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紅葉屋(武蔵小山)のとん平焼きと餃子にしびれ、もやしとラー油に驚愕。不器用に、だけど目いっぱいの愛を伝えようとする店の姿に感動しました~博水社の「ハイサワー特区」という奇妙な企画

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武蔵小山駅から徒歩10分弱。学芸大学駅からだと20分ほどかかりますが、目黒郵便局からだと10分くらい。都道420号(補助46号線)沿い、平和通りのすぐ近くにある居酒屋・紅葉屋(もみじや)。

ずっと以前から行きたかったのですが、ようやく行くことができました。詳細は後述しますが、ハイサワー特区というのも私の背中を押してくれました。

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実は意外と歴史は浅く、オープンしたのは2014年。けど、雰囲気はレトロ。こじんまりとした店かと勝手に思っていたのですが、結構広いです。カウンター10席ほど、テーブル3席、さらに小上がりまであります。年末ということもあってか、とても賑わっていました。テーブルと小上がりは忘年会含みの飲み会かな?

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メニューがとても多い。迷った挙句、とん平焼きと自家製という餃子(しそ入り)をお願いしました(追記:自家製と書いてあったか、そうおっしゃっていた記憶があるのですが、もしかしたら自家製ではないかもしれません。追記以上)。

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一杯目はもちろんハイサワー(レモン)。ぴったり一本を使い切り。甘くて酸っぱいハイサワー大好き。

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その日にいらっしゃったのは、ご主人、奥様と思しき女性、もう一人女性。テキパキと動く店員、次から次へとやって来る客、隣のうまそうな牛モツ鍋、有線から流れてくる演歌、待っている間もなんだか楽しい。

「大変お待たせしました。すぐにラー油などをお持ちしますね」

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大ぶりな餃子です。まずは何もつけずにひとつ。ふあっ。うまっ。やばっ。肉々しくて下味もちょうどいい。ほのかなしその香りもいい。こいつはすごい。

「ラー油お待たせしました」

ほう。壺だ。開けてみて驚愕。

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これは……。自家製だ。底に沈んだ"具"をたっぷりと取り出し、ラー油だけを食べてみました。あああ。まじか。激ウマ。

醤油も酢もいらない。塩味(えんみ)もしっかりある、ニンニクのパンチがきいた香ばしいラー油。ラー油だけで餃子を食べ進めます。止まりません。あっという間に平らげてしまいました。皿を下げにやってきたお姉さんに聞いてみます。

「餃子もおいしいんですが、このラー油、めっちゃうまいですね」

一瞬、ハッという表情を浮かべたお姉さん。

「ありがとうございます」

「これって自家製ですよね」

「はい、すべてマスターが作ってます」

ラー油を使いそうなメニューは餃子以外には見当たりません。餃子のためだけにラー油まで作ってるのか!? すごい。

続いてとん平焼きが来ました。

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甘めのソース、マヨネーズ、カツオ節、少しダシを使っているであろう玉子と豚バラ。極上です。とんでもないおいしさ。玉子が丁寧に巻かれているのも見逃せない。

でも、私をさらに驚かせたのはもやしです。ひと口食べて箸が止まりました。うそだろ、と。塩・コショウで炒めているのかと思いきや、もやしにもダシが使われています。炒め具合も絶妙。うまい。

先ほどのラー油を少し多めに取っておきました。こいつと一緒にダシのきいたもやしをシャクッ。なんじゃこりゃ。うまっ。

とん平焼きをワシワシ食べていたら、お店のお姉さんが隣の客にこう説明しているのが耳に入って来ました。

「はい、自家製の厚揚げなんです」

……。

たとえばピザ。のりしらすピザ、さばマヨピザ、納豆ピザ、ふわふわ玉子ピザと4種もあります。そんなに必要? 常連さんの要望に応えていたら、いつの間にかメニューが増えたということもありえます。けど、たぶんそれだけじゃない。

市販されているラー油が出て来ても、誰も文句は言わない。厚揚げだって普通にスーパーで売ってます。もやしは塩・コショウで炒めたっておいしいです。料理が好きだからこだわってる? それもあるかもしれません。けど、たぶんそれだけじゃない。

一人で調理場を回すにはバラエティに富み過ぎているメニュー。そこまでやるか?と思わせるほどの手のかけよう。

不器用なんだなきっと。

食べれば腕があることはすぐわかります。料理はどれも超うまい。そして上手。混み合っていたので、料理が出てくるのに少々時間はかかりましたが、見ていると手が遅いわけじゃない。むしろちゃっちゃかと料理を作っていきます。ですから、調理という点で不器用ということではありません。

もっとメニューを調整すれば、もっと楽にスピーディーに料理を出せるはず。もしかしたら儲けだって増えるかもしれない。たとえば、メニュー数をグッと絞ったり、あらかじめ仕込んでおいてサッと出せる料理をもっと増やしたり、市販品で済ましていい部分は市販品を使ったり。でも、そうしない。

ちゃんと作った料理を、ひとつずつ丁寧に出したい。これもおいしい、あれもおいしい、だから全部食べてほしい。お客さんに喜んでほしい。その心が前のめりになり、手が抜けない。だから不器用。

結果、どんどん過剰になっていきます。料理の内容もメニューの数も。もしかしたら自身がしんどくなるかもしれないんだけど、それを厭わない。ここにあるのはただひたすら愛。

お勘定をしてもらったら、ハイサワー缶を1缶くれました。

「いまキャンペーンをやっていまして」

「ありがとうございます。ごちそうさまでした」

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もっとうまくやろうと思えばできるかもしれない。けど、そうしない。そうできない。不器用に愛を伝えることしかできない「紅葉屋」。その愛はあまりに深く、そして澄んでいました。

SHOP DATA

博水社の奇妙な企画「ハイサワー特区」

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博水社公式サイトより転載(2016.11.08時点の加盟店)

お酒の割り材「ハイサワー」を製造・販売しているメーカー・博水社。2016年11月8日より、博水社は「ムサコ・ニシコ ハイサワー特区」という企画を開始しました。

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武蔵小山の平和通り商店街を少し入ったところに、博水社の本社があります。そんな博水社が武蔵小山、西小山界隈のハイサワー、ハイッピーを提供する店と提携し、提携店へ販促グッズを提供、来店者には店からステッカーやハイサワーなどをプレゼントする、というものです。「紅葉屋」も当企画に賛同している店のうちのひとつ。ですから、ハイサワー缶をもらえました。

不思議な企画です。ハイサワーは今や日本全国に流通している商品。博水社は全国規模の企業です。本社のある地元とはいえ、この地域の昔ながらの居酒屋を盛り上げたところで、企業としての利益がそう増えるとも思えない。

なんで武蔵小山、西小山にこだわるんだ?

(前略)そうしたブームを追い風に、「ハイサワー特区」の設立で、「レモンサワーの元祖割り材“ハイサワー”と、ほんのりレモンが新感覚の“進化系”のビールテイスト飲料“ハイッピー”を飲める“街”」としてムサコとニシコを売り出します。古き良き昭和レトロな酒場や地元に根付いた小さな個人商店の魅力をアピールし、夜の来街者を増やす狙いです。特に大規模再開発が進む武蔵小山駅周辺には赤ちょうちんの店が大幅に減りました。地元飲料メーカーとして、古き良き酒場風情を、飲食店と共同で、残したい考えです。

出典元:博水社/報道資料「駅前の大規模再開発が進む武蔵小山エリアで「昭和レトロな酒場風情」を残し若者にアピール!飲食店と共同で、ハイサワー誕生の地に「特区」を結成」(PDF)

なるほど。ここでもやっぱり愛。地元愛、"古き良き酒場風情"愛。儲け云々じゃなくて愛がそうさせてるんだろうな。

博水社の社長は田中秀子さん。有名な方です。そして、ともすると敏腕女社長なんてイメージで語られたりもします。もちろん、商才もおありなのでしょう。けど、おやりになっていることは、いろいろ拝見している限り、泥臭いっちゃあ泥臭い。もちろんいい意味で。

なんか、「紅葉屋」のマスターと田中秀子社長の人柄がかぶって見えます。お会いしたことはないし、話をしたこともないのですが、勝手な想像でなんとなく。