私は少々怒っています。TRYPEAKS(トライピークス)というビールなんですけどね。飲み終えた後、ググってみました。なんだよこれは、と。信じられない。
クラウドファンディングサイト・Makuakeでビールカテゴリ史上最大の調達を達成したとか、挑戦する人を応援するビールだとか、そんなオシャレで今どきな言葉のオンパレード。
知るか。
そんなことしか語れないの? これを飲んで、そんな言葉しか出てこないの? TRYPEAKSというビールを飲んで、まず書くべき言葉はこうだろう。
くっそうめぇな!
TRYPEAKSの味
詳細は後述しますが、TRYPEAKSブランドの第一弾はペールエール。「CRAFT BEER 01 PALE ALE」と銘打たれています。公式サイトでは「TRYPEAKS Ver.1」とも。ラベルは貼られていなくて、タグがついているのですが、ビールごとにタグが変わっていくそうです。ビールによって音楽がどうのこうのと、そんなこともあったような気がしますが、まあいいや。気になる方はググって。
しっかり冷えたTRYPEAKSを抜栓し、いつものアサヒのノベルティグラスに注ぎます。トクトクトク。この音。いいね。冷やし過ぎはだめ? ちゃんとしたビアグラスで飲むべき? けっ。
ペールエールにふさわしい淡い琥珀色。きめ細かな泡。香りは甘めです。まずひと口。
……ひと口が終わらない。ビールが口へ流れ込んだその瞬間、止めることができませんでした。2/3ほどを一気に飲みます。そしてひと息。
やべぇな。くそうめぇ。
飲みながら感じたのは喉に感じる清涼感。と同時に、パンの香ばしさが鼻腔へと漂ってきます。グラスから口を離すとフルーツのかすかな甘味。苦みも少々あるのですが、柑橘の皮のように甘味を補強する役割を担っています。
残った1/3をグッ。ほぉ。これは醤油だ。スタウトによく感じる醸造臭というかなんというか。一瞬、サミクラウス(復刻版ではなく)を思い起こさせました。サミクラウスは下面発酵なんですが。発酵の差は関係なく出てくるフレーバーなのかな。
後口にはほどよいアルコール感。何度だろう。5%? 普通か。もう少し高く感じるなぁ。
二杯目。泡の粒が唇に心地いい。ただ、口当たりはいいのですが、口内はササッと素通りさせない。甘味、香ばしさ、爽やかさが厚い層のように感じられます。けど、ひとたびビールが喉へと向かうと、爽やかにまた駆け抜けていく。
ストレートで風を切り、一気にシフトダウン。スピードを落とし、大きなGを感じながら体を地面にこすりつけてヘアピンを抜け、立ち上がりと同時にシフトを上げてストレート、最高速でダウンヒル。
ツインリンクもてぎのヘアピンを抜けるMotoGPのマルク・マルケス。そんな感じ。わかりづらい? いいのいいの。俺だってバイクに一切興味ないから。こういうのは雰囲気w
丸みがあってふくよかなんですが、優しいというわけじゃない。力強さを感じさせます。重厚。うん、ここまでしっかり主張して、製造者の意図がはっきりと伝わって来るというのもすごい。改めて書こう。くっそうめぇな!
実は私の連れがTRYPEAKSのファウンダーと友達で、そんなつながりがあって2本頂いてきたのです。
「これすごいよ」
「あ、そう」
「いや、これはすごいって」
「伝えとくよ」
「違うんだよ。ここ最近、ビールでこんなに感動したことなかったんだって。これやばいって」
「『おいしかった』と伝えておけばいいんでしょ?」
「だーかーらー! 『これはすごい』と!」
「はいはい」
酒が一滴も飲めない連れには、どうもこちらの気持ちがうまく伝わらないようで。
ビールでここまで感動できたのはいつぶりだろう。これはいいビールですよ。ほんとうまい。すごい。もしビールが好きなら、ぜひ一度、試してみて下さい。公式サイトから購入できます。
TRYPEAKSの生まれた背景とコンセプト
2018年4月に酒税法が変わったということも一因となり、最高のビール作りを目指そうと考えたIT実業家・山口公大さん。自身が創業したSprinklrの日本支社を退社し、TRYPEAKSを立ち上げました。
2018年8月、クラウドファンディングサイト・Makuakeでプロジェクトを開始。開始後2時間半で目標金額の100万円を達成。プロジェクト終了日の2018年10月9日には5,623,700円という同サイトのビールジャンルで最高額支援を集めます。
さて。
サムライサーファービールというクラフトビールを作っている日本ビール醸造株式会社。同社はオリジナルブランドビールの製造もやっていて、小ロットでも地域ブランドのビールや記念ビールなどを作ってくれます。
詳細は不明ですが、山口公大さんも日本ビール醸造(株)で、オリジナルビール・TRYPEAKS 第一弾を作っていきます。
TRYPEAKSのコンセプトは
新しい自分に気づいた時、抑えこんでいた自分に正直になれた時、仲間と一致団結した時、…etc. TRYPEAKSビールは、そんな一歩を踏み出した瞬間にこそ飲んでほしい、人の挑戦を応援するクラフトビールです。
TRYPEAKSの特徴は原料の種類、量などを変更しながら、ビール自体も変化させること。第一弾となるペールエールは国産ホップを使い、強い香りを出すことを意図しています。
2018年11月7日、こうして第一弾のTRYPEAKSがリリースされました。
TRYPEAKSは"コト"じゃない、"モノ"なんだ
そりゃストーリーも大切さ。作り手の想いも、それに共感する輪も重要でしょう。けど、そっちばかりというこの状況ってどうなのよ? だって、ビールが好きな僕たちにとって一番大切なのはグラスに注ぐ音、グラスから立ち上る香り、口にした瞬間の幸福感・感動でしょ?
なのに、ネット上には味に関するレポートが皆無。オサレなITっぽい言葉が躍り、コンセプトやらこだわりやらだけが語られるのみ。一度「TRYPEAKS」でググってみてよ。あるいはtwitter検索でもいいけどさ。味のことなんてほとんど触れられてないんだから。これがいわゆる"モノ"から"コト"ってやつ? そっすか。
ブランドをディスってるわけじゃないんです。ブランドは熱い想いを語ればいい。調達を得るには"コト"も必要でしょう。けど、メディアとしては想いもさることながら、まずはサービスであったり商品であったりを見なきゃいかんだろうと。その上で、というさ。
少なくとも私は"コト"を遥かに凌駕する"モノ"としてのTRYPEAKSに魅力を感じました。TRYPEAKSの味の頂(いただき)に立つと、"コト"が霞んで目に見えない。