※2017年1月28日追記:2016年の夏~秋頃に閉店したようです。お疲れさまでした。追記以上
所用で西小山へ行ったついでに、フラフラと街散策。西小山にはほとんど来たことがないのですが……。ねぇ、西小山住人のかた。毎晩パラダイスなの、ねえ? ちょっと歩いただけでも、強烈に行ってみたいと思うような飲み屋がわんさかあります。とんでもないな、西小山。
なんてことをしていたら、とてつもない妖気を感じ取ります。
ああ、なんだ。楽園かよ。当たり前ですが入ってみます。
西小山駅から徒歩5分ほど。不案内なので場所を詳しく説明できません。住所から調べて下さいw 看板には「やきとり 丸東」と書いてあります。「まるとう」と読むのでしょうか。カウンターだけの狭い焼とん屋です。
年季入りまくり。古くてお世辞にもきれいとは言えないw でも、なんかいい。画になります。
とりあえず飲み物を頼みました。
「ホッピーお願いします」
え?という顔をして近づいてくる店主。耳が遠いようです。口をハッキリ開け、大きめの声でもう一度「ホッピー」。そうしたらうなづいて準備をし始めました。出てきたホッピーがこちら。
わお。レモン入り。こりゃ盲点。初めて見ました。飲んだら、これがなかなかいけます。三冷ではありません。ホッピーのみ冷えている一冷ですがw
開店直後っぽいので、店主は炭やらなんやらの準備に忙しいようです。炭台の下を見ると、「日向備長炭」という段ボール。火鉢から炭を移しているのですが、長い炭は道路に落として割ります。キーンといういい音。
そんな様子をうかがっていたら、外から「親方!」という声。先客の"親方"にお祭りの写真を渡しに、おっちゃんがやってきました。おっちゃんはそのまま帰ります。嬉しそうに写真を眺める親方。ああ、なんていいタイミングなんだろう。ご年配からも親方と呼ばれるかた。完全に地元の偉い人じゃないですか。町会長だったり? 横から写真をチラチラ覗いていたら、「見る?」と写真の束を渡してくれました。
「今度の土日が祭りなんだよ。だけど、明日から忙しいな。さっきのは写真を撮るのが好きでね。いつもこうして焼き増ししてくれるんだよ」
「僕は学大のほうなんですけど」
「ああっ?」
「僕はー、学芸大学のほうなんですけどー」
「おう」
「確かー、19、20日くらいが祭りです」
「ああ、そうかい」
たぶんですが、親方は耳は遠くない。耳の遠い店主がテレビのボリュームを調整してるもんだから、テレビの音が大きく、私の声が聞きづらいんですw
「ここはどれくらいになるんですか?」
「古いよ。40年か50年か」
「ええええ。すご!」
「俺なんか毎日来てるよ。けど、フリーで入って来るなんてほとんどいないな。常連ばっかり。安いから来ちゃうんだよな。本当はナンコツが好きなんだけどよ、75歳にもなると食えねぇんだよ。一度、腹開いてるし。ここはなぁ、○○がいいんだよ。常連になると……」
伏せておきましょうw
2階と1階を行き来していた店主。準備が整ったようなので、食べ物も注文します。まずはガツ刺し。
酢、唐辛子、生姜、ネギなどのタレがかけられています。なかなかいい塩梅。ガツが柔らかいです。なんだろうなぁ。普通はもっとコリっとした食感も残るはずなのに。切り分けているところから観察していましたが、特に変わったことはしていませんでした。うーん、知りたい。マネしたい。
それにしてもいい写真だ。見ているだけで食欲をそそります。私のスマホカメラはダメだし、腕があるわけじゃない。ガツ刺しの力強さがしっかりと伝わる料理だからこそでしょう。
次はカシラ、シロ、レバーを2本ずつ。先ほど、親方はタレ・塩を指定していませんでした。そしてタレが来ていました。何も言わなかったらタレなのかな? 私も指定せず頼みました。
焼き始めた店主に撮影の許可を頂きます。
「焼いてるところ、撮っていいですか?」
はははといった笑顔でうなづきます。表から裏から、店主をパシャパシャ。
夕暮れにさしかかった初秋。裸電球の温かい光。使いこまれた炭台。備長炭はパチパチと音をたてながら、赤く照っています。脂やタレが落ち、時折、ジュッと音がします。扱いづらい炭ですが、熟練の技で串を引っくり返し、場所を変えつつ焼き上げていきます。白い調理服、赤と黒のキャップという出で立ちは威厳があります。
やばい。かっこいい。そして美しい。
串がやって来ました。やはりタレです。いい照り、いい盛り。素敵。
クセを残した柔らかいシロ。ミディアムレアよりほんの少ししっかり目に焼かれたうまみの詰まったレバー。脂部分が多いため、強烈なブタの香りを放つカシラ。「臭みがなくてさっぱりしていておいしい」の対極にあります。クセがあり豚臭たっぷりで濃厚でおいしいです。
串を撮影していたら、店主が話しかけてきました。
「それはフィルム入ってないんでしょ?」
うほw
「フィルムは入ってないんですよ」
「全部、その中に入ってるの?」
「ええ、データとして記憶されて行くんですが……」
先ほど撮った串盛りと焼いている写真をお見せします。
「こんな感じで」
あああ、と満面の笑み。
「ありがとう。よく撮れてるね」
マスター、こちらのほうがありがとうですよ。こんな写真にこんなに喜んでくれて。
「じゃあな」
そういって親方が帰っていきました。店内は私とマスターの二人きり。居酒屋で一番好きなひと時です。一見が店主を独占して談笑。これに勝る楽しみはありません。
ホッピーはなくなりました。まだここにいたい。
「ホッピーとモツ煮込み」
大きな口で、できるだけシンプルに注文を伝えます。「あー」とうなづく店主。
大鍋から中くらいの雪平に一人分の煮込みを移し、水を加えて温めます。
「熱いよ。気をつけてね」
そうやって出してくれたモツ煮込みがこちら。
器はアッツアツ。食べてもアツアツ。こうでなくちゃね。ぬるいモツ煮込みを出す店はいかん!w
まずこの見た目! 緑と茶のコントラスト。小ぶりの器にモリモリ。美しいモツ煮込みです。
長時間煮込まれ、長時間漬け込まれた白モツはトロけるように柔らかい。味噌にもモツのうまみがしっかり移り濃厚。ハフハフ言いながら一心不乱にモツをつまみます。なんておいしいんだろう。絶品。
表の雨は小ぶりになりました。そろそろ行くか。
「お勘定を」
指でバツを作りながらそう言います。
「1880円ね」
2000円を渡し、席を立ち、「お釣りいいです」と手を振ります。
「ありがとう」
「ごちそうさまでした」
「また来てね」
「ぜひまた」
すっかり日が落ち、赤提灯が目立つようになった西小山の商店街。2、3軒回ろうかと思っていたのですが、この日は退散することに。下手な店を選んでしまい、この幸福感が損なわれてはもったいないから。
初の西小山で「丸東」に行ってしまったのは、幸か不幸か。いや、「丸東」が別格なんだな。次回、西小山を訪れた際は、ちゃんとハードルを下げて行こう。
SHOP DATA
- やきとり 丸東
- 東京都品川区小山6-22-7
- 03-3787-8765
- 公式