某バーで知り合った方が自宅(鹿児島県)で珍しい酒を漬けていると話していました。
「芋焼酎にニッケを漬けて飲むんだよ。これがうめぇんだ。裏庭のニッケをユンボで掘り起こして根を乾燥させて、1年くらい漬けるんだよ。手間暇かかる貴重な酒だってのに、ウチに来たヤツらがうまいうまいってロックでガンガン飲みやがる(笑)」
お父さんと会うたびに飲んでみたい、うまそうだと言っていたら、ペットボトルに入れてわざわざ鹿児島から持って来てくれました。
「○○さんがお酒持って来てるよー」
バーから連絡が入り、仕事をほっぽらかして急行です。挨拶も早々に、さっそく頂きました。
「これ、誰にも飲ませないからね。ひろぽんだけだよ」
貴重なお酒だというのに、ロックグラスにたっぷりと注いでもらいます。グラスを渡された瞬間、フワッとニッキの香りが立ち込めます。すごい。
飲んでさらに驚きます。もはや芋焼酎の名残は一切ありません。高級なリキュールのよう。加糖されているのでとても甘く、ニッキの豊かな香りが口内、鼻腔に充満します。あえてたとえるなら南天のどあめ。うめーー!
「これ一本あげるからさ、誰にも飲ませちゃいけないよ」
70くらいの初老のお父さん。足が不自由で杖も持っています。体が悪いというのに、諸事情あって鹿児島と東京を行ったり来たり。
そんなお父さんが、私のために大事なお酒をわざわざ持ってきてくれたんです。このお酒は確かにおいしい。誰が飲んでもおいしいと感じるでしょう。だけど、私は自信を持って言えます。この世の誰よりも、このお酒をおいしく感じられる、と。
お父さんは島娘という芋焼酎も送って下さいます。以前は島外に持ち出しを禁じられていたとも言われる島内(長島)限定販売の芋焼酎です。これもまたおいしい。
※冒頭の写真は某バーで撮影したものですが、このお酒はバーから供されているわけではありません
鹿児島のニッケ
ところで、ニッケ(ニッキ)はクスノキ科ニッケイ属の常緑高木です。和名は肉桂(にっけい)。だからニッケ。
ニッケ属の植物としては他に、クスノキ、シナモンなどがあります。シナモンとニッケは同じ? 違う? このあたりがちょっとよくわかりません。
ニッケはごく一部ですが日本にも自生しています。特に多いのが九州南部から沖縄にかけて。前出のお父さんも言っていたのですが、鹿児島ではニッケを「けせん」とも言い、けせん団子は古くから伝わる鹿児島の銘菓だそうです。
うーん、まがいものでもいいから、なんとか似たようなお酒を漬けられないかな…。調べてみよう。