※2017年1月24日追記:正確な時期はわかりませんが、2016年(おそらく春ごろ?)に閉店しました。長い間、お疲れ様でした。追記以上
東京都道427号瀬田貫井線と言われてもピンと来ないかもしれません。けど、桜新町、下高井戸、永福町、阿佐ヶ谷、鷺ノ宮あたりの太い通りと言えば「ああ、あれね」とわかる人も多いでしょう。特に阿佐ヶ谷の中杉通りという通称は有名です。
今回行った店はその427との交差点を終点とする駒留通り沿いにあります。基点は246の世田谷警察署前交差点付近です。246を挟んで東方向、下馬方面は世田谷観音通り(旧明薬通り)。
世田谷警察署から駒留通りを歩くこと約5分。三軒茶屋駅や駒沢大学駅からだと徒歩15分ほどでしょうか。環七との交差点・駒留陸橋手前に「たこ林」という居酒屋があります。たこ専門の居酒屋です。
好きな魚介を3つ挙げろと言われれば、迷わず「鯖、ウニ、たこ」と答えます。たこが大好きです。ですから当然、たこ林は気になっていたのですが、ようやく行くことができました。
白を基調とした清潔感溢れるキレイな店内。たこグッズがいっぱいあります。メニューを見るとたこ料理のみ。たこ料理以外は一切ありません。唯一あるのはこちら。
お通しのシラスw だけど、これがまたうまい。とりあえず、たこ珍味とたこ薄造りをお願いしました。
それほど待たずして、たこの珍味が出てきました。たこの卵とたこのミソ(内臓)です。ミソは魚のわたとさほど変わりません。サンマのはらわたみたいな感じ。苦いです。私は食べられますが、苦手な人は食べられないだろうな。きゅうりにたっぷりつけて頂きます。うん、珍味珍味w
卵はプリッ、プツッとした食感。ほのかにたこの味がします。
「卵もやっぱりたこの味するんですね」
「そうですねぇ。それなりにやっぱりたこの味がしますね。はい」
穏やかにゆっくりとそう答えるのは、店を切り盛りするお母さん。上品でシャイで物静か。とてもかわいらしいお母さんです。
続いて薄造りがやってきました。
ふおお。きれい。
まずは何もつけずにひと口。とても柔らかいです。プリッとしていて、すぐ噛み切れます。噛めば噛むほどたこの味が染み出てきます。
次はポン酢をつけて。おおう。すごい。最初はポン酢のしょっぱさと酸味。次にかすかな辛子(唐辛子)の刺激。そのあとです。急激にたこが出てきます。何もつけないよりも強烈なたこ感。これは"スイカに塩"原理と同じかな。淡泊ですが、塩気や酸味でカウンターをあてると、素材の風味が増すという。こりゃうまい。
「たこが大好きなんですよ」
「そうですか。ありがとうございます。主人が喜びます。はい」
ぬぬ? この言いっぷり……。ご主人が始めて、亡くなったあと、お母さんが継いでいる? ここは慎重にいかねば。
「こちらはどれくらいなんですか?」
「今年で23年になります」
「たこで有名なところのご出身とかなんですか?」
「いえ、主人がたこが好きで。それだけなんですよ」
「たこはどちらのたこなんですか?」
「千葉に知り合いがいまして、そこから仕入れてもらってるんです。それをお父さんが毎日、仕込んで」
なーんだ、ご存命じゃないかw よかったよかった。
「このポン酢もそうですし、メニューを見てもそうなんですが、たこって酸っぱいものとか辛いものがよく合うんですかね」
「そうですねぇ。梅もキムチもそれなりによく合いますわねぇ。あとはバターもおいしいですね、はい」
話しかけるとよく話してくれます。けど、お母さんからはほとんど話しかけてきません。常連になればまたちがうのかもしれませんが。
「たこグッズがいっぱいですね」
「そうですねぇ。みんなお客さんが買ってきてくれて。それなりにいろいろあるものですわねぇ」
もうひとつ気になっていたことがあります。
メニュー脇に書かれている、ひと言。かわいらしい。絶対、お母さんが書いてるんだろうなw
「これ、いいですね。『美味ほんとうヨ』『ステキナカップル』とか(笑)」
「誰も書いてくれないものですから、私が全部書いているんです」
「いやぁ、かわいいです」
「まあ、参っちゃいます(笑)」
いや、ほんとにかわいいお母さんだw 続いて、たこイボイボ焼をお願いしました。
「これはコリコリしてておいしいですね」
「はい。それなりに歯ごたえがあって、これはこれでいいですよね」
ゆっくりと「はい」と言うのが特徴。口癖は「それなり」。面白いw
〆にたこめしをお願いしました。できあがるまで少々時間がかかりそう。お通しのしらすをつまみながらウーロンハイを……。お? ああ、なるほど! もしかして……。
「このしらすも大ぶりでおいしいですね」
「はい。それなりにしっかりしていますわね」
「たまに小さなたこが混ざっていたりするんじゃないですか?」
「ははは。そうですわね。たまにかわいいのがいたりしますね。それを見つけたお客さんは『ラッキー』っておっしゃいます(笑)」
「あー、残念。私のには入ってませんでした」
「そうですか。それは残念ですね。はい」
たこキチがやってる、たこ料理しかないたこ専門居酒屋です。そこで供されるお通しだけがたこ以外というのは甚だ不自然。小さなたこが入っていることを目論んで、お通しにしらすを選んでいたとしても、あながち酔狂とは思えない。むしろ、このしらすにこそ、たこマニアの本気が垣間見えますw
さて、たこめしがやって来ました。
はぅ。いい香り。
「もしよかったら、山椒をどうぞ」
かけてみたのですが、山椒がめちゃくちゃよく合う! 甘辛い味付けですから、うな重のような感じになります。乗っているたこは頭部。プニプニ柔らかい甘いたこ。ご飯にも細かく刻まれたたこが混ざっています。混ざっているたこは揚げている? たこ天のかすを使ってるのかな? 単にたこを混ぜました、というだけではなさそうです。とてもコクがあります。絶品。
「山椒が合いますねー」
「そうですね。それなりに合いますわね。あまりたこに山椒をかけようなんて思わないですものね」
大好きなたこだらけ。かわいいお母さんとの二人きりの空間。幸せ。
会計を済ませると、お母さんが扉を開けてくれました。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
「また来ます」
「はい、お待ちしてます」
店を出て246方面へと向かいます。見通しのいい真っ直ぐな駒留通り。前方には首都高が通っていて、そのすぐ上には大きな月。もう数日経ったから、満月は少し欠けています。そうだ。なんだっけ? たこは満月の夜、陸に上がって畑で何かを掘り越して食べるんだよなぁ。芋だったかなんだったか……。
スマホでググれば答えはすぐわかります。だけど、今はやめておこう。たこめしの余韻に浸っておきたいから。さーて、と。どこの"畑"に酒を掘り出しに行こうかね。
SHOP DATA
- たこ林
- 東京都世田谷区上馬2-38-11
- 03-3424-0014
- 公式