※2019年12月20日に閉店しました
目黒川沿いに並ぶ大樽・いろは寿司。この辺りに来たことのある人なら、誰もが目にしたことのある風景でしょう。かく言う私も、界隈に10年ほど住んでいたので、数え切れないほどここを通っています。
でも。
大樽といろは寿司の間にあるこの店は、私の目には飛び込んで来なかった。そして、誘われなければ恐らく入ることもなかったはず――そう考えると身震いします。こんなに素晴らしい店と出会うことがなかったかもしれないのですから。
中目黒駅から徒歩3分。目黒川沿いにある和食系居酒屋・nicori(ニコリ)。2012年2月にオープンしたそうです。うーん、まだこっちに住んでた頃だ。まったく気付かなかった。いや、もしかしたら気付いていたかもしれないけど、この外観を見て「これは俺の範疇じゃない」と安易に判断していたのかも。ああ、なんてもったいないことをしてたんだ。
学芸大学にあったワインバー・まるだ。のオーナー・みえさんと、あれやこれや用事があって、「私の知り合いがやってる店で待ち合わせましょう」と言われ指定されたのが、ここnicoriでした。nicoriのオーナー・"おーちゃん"こと岡田智子さんとみえさんは高校の同級生。
店内はゆったりとしたカウンター席と、二人掛けのテーブル席が2、3。一升瓶が並んでいるので、居酒屋っぽさが出ていますが、それがなければ、小洒落たイタリアンって感じ。
店にいるのは店主・岡田さんと料理担当のイケちゃん。二人は夫婦ではありませんw 以前、同じ店で働いていたことがあって、岡田さんがnicoriを出店してしばらくして、料理人を探していた時、ちょうどイケちゃんも次の店を探していたかなんかで、誘ったそうな。
席料・チャージの類はありません。犬連れOK。
「犬と一緒に行けるお店を作りたかった」
犬好きの岡田さんはそう言います。この日も犬を連れたお客さんがいました。ただ、あまりにうるさかったり、何頭も連れているような場合は、ご遠慮頂くこともあるとか。
メニューは基本的に和。オーソドックスなものもあれば、「これなんだろう」と思わせるものも。〆も充実してますね。
一品目はみえさんがぜひと勧めてくれた豆苗とのりのマヨ和え。なんじゃこれ。超絶うまい。韓国のりなのでごま油もきいています。ほんのりとマヨが絡み、食感はシャクッ。でたらめにおいしいです。これは絶対マネしてみよう。
小瓶のビールを少し飲んだ後は熱燗。越の誉(原酒造)。自分ではあまり熱燗は頼まないのですが、たまにはいいね。ほっとする。そして片口がいいやね。
天ぷらの鎌倉野菜盛り(にんじん、カリフラワー、あやめカブ、紫いも、オレンジズッキーニ)。どの野菜も甘みが強い。ホクホクとした野菜にカリッとした衣。最高。
高さのある巨大なかき揚げ。カリッ、サクッとした衣、桜えびのうまみと香ばしさ。これはえげつない。まっじでうまい。極上。
天ぷらもかき揚げも、ふたつに切り分けてくれています。こういう気遣い素敵。
もし、天ぷらとかき揚げで迷ったら、私はかき揚げをお勧めします。鎌倉野菜も素晴らしいのですが、このかき揚げはやばいです。ただし、本当に大きいのでご注意をw
「ここの前は和食を?」
「もともとはイタリアンで、その後、和食の店でやってました」(イケちゃん)
物静かで淡々と話すイケちゃん。ひょろっと背の高い坊主頭。筋肉質ではありますが、痩せているので、お坊さんのようw
「それにしても、こんな所によく出せましたね。前店が閉まった後、競合がいっぱいいたんじゃないですか?」
「本当はもっとあっち(ドン・キホーテ方面)で物件を契約してたんですが、それが突然、反故にされて、さすがにそれはひどいと文句を言ったら、情報が表に出る前に、代わりにってわけでもないんでしょうけど、ここを紹介してくれたんです。正直、家賃は高くなっちゃいますが、場所はいいので、ここでがんばってみようと」(岡田さん)
岡田さんはもともとスポーツ系メーカーのOLをやっていて、その後、恵比寿でbevというワンコインバーやcabanaというカリフォルニア・キュイジーヌのお店をやってました。ガーデンプレイスのすぐ近くです。
cabanaで料理をしていたのはSPAGO(スパゴ)出身の方。そして、学芸大学にあったそばを出すフレンチとして有名な尚古庵の店主が当時、cabanaで働いていたのだとか。尚古庵は閉店して、現在はCK's Kitchenというカリフォルニア料理の店になっています。おやぁ?
「尚古庵のあとにオープンしたCK's Kitchenもカリフォルニア料理なんですよ」
「じゃあ、尚古庵とCK's Kitchenは店主同士つながりがあるのかもしれませんね」
帰って調べてみたところ、「CK's Kitchen」の店主・ 加藤政勝さんもSPAGO(スパゴ)出身でした。いやはや。こりゃまた。単なる偶然とは思えない。岡田さんが言うように、なにかつながりがあるのかもなぁ。
ところで、SPAGO(スパゴ)は六本木にあったカリフォルニア・キュイジーヌの店です。1983年にオープンして、2005年に閉店しました。バブル世代には懐かしいお店だと思います。
SPAGO(スパゴ)は1982年にカリフォルニアで創業しました。これを日本に持って来て運営していたのが、超巨大飲食グループ・WDI(1954年設立)。海外の人気店と契約して、フランチャイジーとして日本(一部はハワイや東南アジアなど)で店舗を展開するというビジネスで大成功を収めています。カプリチョーザ、ハードロックカフェ、ババ・ガンプ・シュリンプ、巨牛荘、トニーローマ、AQUAVIT(アクアヴィット)、ウルフギャング・ステーキハウスなどもWBIの運営です。
鳥の唐揚げはほのかに甘く、しょうがが控えめに香ります。衣はサクッ、身はジューシー。うまいなぁ。最近、唐揚げの奥深さに参ってます。
砂肝とキノコのにんにく炒めは、これまでとは打って変わって、がっつりパンチの効いた味付け。酒が加速します。
ビール、焼酎、日本酒、ワインとひと通りお酒は揃っているのですが、なんだか珍しいお酒が目立ちます。
山口酒造場(福岡県久留米市)のうぐいすとまり 鶯とろ(おうとろ)。「うぐいす and まり」ではなく「うぐいす止まり」。梅のピューレが混ざっていて、かすかにとろみがあります。濃厚。
麦焼酎・一粒の麦。芋焼酎・富乃宝山、吉兆宝山の西酒造(鹿児島県日置市)が手がける麦焼酎です。鹿児島の芋焼酎メーカーが麦焼酎とは。変に樽で味付けしてない、麦のおいしさがしっかり出ている、すっきりとした飲み口の麦焼酎です。
山田酒造(奄美大島)の黒糖焼酎「長雲 一番橋」。コクはあるのですが、たるくない。
浪乃音酒造(滋賀県大津市)の「PREMIUM GINGER(プレミアムジンジャー)」。
「これは珍しくてなかなか売ってないんです。あっちの、もともとEXILEショップ(EXILE TRIBE STATION)があった場所にできた酒屋で仕入れました」
「あー、名前なんだったっけ。おしゃれ酒屋ですよねぇ」
中目黒 伊勢五本店でした。
かぼすと生姜のリキュールです。ひと口飲めば、これがいかに丁寧に造られているかがわかります。しょうが感よりかぼすの香りが前に出ていて、爽やか且つふくよか。めちゃうまい。アルコール度数が8%なので、お酒に弱い方でもいけると思います。
どれもおいしかったのですが、このセレクトがいいですよねぇ。「これはどんな味だろう」と瓶を見ているだけで楽しい。
あっちの酒、こっちの酒を飲みながら、同級生二人の会話に耳を傾けます。女二人、とにかくまあよくしゃべるしゃべるw
私は同じ中目黒のトマトキッチン ヤネウラを思い出しました。なんか似てるんです。出す料理も店の雰囲気もまったく違うのですが、こちらに伝わってくる何かが似てる。なんだろうなぁ。女性店主のサバサバ、ハキハキした感じが似てるのかなぁ。この感じがなんかいいんだよなぁ。さっぱりしてて、真っ直ぐで、すごく気持ちがいい。
岡田さんはゴールデンレトリバーを飼っていました。もう亡くなったのですが、店の看板犬として、界隈ではアイドル的人気だったそう。その犬の名前がニコ。いつもニコニコしていて、そこから店名をnicori(ニコリ)としたのだとか。
この後、学芸大学に戻りBar BULLBULL(ブルブル)へ行きました。
「中目黒でみえさんと飲んで来たよ。目黒川沿いのnicoriって店」
「知ってる! お店には行ったことないけど、ウチのポン君(BULLBULL店主・マミさんが飼ってるフレンチブルドッグ)とママさんのゴールデンが仲良くて。犬友なの」
「ええ? まじ? すごい偶然だ。けど、そのワンちゃん亡くなったんだって」
「えええ! そうなの!?」
「お店、すっげえよかったから、今度、行ってみなよ」
まさかこんなところにも、こんなつながりがあったとは。
シンプルに見えながらも、しっかりと技のきいた、センスのよさを感じさせる料理の数々。あまり目にしない珍しいお酒。どれもこれもおいしかったなぁ。けど、そのおいしさ以上に、二人がとても素敵でした。
知り合いの知り合いの店ですから、手心を加えてると思う方もいるかもしれません。けど、行けばわかります。内容に偽りも誇張もないと。むしろ、私の書き方は抑え気味だと。
酒肴盛り合わせがあるので一人でもいろいろ食べられます。友達とのちょっとした飲み、デートでも利用できます。外観も内観もかわいい洋食屋のような雰囲気で、女性でも入りやすいと思います。機会がありましたら、ぜひ一度。
SHOP DATA
- nicori(ニコリ)
- 東京都目黒区上目黒1-5-13 メゾン中目黒1F
- 03-3715-1753
- 公式