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パオン昭月(駒沢大学)の季節限定・生クリームあんぱんがおいしいのはもちろん、ソーセージフライパンがとてつもない逸品でした~孔雀が羽根を広げるかのごとき愛を感じさせてくれるパンとお父さん

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なぜこういう風景に心が惹かれるのでしょうね。

駒沢大学駅から徒歩10分弱。駒沢交差点から駒沢公園通りを100mほど北上したところにパオン昭月(しょうげつ)というパン屋さんがあります。オシャレな今どきのパン屋ではなく、昔からある街場のパン屋さん。

のちほど紹介しますが、タレントのヒロミさんがパオン昭月の生クリームあんぱんを差し入れとしてよく買うということで有名です。

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※2022年5月6日追記:2020年に軒先のテントが新調されました。追記以上

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クリームシチューに合わせるフランスパンがほしくてやって来たのですが、他にもおいしそうなパンがいろいろあったので、いくつか買ってみることに。会計時、店主のお父さんに話をうかがってみました。

「こちらは相当長いんじゃないですか?」

「そうですね。ここで40年くらいでしょうか」

おそらくこれはお父さんの計算違い。ということが後ほどわかりました。

「ここでってことは、それ以前は他の場所だったんですか?」

「昔は駒沢大学の前あたりにあったんです。けど、道路の拡張で立ち退きまして、ここに移ってきたんです。ちょうど東京オリンピックの頃ですね」

東京オリンピックは昭和39年。1964年です。てことは、もう50年以上前。先ほどの「40年」というのは計算違いもしくは言い間違いですねw

「そんなに昔からですか。こんなにたくさんのパンをずっと作り続けてきたっていうのは、すごいですね」

「毎日、だいたい3時に起きてますよ(笑)」

「はやっ。すみません、お忙しいところを。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

朗らかで優しい笑顔のお父さん。雰囲気としては8代目橘家圓蔵、あるいは武田邦彦を華奢にした感じ。そして特徴的なのが声です。とてもいい声。いい声といっても低音ではなく、よく通る声。誰かの声に似てるんだよなぁ。役者か噺家でいそうな……。

さて、買ってきたのはこちら。

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まずはカレーパン。サクッとした衣、モチッとした生地。カレーがしっかり詰まっています。濃厚でスパイシー。めっちゃうまい。

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ソーセージフライパン。ひと口目で衝撃を受けます。すごい。衣がガリっと堅めに揚げられています。この食感がたまらなくいい。そして、おそらくサッとソースのようなものにくぐらせているのですが、その味わいも素晴らしい。いわゆるソースというような味じゃない。なんだろうな。ソースとダシ醤油を合わせたような味わい。それがうっすらと。

いや、これはまじでやばい。最近食べた惣菜パンの中でダントツだな。超絶うまい。

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フランスパンはカフッと軽め。こういうタイプはトーストするのがいい。

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サクっとなったフランスパンはクリームシチューにピッタリ。いいねぇ。

というのが2016年9月29日のことでした。

以上を記事にすべく、いろいろ調べていましたら、パオン昭月の公式サイトにこんな文言がありました。

生クリームあんぱん(10月~5月中旬までの期間限定商品)

なんだって! こんな書き方をするくらいだから、きっと名物なんだろうな。写真もおいしそう。10月ってことは明後日じゃん。うー……。まあ、改めてもう一度行けばいいか。

それから約3ヶ月。2016年12月の中旬にようやく行くことができました。

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迷わず生クリームあんぱんを選び、もうひとつ、パオンパンというのもあったので買ってみました。

「以前、そのソーセージのパンを購入させて頂いたんですけど、めちゃくちゃおいしいですね」

「ありがとうございます(笑)」

「衣がしっかりしてますよね。ザクッとした食感がとても気持ちよかったです」

「そうですか。粗めのパン粉で揚げてるんです」

「あと、ソースのようなものにつけてますよね?」

「ええ、少し」

「あの味付けもちょうどよくて」

「そうですか。よかったです(笑)」

「公式サイトにモノクロの写真が載ってるじゃないですか。あれ、いい写真ですねぇ。いつ頃の写真ですか?」

「確か東京オリンピックの頃だから……1963年、64年くらいです」

てことは、こちらに移って来たちょうどその時の写真か。

「祝い花がいっぱい出てて、なんかいい写真ですね」

「ありがとうございます」

お客様がいらっしゃいました。ご近隣のおばあちゃん。

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

自転車で品川用水(後述)を下るように学芸大学駅方面へと向かいます。その途中、ハッと気づきました。わかった。お父さんの声。林家木久扇だ。もっと若い頃の林家木久扇の声にそっくり。噺家って感じの、よく通る、耳触りのいい声。もし、パオン昭月に行く機会があったら、ぜひぜひお父さんと話をしてみて下さい。林家木久扇かどうかはさて置いても、ほんといい声なんです。

さて、買ってきたのがこちらです。

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生クリームあんぱんとパオンパ……。おや? 「バニラビーンズが香る自家製カスタード入り」って書いてあったけど、これ……。あああ。これ、隣のクルミパンじゃんw 間違えたw ま、いっか。

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くるみパンはしっかりとした生地にクルミやドライフルーツが練り込まれています。とても香ばしい。

小ぶりな生クリームあんぱんは、ねっとりとした濃厚なこしあんと甘い生クリームが、おいしさを押し付け合うかのように、くんずほぐれつでこちらに襲いかかって来ます。激うま。わざわざ買いに行った甲斐があったな。うん。ヒロミが差し入れによく買うってのもよくわかる。

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「パオン昭月」公式サイトより転載

色あせて今はもう消えてしまっているのですが、店前のテントには大きな孔雀(クジャク)の絵が描かれていたこともあります。そしてビニール袋にも店内の商品札にも孔雀のイラスト。孔雀はフランス語で「paon」。だからパオン(正確な発音は「パン」)。きっとw

公式サイトによると、1946年、和菓子職人だった初代が戦後の配給や闇市で仕入れた小麦でパンを作り始めました。これがパオン昭月の始まりです。

1960年代半ばに現在の地へ移り、子どもたちが店を継ぎます。いつの頃からか店名が昭月製パンからパオン昭月となり、関係性は不明ですが、町田(BAKE HOUSEE TEDDY)、高ヶ坂に支店ができました(いずれも閉店)。創業から今年でちょうど70年。

※追記:BAKE HOUSEE TEDDYは2017年4月、つばめパンにリニューアルしました。やってらっしゃる方は(おそらく)同じで、駒沢大学・パオン昭月の一族の方です。クジャクからつばめ。素敵ですね。追記以上

孔雀(オス)が羽根を広げるのは求愛のためだそうです。なるほど。パオン昭月の外観、パンに心を惹かれたのは、単なる昭和ノスタルジーじゃないんだ。パンを、客を愛するその気持ちが、そこはかとなくこちらに伝わってきたからなんだろうなぁ。

SHOP DATA

パオン昭月と品川用水

当記事の冒頭の外観写真をご覧下さい。写真を横切っているのが駒沢公園通りです。そして写真左手、同通りを横断する通りがあるのですが、ここには昔、川(用水)が流れていました。品川用水です。

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品川用水は現在の武蔵野市境に玉川上水からの取水口があり、そこから千歳烏山、千歳船橋、桜新町と南下、現在の国道246号線と一度ぶつかり、246の一本裏手を駒沢大学、上馬方面へと伸び、環七を南下、野沢交差点でぐっと東方向に折れ、水車橋を経由して、串カツ田中 学芸大店のあたりまで来て、バス通りを学芸大学方面へ、そのまま武蔵小山に向かって流れて行きました。最終地点は戸越(目黒川、あるいは大井町へさらに伸びる)。

で、パオン昭月の脇の道がまさに品川用水だったのです。品川用水のほとんどは昭和20年代に暗渠(あんきょ)化もしくは埋め立てられました。ですから、パオン昭月がこの地へ移って来た頃にはもう川はなかったと思われますし、ここに限らず、直接的に品川用水の姿を目にできる地点は現在、ほとんどありません。

ただ、ところどころに川の形跡がありまして、それを見つけ、あるいは辿る暗渠マニアという人たちがいます。私もマニアとまでは言えない暗渠好きです。

つまりですね、このパオン昭月と学芸大学駅前、マツヤデンキとかあの辺、一本の川で繋がってたんですよ。80年ほど前までは。そして、おそらく戦後直後くらいなら、まだ川が一部残っていた。学大のバス通りは2車線あるじゃないですか。その祐天寺側の車線あたりが川だったそうです。昔は川もきれいで、ホタルがいたってんですよ。そんな当時の風景を想像すると面白くないですか? 別に? そうですか(^^;

おお、そうだ。暗渠でパンといえば碑文谷ベーカリー。あそこ一帯は暗渠マニアにとっては、それはそれは面白いところでして。品川用水と羅漢寺川がアクロバティックにニアミスする、大スペクタクル地帯。本当は上馬交差点付近もね、品川用水と呑川が……おっとっと。何の記事だっけ? ああそうだ。パオン昭月のパンがおいしかったという記事だw

参考:とうよこ沿線/品川用水