天寺で生まれ育った人間はみんなきこり食堂に行ってますよ。じゅうじゅう焼がホントおいしいんです。みんな食べてます」
「じゃあ、近いうちにじゅうじゅう焼食べに行くよ」
「じゅうじゅう焼、本当においしいですから!」
そんなことがあった約1ヶ月後、きこり食堂に行ってみました。
※2021年12月に閉店しました
祐天寺駅から徒歩5分。ロータリーから駒沢通り方面へ真っ直ぐ伸びる祐天寺商店街本通り沿い。駒沢通りにほど近い場所にあるきこり食堂。
カウンター10席強のこじんまりとした定食屋さん。やってらっしゃるのはお父さんとお母さん。富士山の絵がいくつかあります。山がお好きで、だから"きこり"なのかな?
どのメニューもおいしそう。隣のお姉さんが食べているメンチカツも超やばい。だけどもちろん豚肉じゅうじゅう焼定食をお願いします。
写真を撮る位置が2ヶ所にわかれてます。途中で席が変わったから。一番端だったのですが、真ん中が空き、そこは狭いからこっちへ来なさいと促されました。口調はぶっきらぼうですが、なんか優しいお母さんです。
私が一番最後の客。混んではいますが、タイミングがよかったので、それほど長くは待たずに豚肉じゅうじゅう焼定食がやって来ました。
どう考えてもおいしいに決まってる。見た目でおいしいとわかります。
アツアツの鉄板の上でタレがじゅうじゅういっています。トロっとした半熟の卵はざっくりと混ぜられ、白味と黄身が入り乱れています。素晴らしい溶き方。料理のことを熟知してらっしゃる。
食べると、濃厚で甘い醤油ダレが脂の乗った豚肉にからみ、トロリとしたまろやかな半熟……うっせえ! 写真を見ればわかるでしょ? こんな料理を前に言葉を連ねて味の説明をするなんて野暮。
というか、豚肉をひと切れ口にした瞬間から食べ終えるまでの記憶が曖昧です。こんなにうまい料理を口にしてしまうと、何かを考え、何かを記憶に留めておくことすら無理。一心不乱に脇目も振らず、じゅうじゅう焼とご飯をかきこむのみです。
一気に豚肉じゅうじゅう焼定食を平らげたら、アイスコーヒーが出てきました。
もうランチタイムは終わり。常連のお姉さんが表の「営業中」の札を引っくり返しました。お父さんは夜のための仕込みらしき作業を始めてらっしゃいます。早く切り上げるべく30秒でコーヒーを飲み干しました。
お二人とも忙しそうなので、「先日、お嬢さんと一緒に……」みたいなことは言えませんでした。まあいいか。お父さんの体の具合があまりよくないと聞いていたのですが、お元気そうでよかった。
店を出て、自転車で学芸大学駅方面へと戻ります。感動で胸がいっぱいになりました。もちろん、おいしかったので感動したということもあります。と同時に、こうも思うのです。
祐天寺の連中が口をそろえて「うまい」と評し、胸を張って自慢する「きこり食堂」とその名物メニュー・豚肉じゅうじゅう焼定食。実際、本当においしかったです。くっそうまかった。アホかと思うほどうまかった。
きこり食堂が、豚肉じゅうじゅう焼定食が、祐天寺にある。その一事をもってして、祐天寺に生まれ育ったことを誇りに思ってもいい。豚肉じゅうじゅう焼定食はそれほどの料理です。
「じゅうじゅう焼、本当においしいですから!」
あのセリフに込められた想い、熱、そして誇り。それを改めて思い知り、感動したのです。そこまで誇りに思える店、料理があるってのは、本当に素敵なことだよなぁ。
蛇足的に付け加えるなら、学芸大学界隈、祐天寺界隈で生まれ育った人間からすると、数年前に越して来たような新参者が目障りだったり、時に"自分たちの街"を荒らしているように感じられてもおかしくはありません。
でも、私が知り合った地元の人たちはみんな優しい。みんなよくしてくれます。そういうことに触れるにつけ、ああ、学芸大学という街に越して来てよかったなぁとも思わされるんですよねぇ。
SHOP DATA
- きこり食堂
- 東京都目黒区祐天寺2-6-11
- 03-3710-7897
- 公式
余談。
いやはや。私はなんて鈍いんだ。冒頭の知り合いの男・関ちゃんは植木屋。祐天寺、植木、関……。まさか。
「関ちゃん祐天寺でしょ? もしかして実家って……」
「スーパー三和を入ったところです」
「やっぱり! 中央中通りというか昭和通り商栄会の関商店だよねぇ」
「ええ。僕は他でやってますが」
たはは。なんて気づくのが遅いんだw
ついでに聞きました。
「中央中通りに関商店って豆腐屋あるじゃん? なんか関係あるの?」
「いや、ぜんぜんないっす」
なーる。関商店の記事で、偶然だろうなぁと書いておいたのですが、実際、偶然だったので追記しときましたw
関商店(学芸大学・祐天寺)の手づくり豆腐は風味豊かで、豆乳ゼリーもプルプルで濃厚。大豆の味がしっかりと感じられるおいしい豆腐・豆乳でした