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おでん くりこ(武蔵小山)のずっとしゃべり続ける81歳のくりこさんとダシのきいたべらぼうにおいしいおでんに凝る

「いらっしゃい。あら、初めてよね。どうぞ。ごめんなさいね、まだおでん温まってないのよ。お客さんとずっとしゃべっちゃって。早く食べたいわよねぇ。ごめんなさい。どうしてここに? 携帯とかで? 最近、多いのよ。携帯で見れるんだってね。私はよくわからないけど。みんなが勝手に携帯に載せるんでしょ? 私が頼んだわけじゃないのに。携帯じゃない? あ、そう。珍しいわね。こんなところにいきなり。でも、最近は若い方も結構来るのよ。こういうところが逆にいいって。こんなおばあちゃんしかいないってのにね。おかしいわよねぇ。どちらにお住まいなの? 学大の方? そんなところから、まあわざわざ。この辺はお店いっぱいあるでしょう。よく来るの? ああ、そう」

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武蔵小山のおでん くりこの扉を開けた瞬間から、ずっとこの調子。話している主は御歳81歳のおばあちゃん"くりこさん"。実際はこの5倍ほどはしゃべっていました。私はカウンター席に座り、ニコニコと「そうですか」と相槌を打つしかありません。そして、退店する約1時間半後まで、ずっとこれw

「おしぼりどうぞ」

この瞬間に隙を見つけ「瓶ビールお願いします」と注文します。

「瓶ビールね。どちらから?ってさっき聞いたわよねぇ。ごめんなさいね。もうボケちゃって(笑) こっちのほうでもいろいろ行ってらっしゃるんでしょ? けど、駅前、再開発っていうの? 全部なくなっちゃってねぇ。まあ、古い家ばかりでしょう。危ないから、仕方ないわよね。それに、あの辺は又貸の又貸だったりするところも多いでしょう。権利がどうなってるのか、よくわからないってところもあるはずだから、ここらで一度ね。昔はすごかったのよ。又貸するもんだから、いま誰がやってるかよくわからないでしょ。そうすると、一晩でパっとどっか行っちゃったりすることもあったんだって。だから、酒屋が嫌がるのよ。お金払ってもらえないんだもん。ウチに来る業者さんも、個人店には入れないって言ってたわね。けど、ウチは長いでしょ。姉さんところは特別だって」

くりこは創業44年。くりこさんが37歳の時からやってらっしゃいます。くりこさんは話しながらおでんを準備。あらかじめ煮ておいた、あるいは前日からの残りをおでん鍋に入れ、新しいタネも入れて。

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めちゃくちゃおいしいお通しをつまみつつ、くりこさんの話に耳を傾けます。

「朝起きて、下に降りてきたらもう仕事よ。ダシ取って、こして、ってところからでしょう。意外と大変なのよ。40代か50代の頃は、ちょっとゴルフにはまってね。流行ってたのよ。その頃は洗足の方に練習に行って、帰りに買い物して帰って来て、そのままお店やったりね。もうこの年になると、そんなの無理ね。それより昔なんて、毎日、築地よ。当時はスーパーなんてなかったから。築地で買い物して、終わったら弟に車で来させて運んでもらって、私は妹と銀座でお買いもの(笑) まだ築地川は護岸工事されてなかったのよ。けど、築地も移転だってね。場外はそのままだってんだけど、どうなるのかねぇ」

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おでんが煮えてきました。いくつかお願いします。頼んだのは、ロールキャベツ、大根、ちくわ、玉子、河岸揚げ、そして、くりこさんおすすめの桜エビの入った練りもの。すべて食べやすい大きさに切って出してくれました。

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ダシがしっかりきいています。まあおいしい。とにかくおいしい。なんぼでも食えるな。

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私が入った時には常連さんが二人いらっしゃいました。二人が帰るのとすれ違うように、若い男女(恋人同士ではなさそう)が入って来ました。男女もくりこにはよく来ているようです。

「ねぇ、この前来てたラグビーの人。そう、○○さん。あのあと、もう一度来てくれたのよ。いいわよねぇ。ほんと素敵」

「イケメン好きですもんね」

「そう。混んでる時は、イケメンじゃなかったら入れないわよ。いっぱいでーすって。座れるところあってもね」

「あの時は、いっぱいだったのに居間に通したよね」

「特別よ。常連とイケメンしか居間には通さないから」

奥には居間風の小上がりがあって、普段は物置代わりになっていますが、混んでくるとそこも活用されるようです。それにしても81歳にしてイケメン好きですかw お元気です。

「結局、結婚せずにここまで来ちゃったわね。いいのよ。結婚なんてしなくてよかった。面倒ったらありゃしない。家事をして旦那に食わせてもらうなんて、まっぴらごめんよ。あら? 飛鳥行くの? だったら電話しときなさい。入れないわよ。くりこの客だって言やぁ大丈夫よ」

男女は寿司屋へと向かいました。おそらく、都道420号を戸越銀座方面へずっと南下したところにある飛鳥寿司かな? 随分と評判のお店だそう。機会があれば行ってみたいな(※2019年か2020年頃に閉店)。

お店は私とくりこさんの二人だけとなりました。くりこさんは常連さんにもらっていたビールを飲んでいます。

「お客さんともたまに飲みに行くのよ。最近よく行くのは寅圭。あそこはいいわね。働いてる方はいい感じだし、見回すと、お客さんがみんないい表情をしてるのよ。楽しそうで。私はそれほど飲めないんだけど、あそこはいいわねぇ」

寅圭は(株)オープンダイニングが運営する飲食店の内のひとつ。学芸大学、自由が丘にあるタイ料理屋・ピーマイも同社が運営しています。勢いのある会社ですねぇ。

それにしても、なぜゆえに37歳でおでん屋を始めようと思ったのでしょう。

「ここ自宅なのよ。もともとは家具屋で、それを手伝ってたの。お勤め経験はまったくなかったの。だけど、親が亡くなってね。家賃とか入るから、食ってはいけたんだけど、やることないから暇でしょう。だからね、化粧品屋か雀荘かおでん屋をやろうと思ったの。化粧品屋は当時、資生堂でしょ。売り上げの40%持って行かれるってね。それはちょっとねぇ。雀荘はうるさいでしょ。当時は自動卓じゃなかったから、ガチャガチャねぇ。だからこういうお店にしようって思ったんだけど、焼き鳥屋だとベトベトになるじゃない。あと、お友達が『くりこさん、やるなら"コレ"ってはっきりわかるようなお店がいいよ』って。だからおでん屋にしたの。最初は大変よ。お店どころかまともに働いたこともなかったから。勝手放題生きてきたからさ。まあ、今でも勝手なんだけどね。口が悪くてしょうがない。昔は威勢のいいときもあったのよ。『勘定はいいから出て行け!』ってやりあったりね。ほんとよ? おでんったら冬のイメージなんだって。熱いから。だけど、あんた夏にラーメン食べるじゃないの!って。ねぇ(笑)」

もっともっといろいろお話をうかがいました。とても楽しかったです。そして、数日経ってもこうして文字に起こせるということは、それだけしっかりお話しになっていたから。すごいなぁ。

お会計をお願いすると、そろばんをはじきました。

「ごちそうさまでした」

「これに懲りずまた来てね」

途切れることなく、ずーーーっと話し続ける元気でかわいいくりこさん。べらぼうにおいしいおでん。優しいご常連。いったい何に懲りるというのか。くりこに"凝る"ってのならわかるけど。これからもお元気で。ずっと続くことを願います。また近いうちに行ってみよ。

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