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やきとり 㐂作/喜作/きさく(武蔵小山・学芸大学)の見事なおでん、焼きとんはとてもおいしく、賑やかな常連さんたちの会話は最高のBGMでした

武蔵小山駅から学芸大学駅方面へと帰る途中、やきとり 㐂作(きさく)という居酒屋を見つけました(「㐂」は「喜」の草書を楷書化したもの/略字)。

いい居酒屋は私にこう語りかけてきます。

「寄ってきな」

そうしたら行かざるを得ません。

※この記事を書いた数年後、お母さんはお亡くなりになりました。そして2019年7月現在、お父さんも体を壊され、お店は長期休業中です

※2019年8月8日追記:8月1日にご主人の吉田實さんもご逝去されました。享年86歳。奥様と命日が一週間と違わないのだとか。ご冥福をお祈り致します。なお、㐂作は2019年6月30日閉店、ということになります。追記以上

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目黒通りの目黒郵便局前交差点と武蔵小山駅の中間あたり、都道420号から少し入ったところに㐂作/喜作はあります。ファミリーマート、自転車屋・PUNTO ROSSO TOKYOのあるあたりです。目黒本町界隈にお住まいであれば徒歩ですぐ。武蔵小山駅から徒歩10分、学芸大学駅から徒歩15分といった感じでしょうか。

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L字のカウンターには8名ほどが座れます。奥は居間のようなので、自宅兼店舗なのでしょう。やってらっしゃるのは70歳を越したお父さんとお母さん。お父さんは渋みのあるお顔。夏八木勲、仲代達矢、笠智衆……そんな雰囲気。

メニューが見当たりません。けど、目の前には炭の焼き台と大きな四角いおでん鍋。なんとなく、どんなものがあるのかは見当がつきます。とりあえず瓶ビールをお願いしました。

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いつものこれ。間違いない。こうやって瓶ビールを出してくれる店は絶対にいい。

「このあたりを散策?」

お父さんが声をかけてきてくれました。

「用事でたまたま通りかかったもので。こちらはどれくらいになるんですか?」

「もう忘れちゃったわよ。数えるのも大変だし」

とお母さん。すると、隣の常連さんがこう付け加えました。

「40年以上だよねぇ」

年季は入っていますが、その割にはきれいです。お手入れが行き届いてます。おでん鍋もきれい。

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「おでんお願いします。大根とー、ちくわとー、えー……コンニャク、お願いします」

「大根と、ちくわと、コンニャク、ね」

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とてもいいダシの香り。醤油はほとんど感じません。ダシとほのかな塩味(えんみ)で十分食べさせます。やばいくらいにおいしいです。特にこの大根! 面取りの角が美しいRを描いています。箸を入れるとハラリとほぐれます。こう仕上げるにはゆっくり静かに煮ないといけません。こいつは上等です。すごい。

「おでん、ほんとおいしいですね」

「そう、ありがとう(笑)」

かわいいお母さんです。お父さんは一見、無口で怖そうですが、いやいや、何気によくおしゃべりになります。

「このあたりも随分変わったんじゃないですか?」

「小山は変わったねぇ。26号ができて。これからも変わるでしょう」

地元の方は小山(こやま)って言うんですね。そして都道420号のことを26号と言うのもこの界隈の方ならでは。ちなみにこれは補助26号線から来た通称。学芸大学駅界隈にお住まいの方にもなじみのある道路でしょう。目黒郵便局前から五本木まで、ズドーンと通す予定が一向に進んでいない、アレですw

「焼き物をお願いしたいんですが」

「うちは鳥じゃなくて豚モツ。カシラ、タン、ハツ、レバー、シロ……(失念)だけどいい?」

「はい。じゃあ、カシラとシロを二本ずつタレで」

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ジジジ。炭の音が聞こえてきます。じっくり丁寧に焼かれたもつ焼きがこちら。

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いい表情をしています。カシラは薄めにスライスされていて柔らかい。ネギの焼け具合もちょうどいい。シロはカリっとしている部分と柔らかい部分があって、食感も楽しい。うまいなぁ。

時間が経つにつれ、徐々にカウンターが埋まって行きます。お客さんが席につくと自動的にお酒が出てきます。みなさん常連さんですね。

常連さん同士の会話が最高のBGM。とにかくまあ面白い。

「あそこのそば屋、なんだっけ? あの通りを入ってさ。ふた口くらいで終わるんだよな。食った気しねぇよ」

武蔵野ですねw わかっていましたが、あえて口は挟みませんでした。こうして聞いているのが楽しいし。

「ガソリンスタンド曲がったところにも、そば屋が二軒ならんでるでしょ? なんていったかなぁ。あれは奥の方がおいしいんだよね。名前なんだったかなぁ」

松月庵(閉店)と信濃屋ですねw

「26号ずっと行ったところの、ほら、階段を2、3段下りて入る……。あそこうまいんだよな。つまみもいろいろあってさ」

蕎麦 季(そば き)か。へぇ。そうなんだ。いつも混んでるし人気なんだろうな。今度行ってみよう。常連さんの地元の情報ってのはいいですね。ためになりますw

基本的には60代、70代のお父さんたちがメイン。チラホラと40代前後の方もいらっしゃいます。そして、20代後半と思しき青年は、この店のお孫さんかな? 威勢がよく、口は悪いけど人はいい、そんなお客さんばかり。とても賑やかです。

お父さんは銀杏をゆっくり丁寧に串に刺しています。お母さんは居間との境に腰かけ、お孫さんと思しき青年と談笑しています。表ではおばあちゃんたちが立ち話をしていたり、小さな子供と母親が過ぎ去って行ったり。そんな様子が見えると、お母さんはそのたびに呟きます。

「あれ、○○ちゃんね。ついこの前、お宮参りしてたのに」

「○○の奥さん、お元気そうね」

長年、地元を見続け、地元に見続けられてきた老舗。なんだろう。なんかいいんだよなぁ。初めて来たというのに落ちつくなぁ。

楽しくてすっかり長居してしまいました。会計は大瓶一本、緑茶割り二杯、おでん3種、焼きとん4本で1900円。いったいどういう計算なんだ!?w 600円+300円×2+100円×3+100円×4=1900円? おかしいだろ。安すぎw

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店に入る際はまだ少し明るかった目黒本町。店を出る頃にはすっかり暗くなっていました。すすまみれのお店の外壁は暗闇に隠れ、ボーッと看板の明かりだけが浮かび上がっています。

「やきとり 㐂作」

確かに喜びを作り出してくれるお店でした。

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