肝臓公司ロゴ

島原手延そうめん 鬼塚林之助(販売:カドヤ)は優しくて品のある素麺なんですが食べごたえもありました~素麺がつなぐ島原と三輪の深い関係/島原手延素麺の活路

kadoya-shimabara-somenの画像

島原手延そうめん 鬼塚林之助(長崎県南島原市)。とほぼ同等品だと思われる素麺です。

kadoya-shimabara-somenの画像 kadoya-shimabara-somenの画像

前回の藤塚瑞穂(鶴の糸)同様、この素麺もカドヤ(株)が販売している手延素麺 めんくらべ 島原 播州 小豆島という3種セットの内のひとつ。3種の素麺それぞれに関する詳細は記されてないのですが、素麺を束ねている束紙には"林"のマーク。このマークで鬼塚林之助とわかりました。

kadoya-shimabara-somenの画像

※2022年5月23日追記。食品衛生法の食品表示制度が変わったことにより、島原手延そうめん 鬼塚林之助の製造所として「鬼塚林之助(鬼塚製麺)」が記載されるようになりました。鬼塚製麺の所在地は長崎県南島原市北有馬町戊2629。これとは別に鬼塚鉄次郎製麺工場というものもあります(長崎県南島原市西有家町須川605)。両者に関係があるのかどうかは不明です。

kadoya-shimabara-somenの画像

※追記:これはオオゼキ 祐天寺店で販売されていた島原手延そうめん 鬼塚林之助 寒製。こちらも販売元はカドヤです。セットの素麺と単品の素麺で太さや製造時期などが同じかどうかは不明なので、「ほぼ同等」と考えておきます。

kadoya-shimabara-somenの画像

※追記:2024年3月現在の単品パッケージはこんな感じです。追記以上

茹でる前は細めです。香りも柔らかい。いい素麺であることを予感させます。茹で時間は3分くらいと書かれていますが、さすがにこれは長すぎでしょう。素麺の細さから判断して、1分15秒で上げました。

kadoya-shimabara-somenの画像

優しめではありますが、プチッという歯切れが心地いい。小麦の風味は強くはないのですが、爽やかさを感じさせます。かといってあっさりしているわけでもありません。穏やかではあるけど食べごたえのある素麺です。

二回に分けて食べてもよかったなぁと後悔。これなら茹で時間1分でも試してみたかった。そうするともう少し強い歯切れが得られていたかもしれません。

いずれにせよ、とてもおいしかったです。品を感じさせる素麺でした。

DATA
名称島原手延そうめん 鬼塚林之助
原材料名小麦粉、食塩、食用植物油
販売者カドヤ株式会社
評価★★★★☆

素麺がつなぐ島原と三輪の深い関係

素麺の起源と産地偽装問題

諸説あるようですが、素麺の発祥は奈良県の三輪(奈良県桜井市)とされています。奈良時代、遣唐使が中国から持ち帰った唐菓子がその起源で、827年に日本最古の神社・大神神社(おおみわじんじゃ)で手延べ素麺が作られたという記録が残っています。

江戸時代になり、その製造技法とともに三輪そうめんが日本全国に広がります。播州、淡路、半田、小豆島、島原などなど。小麦の生産が盛んだったということ、大神神社を分祀した神社があったということなどが、これらの地域で特にそうめん作りが栄えた要因と考えられています。

話を一気に進めましょう。1960年頃、高度経済成長期。そうめんの需要増大に追いつけず、発祥地ではあるけど規模としてはそれほど大きくなかった三輪は外部に素麺の製造を委託します。それが長崎県の島原です。つまり、島原で作った素麺を三輪そうめんとして販売していたということです。

1982年当時、三輪素麺としての年間販売量は、約60万箱であった。このうち約50万箱は島原産であり、三輪での生産は約8万箱であった

出典元/地域における特産品を取り巻く課題-「揖保乃糸」と「三輪素麺」を事例として-(石川和男)

ブランド力はあるものの生産力が追いつかない三輪。生産力はあるけど販路が限られていた島原。両者の利害が一致していたとも言えるでしょう。

もちろんこれは産地偽装なんですが、1960年代、70年代頃の日本においては、生産者側も消費者側も産地を偽装しているという意識すらなかったかもしれません。

ところが時代は変わります。問題になり始めたのは1980年代に入ってから。食品の品質表示基準が改正され、島原で三輪そうめんの製造ができなくなりました。以後しばらく、三輪、島原ともに素麺業界は苦境に立たされるわけですが、それぞれが業界として奮闘し、今では三輪素麺、島原手延素麺というブランドを確固たるものにしています。まあ、三輪のほうではいざこざがあれこれあった(ある)ようですがw

以上のように、単に三輪から島原へ素麺技法が伝わったというだけでなく、"三輪素麺"を島原が支えていたという歴史があり、両者には深い関係性があるということです。

島原手延素麺の活路

そりゃ偽装はよくないのですが、35年以上前のことで、しかも偽装により何か大きな実害がもたらされたわけでもなく、そのことをいま、とやかく言うこともないでしょう。それよりも"三輪素麺"を作っていたことにより、島原の生産者数が増え、その質が上がったとポジティブに私は捉えたい。その証拠に……。

kadoya-shimabara-somenの画像

起源の三輪。生産量で群を抜く播州。オリジナリティの小豆島。これが素麺の3大生産地。島原は一歩遅れているようにも見えますが、実はスーパー等のプライベートブランドとして島原手延素麺が数多く採用されています。Vマーク VALUE PLUS(東急ストア等)の素麺もそう、情熱価格(ドン・キホーテ)の素麺もそう。今回の「鬼塚林之助」だって、大手企業(カドヤ)と提携したOEMです。

※もちろん、個別ブランドとしてもがんばってます

三輪と袂を分かち、みずからが生き延びていくための活路をどこに見出したかというと、大手と組むことによって、その莫大な生産力を活かそうとしているわけです。結果、私たち消費者は安くておいしい島原の手延べ素麺を手軽に味わえるようになりました。

経験に基づく個人的な感慨ですが、アベレージでは播州、小豆島より島原のほうが上。三輪の次が島原だと思ってます。次回、素麺を買う際、ちょっと産地を気にしてみて下さい。もしあれば島原の手延べ素麺を選んでみて下さい。いいですよ~w