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Tronc/こなもん食堂 とろん(学芸大学)はたこ焼き・お好み焼きなどの粉もののお店。ダシと醤油で味付けされたたこ焼きはソースいらずでそのまま食べられ、上品でおいしかったです

ダシのきいたTronc(とろん)のたこ焼きを試食

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※2023年5月30日に閉店しました。

学芸大学駅から徒歩5分。東横線の高架沿いに「Tronc/こなもん食堂 とろん」というお店があります。学大横丁を抜けた先にある御惣菜・おにぎり すずきの前の道をずっと真っすぐです。ちょうど駒沢通りと東横線が交差するあたり。ITO Kitchen(イトキッチン)の隣。2018年11月21日にオープンしました。

ここはもともとガレージで、これが店舗物件となり、バー・DELIGHT(2015年~2017年)→Happy Coffee Beans(2018年4月~8月)と移り変わってきました。

troncはフランス語で木の幹という意味です。店主の名前、同店のたこ焼きの特徴・イメージ(トロンとしてる)に由来した名前だそう。

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私が店の存在に気づいたのは11月11日。その一週間後、11月18日に前を通ると、おっちゃんがたこ焼きを焼いていました。扉をノックして、声をかけてみます。

「たこ焼き屋さんですか?」

「はい」

「なんという店名ですか?」

「まだ決まってないんです」

「いつオープンする予定ですか?」

「あと2、3日でオープンできると思うんですが……食べてみますか?」

「えー。いいんですか。じゃあ、せっかくなので」

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紙の箱に10個のたこ焼きをポンポンポン。

「ソースをつけないタイプのたこ焼きなんです。関西とこっちでは違うので、おいしいと思ってもらえるかどうか……」

文章で雰囲気を出せないのがつらいのですが、親しみやすくて楽しいおっちゃんは関西弁。"おっちゃん"という呼び方がとてもよく似合うおっちゃんですw

「たこ焼きって関西・関東と言うより、もう人それぞれですよね。関西人同士ですら、これが好き、あれは嫌と好みが違いますし」

「値段もどうしようかと。一応、10個で500円と考えてるんですが、花たこさんは250円でしょう。この辺の方は安いたこ焼きになれてらっしゃいますから……」

「花たこはちょっと特別ですよね。値段も味も」

「キャベツが入ってるんでしたっけ?」

「ええ。だからお好み焼きっぽい感じがします。いまチラっと見えましたが、旭ポンズがあるんですか?」

「ご要望があれば、お出ししようかと。けど、栓抜きが……」

「このままで大丈夫ですよ。なんか逆によかったですね。オープン前に足りないものがわかってw」

余談ですが、五本木交差点にあった花たこは2019年1月1日に学芸大学駅西口方面へ移転しました。

話をTronc(とろん)のたこ焼きに戻しましょう。少し小ぶりで中はトロッ、外はパリッ。上品なダシでエビが香ります。

「エビを使ってます?」

「はい」

「エビの感じがすごく強く出てますね。おいしいです。どこかでやってらっしゃったんですか?」

「いえ。前は古物商をやってました」

「骨董とかですか?」

「そうですね。けど、もう骨董なんて時代でもないので」

いろいろ話をしながら、たこ焼きをパクパク。楽しいねw

「すみません、ごちそうさまでした。オープンしたら、また寄らせて頂きますね」

「はい、お待ちしてます」

店を出ると目の前は大盛況。コーヒーショップ裏手の屋外スペースに古着がずらりと並び、若者が大勢集まっていました。ただ、これが終焉前の最後の盛り上がりだと後ほど知るわけですが。

Tronc(とろん)のたこ焼きはトロンと上品

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11月18日、コーヒーショップ・STREAMER COFFEE COMPANY 五本木店閉店(私がオープン前のTroncを訪れた日)。
11月21日、Tronc(とろん)オープン。
11月25日、古着店・KILO SHOP TOKYO 五本木店閉店。

慌ただしさを見せるこの一角。11月23日、前々日にTronc(とろん)がオープンしたという情報を得て、再びやって来ました。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

「オープンしたんですよね。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

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こざっぱりとした店内はカウンターがあり、椅子が3、4脚。店内でも食べられますし、テイクアウトもできます。

「後藤さんですか?」

「はい」

「どこかで見た顔だなぁと。ブログか何かやってらっしゃるでしょ。嫁が読んでて」

「そうですか。この辺りのことをいろいろお調べになってるんですかね(笑) たこ焼きをお願いします」

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よく見るとたこ焼き用の鉄板の左側は普通の鉄板が一枚。この際はたこ焼きしかありませんでしたが、記事執筆時にはお好み焼きも登場しているようです。

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たこ焼きと一緒にお水も頂けます。

「熱いですよ。爪楊枝でプスッと穴を開けて冷ます方もいらっしゃいます(笑)」

「えー。熱いのをハフハフ言いながら食べるのがいいのに(笑)」

アツアツのたこ焼きをひと口でパクッ。ほんとに熱いやw けど、それがいい。たこがしっかり感じられて上品でおいしいです。いくらでも食べられそう。

「この前(オープン前)と違いわかりますか?」

もう一個じっくり味わいます。うーん、エビ感が弱まった? いや、何だろう。

「いやぁ、ちょっとわかりません」

「ようやく鉄板がなれてきて、生地がしっかりしてませんか?」

トロっとはしていますが、確かに前よりは若干しっかり目かもしれません。

「なるほど言われてみれば。鉄板はある程度使ってなじんでからって言いますよね。あと火の具合とかもいろいろあるでしょうし」

「水も違うんです。関西は軟水、関東は硬水で」

「ああ、そうなんですか。それだけで違うもんなんですね」

あとで調べたところ、軟水のほうがダシを取りやすいのだとか。

「一応、ソースもあるんですが」

「いや、旭ポンズありましたよね。ポンズで食べてみたいです」

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旭ポンズの酸味とうまみが、この上品なたこ焼きによく合います。

「大阪ではテーブルに醤油と酢が置かれていて、それで食べたりもするんです。持ち帰る際は新聞紙に包んだり」

餃子みたいw 今度やってみよ。

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「結局、10個500円にしたんですが、どうでしょう」

「いいんじゃないですかねぇ」

もしかしたら、8個380円といった感じのほうが買ってもらいやすいかもしれません。味も、もっとがっつりダシをきかせてパンチを出したほうが多くの人に刺さりやすいとは思います。そして見た目も大切な要素。ソース、マヨネーズ、かつお節がない分、"映え"がないわけですから、出し方・プレゼンテーションに何かひと工夫あってもいい気がします。また、学大の夜の動き出しはとにかく遅いので、20:30閉店は早い。いろいろ事情があるのはわかりますが、私ならこの物件の営業時間リミット、23:00まで開けるかなぁ。

ただ。

やっていく内にわかることもあると思うんです。お客さんの要望に応える形で変わることも出てくるかもしれません。最初からバシッとキマることなんてないんだから、少しずつアジャストしていけばいい。まだ始まったばかり。これからこれからw

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とはいえ、おそらく住所が間違ってますw 正しくは東京都目黒区中央町2-30-21。おっちゃん、ここは早急に直した方がいいよw

※営業時間は変わりました。詳しくは記事末の店舗データをご参照ください

たこ焼きと酒と古書

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さて、たこ焼きを食べながら、いろいろな話をしました。そんな中でわかったおっちゃんの経歴をまとめるとこんな感じです。

兵庫県芦屋市生まれ。兵庫県西宮市でずっと古物商をやっていました(一時期、京都にも)。昔は骨董も扱ってたようですが、その後は古書などが中心だったようです。

2013年、ご夫婦で東京へ移住してきました。南青山に事務所を置きつつ、2017年9月には店舗も構えます。店舗は2018年7月に閉めることになるのですが、南青山の事務所はそのままで、奥様が引き続き古書などの販売をなさっているそうです。屋号は西宮時代から麓覺堂(ろっかくどう)。

「これ、お店の看板だったんですか?」

「ええ」

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「で、これは前の店の住所が書かれた荷を詰める木箱のフタです。飲食店はここに扉をつけなくてはいけなくて」

「前のお店の思い出がいろいろ散りばめられているんですね」

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これらの古書も麓覺堂のもの。Tronc(とろん)でも売っています。古書を眺めながらたこ焼きをつまむ――

たこ焼きと酒と古書

結構キャッチ―だと思いますけどね。おしゃれな若者にウケそうな古書や、内容的にも値段的にも気軽に手に取れるような古書がもっとあれば、それを目当てに来る人も増えるんじゃないかなぁ。

「動物系の本が多いですね。何か飼ってるんですか?」

「以前、秋田犬を。この写真なんですけどね」

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「え? これって秋田犬なんですか? 秋田犬というと、ロシアに贈られたあの犬のイメージですが」

「あれは赤ですね。秋田犬には赤、白、虎、胡麻があって、その写真は虎です。特に珍しいわけじゃなく、よく生まれますよ」

「へぇ。そうなんですか」

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祝日の昼過ぎ。いい陽気。電車が通ると、腰かけた椅子からかすかに振動が感じられます。気持ちいい。けど、おっちゃんの表情はどこか物憂げです。

「目の前のコーヒー屋さんは突然、閉まりましたね。閉まることは前からご存知でした?」

と、おっちゃん。

「いえ。寝耳に水でした。裏では前々から閉店は決まっていたと思いますが」

「どうしてですかねぇ」

「いろいろ噂はありますけど、なんでしょうね」

「閉店してしまって、人がパッタリ通らなくなりました」

「そうですか? 駅から帰る人、駅へ向かう人がそれなりにいるんじゃないですか?」

「いや、ぜんぜんです。上の古着屋さんも閉店するんですよね。店を作ってすぐに、まさかこんなことになるとは……」

「新しく何かができたら、すごい人出になるかもしれませんよ」

おっちゃんはコーヒーショップと古着屋の最後の盛り上がりを目の当たりにしています。ですから、両店の賑わいがなくなった眼前の光景が余計に寂しく感じられ、そして不安感が積もるのでしょう。

気持ちはわかります。わかりますが、コーヒーショップ・古着屋の代わりに今度は自分がここまで客を呼び込む! おっちゃん、それくらいの意気込みで行こう!w

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鉄板前のガラス戸が開けば、たこ焼きやお好み焼きを焼きながら行き交う人とも話ができるのに。扉を開け店に一歩入らないと会話・注文ができないという現状の造作は、テイクアウト可の粉物屋としては不利っちゃあ不利。おっちゃんの面白さを知ってもらうチャンスを減らす可能性もあります。通る人たちにおっちゃんのキャラがなんとか伝わるといいんだけどな。

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いずれにせよ、たこ焼きは上品でおいしいです。おっちゃんも面白い。多くの人がちょっと休みに来てはその幹にもたれかかる――Tronc(とろん)がそんな大樹となって、このエリアの新しいシンボルとして認知されるようになるといいですね。

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